第13話

私は部屋を飛び出した。そこにはアーシャの姿があった。

「礼明、そんな急い..」

「今すぐ逃げるんだ。ここは危ない」

「どうしたのよ突然?!」

「早く逃げるんだ!」

私は乱暴にアーシャを抱きかかえた。

「えっ、ちょっと、何するの?!」


階段を大急ぎで降りる。この建物はせいぜい3階建てだ。空いていた最上階の部屋を使わせてくれたのだろう。

(倉庫にずっと昔、この街に来た頃に預けておいた武器がある筈だ。)


「アーシャ、倉庫に入れるか?」

「いいけど何が起こっているのよ!?」

「今は説明している余裕なんてない」


完全に治った足。

有り余る力で地上階にたどり着いた。


「この建物の中にもう人はいないな?」

「ええ。...あとでちゃんと説明しなさいよ」

「わかっている。倉庫を借りるぞ」

アーシャを降ろす。その扉へと駆けていく後ろ姿を最後まで見送る。


私は入り口とはまた違う大きな扉に目をやった。

考えるよりも先に足が向かう。


扉を開けて埃っぽい倉庫の中に足を踏み入れた。

暗闇の中で一筋の光を放つ刃が目に入る。


腕はもう伸びている。


指はもうその柄に触れた。


掴む。


ずしりとくるこの重量感。

過去の自分の罪の重さを実感する。

私はもう一度強く、その柄を握りしめた。


關刀なぎなたよ、私はもう一度お前を背負うぞ。)


現実に戻る。上階から轟音が響いている。倉庫から出て地上階の様子を確認した。

(人はいないな。)

階段を駆け上がる。

私はアムリタのためにもう一度この刀を手にする。

何かを護るためではない。

何かを得るためだ。

(アムリタ、もう少しだけ近くにいさせてくれ。)



空いたままの扉。

中に見えるのは、一人の女と虐殺の光景。


「嘘だろ」


すでに十人、いやもっといるだろうか、黒い死体が転がっている。

それでも彼女は戦い続けている。


武器も使わず、妖術のような力を使って。


私は柄をもう一度だけ握る。

覚悟はもう決めている。




その部屋の中に私は突入していった。

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