第10話

「王老師、意識はありますか?」


聞き慣れた祖国の言葉が耳に入る。

瞑った目を開きながら、そこに居た男の名を思い出した。

「...ああ、陽潜か」

「老師!」

陽潜は私の意識を取り戻したのを見ると、すぐさま胸元に飛び込んできた。

「おいおい、陽潜、どうしたんだ」

「はっ、すいません、取り乱してしまいまして...先程、老師が屋根から落ちてきたということを人伝ひとづてに聞いて、急いでやってきたのです」


部屋をぐるりと見渡した。

陽潜にアーシャ、それに正装に着直したアムリタまでいる。

...つまり、陽潜にアムリタとの付き合いがバレてしまったことになるな...

私は一分の後悔の念を心中に閉じ込めた。


そういえば、足の痛みは?

意識を失う直前、私は足に激痛を感じていた。

それが今では全く感じない。


「どうしたの?黙り込んで。まだ痛むの、礼明?」

アーシャの問に答える。

「すまん、そのことについて考えていたんだ。俺のこの足の痛みはどこに消えた?」

「そのことなんだけど...」


「私が治してあげたのよ」


部屋の隅にいたアムリタが名乗り上げた。

正装をまとい、いつになく落ち着いた声だった。

彼女は寝台の上の私に近づく。

髪は結び直したのだろうか、先程の簡単なものより段違いに複雑な結が施されている。

その姿はまさに王族、いや女神のそれであった。


陽潜はアムリタを睨んでいる。


私にも彼の気持ちは分からなくはない。

彼にしてみれば、こんな妖艶エキセンテリックに自身の師が施しを受けたことになる。

一人の弟子としては不快この上ないことだろう。


「ごめんなさい、少し卿と二人きりにさせてもらってもいい?」

アムリタは二人に尋ねた。


陽潜は「気を付けて下さい」と私に耳打ちをして、私を真名で呼んだ女を睨みながら部屋から出ていく。

アーシャも部屋の外で待っていると言っていた。

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