ep1[3/7]
移動系アビリティ、
「お待たせプーさん、」交差点の手前にある巨大な石燈籠の上に着地。カエルのように足をハの字に開いて天辺の宝珠に跨った「なるほどねえ」
交差点の中央で繰り広げられているのは三対一の格闘戦。ナイトプールを取り囲む、黒い
警視庁サイバー犯罪対策チームが組織した対イルミナシオン取締り部隊だ。個々の練度、連携プレーの点においてはそこらのハイエナとはレベチ。
「今、そっち行くねっ」
幸いにも僕はまだ気付かれていなかった。強襲から、まずは一体を確実に仕留める。
「
瞬間に、身体が鋭利なアイスピックで突いた氷塊のようにハジけ飛び、その一粒一粒がデジタル数字となって宙に溶ける。指定位置で瞬時に復元される。咄嗟に振り返っていたらしい最後方の
「どしたの? かかって来いよ」
相手は万歳みたく伸ばした右腕で頸動脈を掻く様に
「コレ よくない? よくない コレ?」
ガン、という銃声が
「おせーよブギー」「いや速いよ」ゆっくりと立ち上がり、視界に残りの
「警官殺しって罪重ーい。こわいこわーい」ひらひらと手を振って挑発する。
「おらよ」ナイトプールは相対する
「形成逆転っす、」ラス一。前と後ろから挟み込む。
「あれ、プルってん?」
咄嗟に
「逃げる気? オレと追いかっけしようっての?」「ブギー、ほっとけ」「いいや。ボーナスは余さず平らげるよ。プーさんはアイテム漁っておいて。ぶちのめしてくれる、」
やれやれ、と言うナイトプールのため息が聞こえ、瞬間に過ぎ去って行く。逃走者は道路から路地に入った。
「オレさ、最速って言われてんだよね」
追い付くのは造作もない。足に自信のあるプレイヤーでも大抵の場合は
「あらよっと」
再復元位置は、今しがた逃走者が足場にしたばかりの屋上。原宿の街はサイバーな色彩を帯びている。原色でギトギトとしたネオンカラーが隅々まで蔓延っている。空中に身を投げた
バード・ハント。
「——アンタには
極至近距離からのワンインチ・パンチ。エネルギーを内部に浸透させる事で
「毎度あり」
——セレクター。
ありとあらゆるスポーツ、格闘技から武術に至るまでもを網羅した戦闘補助システム。その起源はエリートスポーツ選手や執行機関、軍隊の特殊部隊員を訓練する為に生まれた人体拡張技術にある。それがアバター用に転用されるのは自然な流れだった。
電脳であるニウロウェアにはサイバースペースの知覚中枢として
フルダイブ。所謂それだ。
『ブギー、別のハイエナ集団が出て来たぞ。数は七、』
「無視して行こう。ダブポイントはすぐそこだし。それにどうせゴミしか持ってねーよ」
『おけ。413で合流しよう』
見える範囲で数は四。内一体をファストドロウからの銃撃で撃ち殺す。くらりと来てどさりと落ちた。僕は走り出す。路地を出て都道413号に合流、車道を走る自動運転車を足場にした八艘飛びで追手を撹乱する。
「粋だな、ブギー」
歩道には並走するナイトプールがいた。行手を塞ぐハイエナをタックルで突き飛ばしながら疾走している。僕は車の屋根に座り、風に当たる事にした。まもなく、進行方向にはハニカム・バブルの膜が見えてくる。
「さて、」振り返ると、ハイエナの一人が車のボンネットをロイター板にして飛び込んで来るのが見えた。
「まもとに働けクソニート」
瞬間に全身を生暖かい不気味な感覚が包んだ。背中、首筋、鼻先をゼリーが撫でる。PVPエリアを出た合図だ。右手に握っていた
「ばーん。残念だったね」その手を中指に変えて、物分かり良く諦めたハイエナ達の背中に突き立てた。
合流した僕らはダブポイントへ向かった。
ステンレス製の押し棒を引く。
「あれ、ドア開かないよ?」
今度は押してみる。けれどドアはピクリとも動かない。まじ? 退いてみ。ナイトプールが力任せにこじ開けようとしたが、やはりドアは壁のままだった。
『二人とも、数十秒前にダブポイントが変更されてるよ。再指定された場所はメガストラクチャー、呉田新地のシャングリ・ラ・タワーだ。そこの、最上層ホテルエリア』
声の主はオフィサーのニュートンだった。
「どうしてさ?」僕が聞くと、『どうやら
『ユニオンの答えは決まっているよ。ノーだ。それに、絶対に到達不可能な地点への変更はしないさ。達成できれば色くらいはつけてくれるだろうね』
ダブポイントは元締めを行うユニオンから適宜指定される。シンジゲートに相当するユニオンは、
時価総額四〇〇万円の積荷にはそれ相応のリスクが伴う。状況は常に流動的。だから
『今そっちに最短路を送ったよ』
ルートを確認。原宿駅から新宿駅に移動し、かぜまちラインに乗り換えてメガストラクチャーへ
『そこから原宿駅まで、君達なら三○秒も掛からない。違うかい?』「あい、違わないね」
原宿駅。次いで新宿駅に着いた僕らは、駅のプラットフォームからそれを見上げた。
ラピュタ。と言うよりもシュテルンビルトが近い。上層都市——ゲーム内に再現された「東京メガストラクチャー」だ。
東京メガストラクチャーは大東京の中心部に築かれた高層構造群の総称で、東西を中央区と渋谷区、南北を新宿区と港区に跨がる「ドーム」という半球で囲って、その天井に築かれたもう一つの都市だ。
さんざめく光の都、ユートピア。
「バルス」
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