第12話 嫌なことは嫌だとハッキリ言いたい
家の玄関チャイムの音が鳴った。
「煩いな。誰だよ、朝早く人の家のチャイムを鳴らす馬鹿は」
と、睡眠を邪魔された怒りが積もる大和。
しかし身体が動かない。
お布団から出たくないと身体が言っているのが分かる大和は睡魔と使命(お出迎え)の狭間に葛藤する。
モタモタしているとチャイムの音が玄関を蹴る音に変わる。
「仕方がない……起きるか……」
大和は内心この程度では壊れないだろうが万一のことを考え玄関に行き覗き穴を見ると華と春奈がいた。
「それにしても春奈の奴スカートでよく蹴ってきたな。恥じらいと言うものがないのかこいつは」
と、扉越しに独り言を言いながら玄関の扉を開ける。
「遅い!」
「遅いですよ!」
玄関の扉を開けると大和は春奈と華から怒られた。
大和は部屋に上がる二人をただ見つめる。
華と春奈がリビングに行くと大和を呼ぶ声が聞こえてくる。
「早くこっちに来て。朝ごはん作ってきたから」
「早乙女さんに手伝ってもらいながら作ったの」
大和が華を見ると少しモジモジしている。初めての料理に緊張でもしているのだろう。用意された朝ご飯を見て大和はあることに気づき思う。朝からクリームシチューは少し重たい気がする、華と春奈は胃もたれとか考えておらず、そもそも朝のメニューとしての選択を間違えているだろうと。
「い、いただきます」
だが物は試しだ。
大和は覚悟を決めて一口食べてみることにした。
口の中ではシチューのまろやかさが広がり、野菜のおいしさのハーモニーで一杯になる。
「メニュー選びのチョイスは残念だが味は上手い」
「良かった」
「早乙女さん色々助かりました」
華と春奈が安堵したのかお互いの手を握り合って喜んでいる。
朝のメニュー選びのセンスはちょっと……いやかなり残念だが、料理の腕は確かなものらしい。
「ご馳走様。なら又学園でな」
「え? 一緒に行かないの?」
春奈に続き華が寝室に向かう大和に追い打ちをかける。
「待ってますから一緒に行きましょうよ?」
「眠いから後一時間程寝てから行く。どうせ行かなくても卒業できる特権は利用しないと勿体ないだろう?」
可愛い女の子二人の雰囲気が急に変わる。
「早乙女さん手を貸してくれるかしら?」
「勿論です」
二人が大和の身体をガッチリとホールドして洗顔、寝ぐせ直し、歯磨き、着替えとただ立っているだけで全部してくれる。
後の後遺症を考えなければありがたいのかもしれない。
「ありがたいが終始どちらかが常に関節を決めてホールドするのはどうかと思うが?」
「学園をさぼろうとするやつに言われたくない!」
「早乙女さんの言う通りですよ。ちなみに赤城君の部屋に入った時にサブキーを拝借しましたのでこれから登校拒否をしようものなら力技になりますよ?」
「それ泥棒。とにかく返せ?」
「今後一度も登校拒否及び遅刻をしないと誓うのなら返します」
「…………」
「そこは嘘でも誓うと言え馬鹿!」
「早乙女さんの言う通りです。とりあえずしばらく預かっておきますね」
「…………」
「言い訳が出てこない感じですか?」
「……チッ」
「本当どうでもいい所は素直ですね」
「なんでこんな子に育ったんだろう」
「早乙女はお母さんかなにか?」
「そりゃ心配だからね。なんなら私と一緒に寝泊まりする? しっかりお世話してあげるわよ?」
「したらプライベートがなくなりそうだから遠慮しておく」
「なら生徒会長として生徒の指導するのは当然と言う事で私の部屋にきます?」
「それも先程と同じ理由で遠慮しておきます」
「頑固ね」
「頑固ですね」
関節を決められたことで身体の節々が痛い大和はやれやれと朝から気が重たくなった。
■■■
大和と春奈がなんだかんだで自分たちのクラスに到着してみると教室が騒がしい。
「あれ? 皆どうしたの?」
「あ。代表。実は模擬戦メンバーを十二時までに決めて欲しいって担任に言われて皆で出場メンバーをどうしようか困ってる所です」
「ならとりあえず皆一旦席について」
「今から代表の四人を決めるけど出場したい人やこの人なら任せたいって人がいたら教えて頂戴。その後に出場候補者によるバトルロワイアル形式でクラスの代表を決めましょう。異論がある人は手をあげて」
春奈がクラス全体に視線を配る。
しかし誰も手を上げない。
その様子に大和は感心した。
正直誰でもいいだろうと考える自分とは大違いだ、と思いながら。
「異論もないみたいだし次は出場したい人挙手して頂戴」
春奈がもう一度クラス全体に視線を泳がせる。
またしても誰も手を上げない。
「誰もいないの?」
「だって今年はあの生徒会長が出場するんですよ。下手したら大けがするじゃないですか」
クラスの一人が不安そうに口にした。
「なら推薦したい人を挙手で教えて。ただし挙手したからと言ってその人が後々後悔すようにはしないわ。もしいたら私の権限でいじめた側に処罰を与えるわ」
「なら私は早乙女さんがいいと思います」
これにはクラス一同が頷く。大和もこれには納得だ。例年どこのクラスも代表を中心にチームが編成されて大将をしている。去年生徒会長はクラス代表でありながら辞退していたがそれでも生徒会長のクラスが優勝した異例も学園にはあるがそれは稀なことだ。
「なら私は出るわね。他にはいない?」
「赤城君はどうですか? 彼も学園ランカーなら戦力として申し分ないのでは?」
「だそうよ。赤城君出場する?」
周りが春奈の顔を見ると嬉しそうな顔をしている。
しかし大和は自分の意志を正直に伝える。
「生徒会長が怖いから嫌です」
「赤城君にもう一度聞くけど出場するわよね?」
春奈の手に合ったチョークが二つに折れる。
クラス中が恐怖で支配され静まる。
これこそまさに恐怖政治である。
だがこれはデメリットだけでなく、明白なメリットを生むこともある。
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