第17話

「ねえけい、何か面白い話ないの?」

ひたすら続く街道を歩きながらアムリタは私に声を掛けてくる。

こうして歩き続けること五日間、一向にこの旅が終わる気配が見えて来ない。

「こうしてお前が聞くのも何回目だ!?口を動かすなら新しい情報をくれ!」

私も我慢の限界が近づいてきている。

アムリタの美貌に惚れてしまったあの日の自分を恨んでいる。


彼女はあれからほとんどの情報を私に与えてくれていない。それは即ち、私はほとんどノーヒントの状態で見ず知らずの場所を探しているようなものなのだ。彼女の記憶の中を探っても得られる情報は皆無に等しい。


アムリタは私のことをじっと睨んだ。

彼女の知性はつい先日から後退していると感じざるを得ない。


一本道に乾いた北風が吹き付ける。この暑さに丁度いい。

草木は静かに揺れ、乾季がもう訪れに近いことを知らせている。


「なあ、あのって奴らは、こんなところまでついて来るもんなのか?」

「どっっこまでもついて来るわよ。私は気が向いたら構ってあげてるけど、」

「じゃあ、この大草原の中に隠れているかもって話なのか?」

「ホント、どこにでもいるわよ。別に私が気にしてもしょうがないわ。でも、卿は気を付けてよね。人質になんて取られちゃったりしたら面倒だから」

彼女の言葉で、私は現在の自分の弱さを再確認させられた。

(一時は北域の覇者とまで言われていた男の名も廃ったな…)


ナーガルモンの宿でのそれ以来、襲撃は一度も訪れていない。


街道を行き交う行商人に挨拶をして布施を恵んでもらう。少し申し訳ない気持ちになるが、貰えるものは貰っておく。

(結局こうしてもらった食料も皆、あの食いしん坊が食っちまうんだけどな。)



夜が訪れる。

私は野宿の準備を始めた。布を地べたに敷いて布施としてもらった食べ物を置いていく。

「わあ、なにこれ!すごい!」

アムリタが見たことのない果物を見つけてはしゃいでいる。

微笑ましい光景を前に、私は芋についた泥を払ってかぶり付いた。

(やはり硬い…)



それでもこの旅は、私が祖国を捨てて渡ってきたあの砂漠の旅路に比べればマシなものだった。

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