第14話
大口大介はふと目が覚めた。
どうやら記憶にはないがいつの間にか自分は寝てしまっていたらしい。
ここはどこかの部屋のようで大介はそこの床に横たわっている。
あたりは暗くぼんやりと部屋を照らす薄明かりだけが視界に入った。
「ここは?」
暗闇に目をこらし周囲を見渡すとここが例の階段下の懲罰房であることがわかった。
「あれ、俺どうしてこんなところに?」
記憶をたどってみるもこんなところに来た覚えはなかった。
(昨日は確かに自分の部屋で寝たはずなのに?そういえば、寝る前誰かが部屋を訪ねてきたような?)
けれどそれが誰なのかはどうしても思い出すことはできなかった。
そうこうしている間に目が慣れたのかあたりの様子がはっきりと見て取れるようになった。
「あれ、ここ懲罰房?」
そうここは、大口大介が密かに秘密基地のように使っている例の幽霊が出るという噂の懲罰房、いまわなかは物置として使用されているため様々な生活用品で溢れているため懲罰房というほど重々しいい雰囲気は感じられない。
大輔もそれで合点がいった、あたりがやけに暗かったのも階段下に作られてこの場所には窓というものが存在しないという簡単な理由からだったのだ。
扉の隙間から漏れる暖かな光に安心し体を起こそうとしたところであたりの異変に気づいた。
「うっ、く、くさい!」
あたりに立ち込めるのはむせ返るほどの灯油の匂い、床に倒れていた時は気づかなかったが体を起こすとそのあまりの臭いに吐きそうになる。
置いてあったストーブから漏れ出したのだろうか?
そんな疑問を抱きつつ大介があたりを見渡そうと立ち上がったときカタンと何かが倒れる音が響いたかと思うと部屋全体が赤く染まった。
「はっ?」
目の前に広がるのは天井まで燃え盛る炎、床に広がっていた灯油に引火したのかその火力はもはや抑えられないほどましていた。
「な、なんでこんな!と、とにかく逃げなきゃ」
ここにいたら死ぬ。
そう悟るやいなや大介の体は自然と扉の方へとかっていた。
(とにかくここから出たら誰かにしらして炎をどうにかしてもらわなきゃ)
そんなことを考えつつドアノブを回すと、
ガッと、絶望的な音が響いてきた。
「えっ?う、嘘だろ!オイ!!」
開かない、そう、扉はどれだけドアノブを回そうと一向に開こうとしなかったのである。
「な、なんで?どうして?!!」
再度回すがやはりドアノブは回らない。
大介の頭の中はもう真っ白になっていた。
「クソー!!!!!ふざけんなよ!!!開けよ!オイ!!!なんで開かないんだよ!!開けろ!開けてくれ!!ねぇ!!」
体当たりやがむしゃらにドアを蹴り飛ばしたりもするがやはり開く気配は一向にない。
「どうして、だ、だれ、ゲホ!」
助けを求めようと大声をあげようとした大介の喉に鋭い痛みが走る。
「の、のどが・・・」
あまりの痛みに声が出せない。
痛みの原因は簡単だこの部屋を覆う黒い煙と熱。
大介はここから抜け出そうと暴れるうちにそれらを大量に吸い込んでしまっていたのだった。
それがいかに致命的なミスだと気づくこともなく。
「なんで、こ・・・こんな・・目に。誰か、た、・・助けて。死にた・・く・・ない」
そう強く思う心とは反比例するように体の力はだんだんと抜けて雪意識も朦朧としてくる。
黒い煙がまるで死神、いやそれこそ死そのもののように、あの煙に巻かれたら自分は消えてしまうんじゃないかという風に思えて必死に煙りから逃げる。
そしていつの間にか最初と同じように床に倒れ伏せていた。
燃え盛る炎床は火の海天井は黒い煙に覆われている。
(ああまるで原初の世界だ)
大介はそんなことをふと思った。
かつての地球もこんなふうに真っ赤な世界だったんだろう。
生命の許されない死の世界。
ならおそらく自分もここで消え行く運命にあるのだろう。
そんな諦めが心を支配していき、それでもまだ生きたいと思う心が自然と自身の体の無事を確かめるために目を動かした。
どうやらまだ火傷などはしていないようだ。
そしてそこで初めて気づいた自分の右手に細い糸が巻きつけられていることに。
不審に思いその糸の先を見てみる。
糸は途中で燃えていたがどこにつながっていたのかくらいはなんとなくわかる。
その先にあったものは炎のなかに倒れるひとつの蝋燭台だった。
「はっ、はは」
その瞬間、大介は薄れゆく意識の中、この火事の真相にたどり着くことができた。
おそらくこの事件をしくんだ犯人は昨日のうちに大口大介の意識を何らかの方法で奪いここに幽閉、その際床に灯油をバラ撒き、その中心に火のついた蝋燭台を置いたのだ、細い簡単に燃える糸をくくりつけて。
そしてその紐の片側を大介の腕にくくりつけていた。
彼が目を覚ますと同時に糸が引かれ、蝋燭台が倒れる。
そうなればあとはこの有様だ。
もちろんここは元懲罰房、なかに鍵などはなく外から締めればもう完全に密室状態だ。
もちろんこんな状況自然に起こり得るはずがない、つまりこれは誰かが故意に大介の命を奪おうとしているということ。
「い、ったい・・・だれ・・がどうし・・て」
大介は枯れ果てた喉でそう呟く。
そして思うのだった、こんな目にあって俺は一体何のために生まれてきたんだろう、と。
「百合ちゃん」
鳩山静希はなるべく彼女、金城百合を驚かさないように優しく声をかけた。
金城百合はちょうどトイレから出てきたところだったようで白いハンカチで手を拭いているところだった。
端の方にさくらんぼの刺繍がされた可愛らしいものだ。
それが彼女自身の清純さを現しているようで鳩山はなんだか無性にそのハンカチを汚してみたくなった。
この少女の汚れの知らない体を自分のモノで染め上げる、そんな光景を想像し自然と腰から頭にかけて快感が巡る。
「どうしたんですか?」
天使のような無垢な顔、この顔がどう歪むのかそれが早く見たくて鳩山は少し強引に彼女の手を握った。
暖かく柔らかな感触が伝わってきた。
「えっ?」
「ごめん、百合ちゃん少し付き合ってくれるかな」
「でも、みんなが待っているんじゃ」
「みんなには僕が話したからさ、だから少し来てくれないかな?」
「はぃ・・・」
少し強引すぎたとも思ったが、日頃の信頼のたわものだろう、百合は少しためらいながらも了承した。
彼女を連れて行く場所は決まっている、施設の中庭だ。
この施設は上から見ればコの字型をしており、その空いたスペースを中庭として利用しているのだ。
とはいえ、施設の裏側は林となっており危ないからという理由で柵を設けているので見た感じ中庭というよりは裏庭と言ったほうがしっくりくる。
子供達用の遊具としてブランコや滑り台などを置いてあるが、寂れていてなんだかもの悲しい雰囲気が漂っていた。
そのせいだろうか、子供たちがあまりここで遊ばないのは。
けれどそれも今は好都合だと鳩山は思う。
中庭には遊具の他に一つの物置小屋があった。
あそこならこの寒空でもなんとか行為を行えるだろう、確かシートとかもあったし、百合ちゃんに寒い思いをさせる訳にはいかないもんな。
そんなことを鳩山は考える。
そんな鳩山の邪な思いに気づいたのだろうか、百合は小屋の前まで来たところで抵抗をしだした。
「どうしたの、百合ちゃん?この小屋に入らないと話ができないよ」
「えっ、なんかあそこ嫌です。話はここで聞きたい」
少し怯えたように肩をすくめながら百合は言う。
鳩山は舌打ちしたい気持ちになった。
(何なんだここに来て)
「いいから、大丈夫だからほら!」
苛立たしげに鳩山は少し強引に百合の腕を引っ張り無理やり小屋の中へと連れ込もうとする。
「痛い!や、やだ!!」
それに必死に抵抗する百合の力は思いのほか強くなかなか小屋に引き込めない。
(一体この小さな体のどこにこんな力があるんだ?)
そんなことを思いながらさらに力を込め用と今度は両手で思いっきり引っ張ろうとしたところで施設の異変に気づいた。
「なんだ、あの煙?」
施設の西側、ちょうど正面入口の斜め横から黙々とたち昇る黒煙、耳をすませばパチパチという音も聞こえてきてあたりは急に焦げ臭くなる。
「まさか、火事!?」
なぜ、そんな思いが鳩山の頭を巡ったその時、本館の方から藤尾朔太郎がその巨体を揺らしながらこちらへと走ってきた。
その瞬間鳩山は悟った、計画は失敗だと。
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