第14話 あっ、やっちゃった……


 春奈の影で見えなかったがあの人影……華だ。

 大和が『まずい、このままで俺の人生が危険になる!』と思った数秒後、魔法が被弾して爆発した。勿論この程度の火力で華が怪我することはないがこれは別の意味でまずかった。魔法が被弾した直後、華が空間魔法を使い大和たちの所まで来る。

 明日香と千尋が必死に謝る。


「「す、すみませんでした」」


「私こう見えて頑丈だから大丈夫よ」


「ほ、ほ、本当にしゅみませんでちぃた!」


「慌てなくて大丈夫だから、ね?」


「なら俺も大丈夫ってことか……良かった」


 どさくさに紛れて大和も安堵する。


「ところでベクトル変換なんて巧妙な事を誰がしたのですか?」


 三人の女の子が大和を一斉に指さす。大和は華が何もなしに許してくれないことを何となく分かっていたが儚い希望を込めて恐る恐る聞いてみる。


「生徒会長怒っています?」


「怒ってるわけないじゃないですか。ここまで上手にベクトル変換使う人を初めて見たのでつい興味を持っただけですよ」


「そ、そうですか」

 

「もし良かったら手合わせしていただけませんか? 初めて模擬戦出場で緊張していますの?」


「え、遠慮しておきます。生徒会長の相手は俺なんかじゃ務まりませんから」


「別に手合わせ程度でいいからしましょう。勿論まだそちらの女の子二人は練習中みたいですから私と赤城君の一対一でね」


「さ、早乙女は?」


「女の子二人の指導で忙しそうじゃないですか」


 ゴクリ。

 息を呑み込んだ大和。

 必死に逃げ道を探すが。


「仲間の方々を放っておいていいのですか?」


「えぇ大丈夫よ。全員生徒会メンバーだから察してくれているはずです。さぁ、行きますよ」


 ヤバイ。急いで距離を置く。


「光の矢よ。汝の敵を射抜け」


 四本の矢が大和を追尾攻撃してくる。


「五大元素の一つ水よ、球体となりて直進せよ。球水」


 空気中の水素を元に魔力で生成された直径十センチ程の球体の水が四発、光の矢を目掛けてそれぞれ進む。


「聖剣よ。我に力を与えたまえ」


 大和は落ち着いて判断し華の剣がAランクの光剣であることを確認する。


「闇よ。我に力を与えたまえ」


 華に対抗して大和は闇剣を生成する。

 両者の剣が校庭で激しくぶつかり合い衝撃波を生む。剣と剣がぶつかる度に生まれる火花はそれだけ二人の剣に力が入っている証拠だ。大和の気まぐれで明日香の為に先程の竜巻の術式構築を見せてあげることにする。国家戦闘員は基本的に光と闇以外の基本属性に限っては全て扱えるよう習得が義務付けられている。


「竜巻よ。全てを吹き飛ばせ」


 巨大な竜巻が出現する。先程の明日香が使った竜巻とは違い、粗々しく校庭の砂を巻き込みながら風が空を切る音を立てながら華に襲いかかる。


「面白いですね。なら天に向かって燃える竜よ、その業火を持って全てを焼き付くせ」


 大和の気まぐれに華は千尋がさっき使った火竜の咆哮を使って対抗してくる。これも先程の火竜の咆哮とは違い、大気の温度を急激に熱し、そのあまりの熱さに校庭に落ちていた桜の花びらが次々と灰になる。業火をもってして大和に襲いかかる。Bランク魔法と言え学生レベルではなく軍用レベルで打てばこれくらいにはなる。むしろここまで本気になれば昨日の大和と華の遊び程度で使っていたSランク魔法より恐ろしいぐらいだ。竜巻と火竜の咆哮がぶつかり合う。風すら燃やそうとする火竜の咆哮を竜巻は襲い掛かる火を全て風圧で掻き消そうとしながら衝突しぶつかり合う。相性で言えば風は火を炎上させる為、劣勢だが、風の力が強ければ炎すら掻き消す力を持つのが風の性質だ。二つの力は拮抗し爆発して消えた。爆発した場所を中心に小規模だが直径五メートルほどのクレータが出来ているが、それには目もくれず大和は斬りかかる。


「なにこれ……これがBランク?」


「そうです」


「え? 副会長」


「私も模擬戦の練習で来てみたら面白い物が見られたので実はずっと見物させてもらってます。それに周りをよく見てください。皆さん練習をそっちのけで二人を見てますよ」


「本当だ!」


「そこの二人の女の子は覚えておくといいでしょう。貴女方の技の最終到達点は先程生徒会長と学年代表が使った所にあります」


「「……はい」」


 この時、華にはまだ余裕があったが大和には余裕があまりなかった。

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