第13話 だけど、ダメでした……シクシク


「生徒会長にボコボコにされるから嫌です」


「赤城? 愛情を込めて最大火力で火花を貴方の身体に叩きこんであげましょうか?」


「……で、出ます」


「良し! なら決まりね。気を取り直して後二人ね。誰か推薦して頂戴って……皆そんなにふるえてどうしたの?」


「お前の殺気に皆やられたんだよ」


「え? でも赤城は大丈夫じゃない」


「俺を基準にするな」


「それもそうね。皆挙手しないなら私が勝手に決めるけどいいかな?」


 その笑顔に皆が安心する事はなく一同が一斉に何度も首を縦に振り意思を伝える様子は誰が見ても違和感のある光景だった。

 それはお構いなしと春奈は手元の端末で何かを調べ始めた。


「とりあえず実技成績上位者の明日香さんと千尋さんにお願いするわ。基本は私と赤城が前衛の明日香さんと千尋さんが後衛で行こうと考えているわ」


「「…………」」


「クラス代表として命じます。出場者の四名はこのまま実技練習の為に校庭にて練習。残りの者は各自苦手科目の練習を十二時までしなさい。以上解散。あ、ちなみに後一週間もしたらどのみち分かるから言うけど赤城が今年の学年代表だから私達クラス代表に言いにくい事は直接言ってもらってかまわないわ」


 春奈が教室から出ていく。クラスの皆が大丈夫かと言った目を大和に向けてくる。

 そりゃあんなやりとりを見せられればどうみたって春奈の方が強いように見える。


「あの赤城さん私達大丈夫ですか?」


「えっと……どちら様で?」


「私、堀明日香と言います。こっちが東方千尋です。それで私達が模擬戦のクラス代表で大丈夫でしょうか?」


「あぁ、そのことね」


 知らん! とは流石に言えないので、大和は右手で携帯端末を見て二人の情報を見る。

 二人はEクラス登録されている生徒では三番目と四番目の実力者と書いてある。


「問題ないんじゃないかな。早乙女も馬鹿じゃないしとりあえず校庭に行こうか」


「はい」


 校庭に着くと早乙女が仁王立ちで待っていた。

 大和は頭のネジが緩いのかと思ったが彼女にとってはこれが普通なのかもしれない。


「遅いと言いたいけどまぁいいわ」


「とりあえず明日香さんと千尋さんの力の確認から始めるわ。物は試しで赤城を的にしていいから最大出力の遠距離魔法を見せてちょうだい」


「おい! なんで俺が的なんだ?」


「えっ? だって人間相手の方が実践的でしょ?」


 春奈にとって大和の正体が自分の命の恩人と分かった時から我が儘を聞いてくれるお兄ちゃん的な存在になっていた。そして我が儘を聞いてくれることが当たり前になっていた。大和はその我が儘に付き合わされ文句を言うが最終的にはいつも了承していた。その結果、春奈の中では徐々に大和の正しい扱いが確立されていた。


「もういい。さっさとやるぞ」


「え? でも大丈夫なんですか?」


「あぁ何とかなると思うから大丈夫だよ」


「わかりました」


 二人が大和から距離を置き構える。春奈の目から見れば二人はまだ少し頼りない。だが二人の気迫は春奈にも十分に伝わっている。


「竜巻よ。全てを吹き飛ばせ」


「天に向かって燃える竜よ、その業火を持って全てを焼き付くせ」


 大和と春奈の頭の中が何かをしたわけでもなくリンクする。堀明日香は資料通り、風を得意として東方千尋は火を得意として、竜巻と火竜の咆哮はそれぞれが協調することでより強力な魔法となって相手を襲う。最初から連携して打ってくるとは思いにもよらなかった。と同じことを思った。

 そして、春奈の一歩先まで大和は見抜いていた。


「どちらもBランク。合わせてB+ランクと言った所か」


 大和は冷静に状況を整理し春奈の立ち位置を確認し詠唱する。


「魔法陣展開、ベクトル変換付与」


 明日香と千尋の魔法は学生としては威力がある。だけど魔法としての完成度がとても低く簡単に防げると考えた大和は障壁にベクトルの変換を付与しその矛先を春奈に向けた。朝の恨みと言い、今回の件を少し根にもっている大和にとっては悪戯半分だ。魔法陣に魔法が当たると向きを変え春奈の方に向かって飛んでいく。


「ふっ、ちょろいな」


 明日香と千尋は予定外のことに慌てていたが春奈は難なくジャンプで躱した。

 顔色一つ変えずに。


「アイツ……ワザと狙ったわね」


 と、皮肉を言って。

 大和としてはもう少し驚いてくれてもいいのに面白くなかった。


 しかし。ここで大きな問題が発生する。

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