第11話 悪い予感がするのだが 3


「おぉ美味しそうだな。早乙女って料理得意なんだな」


「でしょ。もっと褒めてくれてもいいよ」


「あぁ肉じゃがにポテトサラダにお味噌汁どれも美味しそうだ」


「生徒会長?」


 先程から黙っている生徒会長に春奈が何か思ったらしく声を掛ける。


「早乙女さん料理得意なんですね」


「生徒会長は苦手なんですか?」


「こいつは戦場にいる時間が長かったから料理は基本しない」


「成程。口に合うか分かりませんがどうぞ食べてください」


「「いただきます」」


「美味しい」


「そうだな」


「早乙女さん今度料理教えてくれないかしら?」


「別にいいですけど」


「ありがとうございます」


「なら生徒会長は赤城の国家戦闘員としての頃のお話を話せる範囲で教えてくださいよ」


「他言しない事が条件ですがそれでも良ければいいですよ」


「やった~」


 食べる事に集中していた大和の意識が華と春奈に向けられる。今の二人の会話は大和にとって不利益となる内容が二つあった。一つは華が料理を覚えると言うこと。これによりしばらくは料理の練習相手として大和が選ばれる可能性がでてくる。通称毒見をしなくてならなくなり、その場合命の保証がない。二つ目は華が料理を教えてもらう代わりに大和の過去を話すこと。春奈にもし当時の話がばれれば大和の平穏なが壊れる可能性があることだ。


「待て。だから俺をそっちのけで話しを進めるな」


「ファントム? 早乙女さんになら別に構いませんよね?」


 華の声が急に低くくなってリアルで怖いので大和は大人しく上官の言葉に従うことにする。


「わ、わかりました」


「あはは~。赤城ってすぐに折れるね~」


「赤城君は早乙女さん以外には中々頑固ですよ。なんせあの女王陛下に平気で取引を持ち掛けたり基本的に上官の意見を聞かなかったり、上官が今回だけでも私の部隊に戻ってくれないかと直接頭を下げてお願いしてもどこでもいいと言って聞きませんし」


「へぇ~なら何で私にはすぐに折れるの?」


「お前が毎回俺の意思を無視して話しを進めるからだ」


「なら生徒会長に頭が上がらないのは?」


「こいつも俺の意志を完全に無視して話しを進める時があるからその時はいつも諦めてる」


「赤城って尻に引かれるタイプなんだね」


「知らん」


「なら仮に私と結婚したとして私が何かをお願いしたとして断れる所想像できる」


「……できない」


「ならそうゆう事じゃん。試しに高校卒業したら結婚してあげてもいいよ? なんならお付き合いなら今からでもいいけど?」


「遠慮しておくよ。俺よりしっかりと早乙女のことを愛してくれて幸せにしてくれる男は沢山いるだろう。それに俺ともし付き合ったり結婚すれば間違いなくお前の立場も危なくなるしな」


「ん? どういう意味かしら?」


 華が大和に聞く。


「生徒会長は知ってるだろう。国家戦闘員の中で俺がなんて呼ばれてるのか」


「あ~なるほど」


 華は大和の言葉に納得したようだが春奈は理解できていないみたいだ。


「私にもわかるようにお願いしてもいい?」


「ファントムは戦闘員の一部の者から、裏切者、脱走者、と陰口を言われています。私が赤城君に好意を寄せていることは任務がきっかけで国家戦闘員にはバレています。その時に赤城君は公の場でも先程の悪口を言われだしました。ほとんどは私に対する嫉妬によるものだと推測がたちますが、本当にそう思って言っている者もいると言うことです。早乙女さんがもし仮に赤城君とお付き合いまたは結婚すればその矛先が早乙女さんにも向くリスクがあるということです」


「なんだそんなことか」


「そんなことって自分が何を言っているのか分かっているのですか?」


「わかっていますよ。それでも赤城があの時助けてくれなかったら私は魔人の性処理女として一生を過ごしていたと思います。それに比べれば些細なことじゃないですか。それに好きな人の為なら私はこの命すら捧げてもいいと思っていますから。だから赤城、私は側にいていいでしょ?」


「そうか。リスクを考えての決断なら好きにしろ」


「そうさせてもらうわ。それに両親の立場は詳しくは言えませんが実はお二人のことは入学前に父に調べてもらって色々と知っていましたから想像はついていました。ただファントムの正体だけはわかりませんでしたが。父より高位権限者がその情報についてはブロックしていましたので」


 その言葉を聞いた大和は女王陛下が直接情報操作に動いていたと理解した。

 つまりこれで大和のバックアップは全て失われた家族に変わり王室がしていることが間接的に証明されたと言うわけだ。


「ところで赤城君は朝ご飯食べる人ですか?」


「まぁ気が向いた時に食べるぐらいだな」


「なら明日は私が朝ご飯を作りますね」


「ちょっと待て。生徒会長は料理出来ないだろう。どうやって作るつもりだ?」


「なら会長。私と作りませんか?」


「でも朝は忙しいのではなくて?」


「どうせ自分の分作るついでと考えれば手間暇は殆どかかりませんので。それに部屋も近いですし移動も楽ですからね」


「なんで早乙女が乗り気なんだ?」


「朝ごはん抜いて倒れられたら模擬戦どうすればいいのよ?」


「……なんで俺が倒れる前提なんだ?」


「その疑問は食生活を見直せばわかるわ」


「はぁ~」


 大和の悪い予感は見事に当たった。


 華と春奈はどこか似ていて思考も似ているので息が合うような気が最初からしていたことだ。


 この二人を相手になにを言ってもこれ以上は労力の無駄だと判断した大和は「わかった」と反論することを諦めた。


「まぁ期待しててよ」


「わかった。今日はもう寝るから二人共じゃあな」


「お休み~」


「お休みなさい」


 こうして大和の平穏な日常は早くも音を鳴らして崩れ始めていた。

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