第11話

寝台の上でアムリタを見上げた。


「さっきのことを詳しく説明してくれ。お前の『治療』についても含めて...全然話についていけないんだ」


「...ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」


「謝罪なんていらない。何が起こったのかを聞いているんだ。それだけは説明してもらう権利がある」


アムリタは少し黙った。

私は横になった体を起こす。

こころなしか少し軽くなった気がする。

その深緑の瞳と目があったかと思うと、アムリタは口を開いて語り出した。


「何から説明すればいいかわからないけれど...とにかく卿を巻き込んでしまった責任の一端は私にあるわ。それについてはまずここで謝らせてほしいの。

 今朝あなたを襲ってきたのは私の敵よ。名前を知ることさえ危険なの。とにかく『敵』ということにしておいて頂戴。

 彼らの目的は、彼ら自身の理想の完遂。それ以上でもそれ以下でもない。そして、その理想は今は語る必要はないの。

 そして、路地で私達を襲ってきたのも同じ『敵』よ」


私は彼女の言葉に耳を傾けていた。

不思議な話ではない。こんな娘がここにいることには、当然理由があったはずだった。それは『帰宅』などという簡単なものよりもっと大きな理由が。


「話してくれてありがとう、でもお前の話には肝心の部分の説明が抜けている。...お前のその怪力と『治癒』についてだ」


私は寝台に座っていた体から立ち上がった。窓に近づいて、服装を整える。


「...どうしても説明しなくちゃだめ?私はこれ以上、卿を...巻き込みたくないの...」


「それは無責任だ」


「私の持つ力について、詳しい説明はできない。秘密は守らなければいけないの。それに、卿が知ってしまえば、卿も危ない目に遭う」

「さっきから、何を言っているんだ。お前の言動は不可解なことばかりだ。巻き込みたくなかったのなら、今朝会ったときだって、なんで手を振り掛けたりした。…その、ホイホイとついていった俺にも問題があるが、本当に巻き込みたくなかったのなら、そのまま立去れば良かったじゃないか」

「それは…そうね…卿の言う通りよ。だから私が悪かったって言ってるの」

「いや、それは本心からの言葉じゃない」

「嫌な男ね。どうしてそう突っかかるのよ」

「何にもわからないんだ。巻き込みたくないならどうしてそう俺との関わりを保とうとする?」

「…」


アムリタは黙り込んでしまった。


彼女は昨日見た緑の装束に見を包んでいる。

沈黙するアムリタに、私はかける言葉を探した。


「その、、、今日も昨日と同じ服なんだな」

アムリタはすこしだけ目を見開いた。


おっとりした顔になって答える。

「ええ、そうね。今日も緑ね」


(ここで、会話を止めてはならない。)


「その色、似合ってるよ」



アムリタは笑みをこぼす。嬉しかったのだろう。


「そうね。この秘密ぐらいなら教えてあげてもいいかな」

そう言って彼女は寝台の横の椅子から立ち上がった。


太陽の下の小さな部屋の中身は月下の大きな密林に映った。


「これは、私の力の一部。幻想反射プラティビムよ」


私は絶句した。


月下の密林の二人

私と笑顔の中に憂いを湛えたアムリタ

まさしく女神の降臨を見る


月に謳うそのみどり

花に謳うそのみどり

水面に謳うそのミドリ


私は恋に落ちてしまった。

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