第3話
「私、仕事があってここに来たんだけど、帰り道が分からなくって」
彼女の言葉をすべて信じたわけではないが、困った様子だったのは見て取れることだった。私は一介の僧の身として見過ごせるわけでもなく、ナールガモンに彼女を連れて行くことにした。鬱蒼とした密林の中に一本伸びる獣道を行く。
あの化け物といい、豹変するオーラといい、アムリタは私の頭の中に多くの疑問符を打たせた。
「先の鬼はどこに行ったんだ?」
「鬼?……ああ、レーンコのことね。あれは鬼じゃないわ。あなた達風に言うなら、そうね、、「アスラ」ってとこかしら。あれ自体にに意思はないから、厳密に言うと全く別物なんだけどね」
私は頭の中にアスラ、「阿修羅」を思い描いた。私の描いたそれと先のそれの様相は大きく異なる。
「にしても先の卿の佇まいときたら、びっくりしたわ。レーンコの前じゃどんな人も泣いて逃げると思っていたけど、見かけによらず案外肝っ玉据わっているのね」
私は彼女の中にある私の印象が如何程のものなのか、多少気にかかることがあったが、それを尋ねたいという気持ちをぐっと堪えた。
「アムリタ、あと私はどうも真名で呼ばれることには馴れない。こればっかりは祖国の文化というものでね、初めにそう名乗っといてこう言うのも失礼だとは思うが、
「東方の人間は妙なことを言うのね。卿、あなたは両親につけてもらった大事な卿という名前があるの。どうしてそれを蔑ろにしようとするのかしら」
礼明もまた親からつけられたとは口が裂けても言えなかった。文化の違いというものはこちらが折れて初めて乗り越えられるものらしい。
「卿は、私が家に帰るの手伝ってくれる?」
彼女の豊満な胸が目下にちらつく。
風変わりな娘に頼られた私であった。
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