第10話 悪い予感がするのだが 2


「どうした?」


「夜ご飯どうするの?」


「後で一階のエントランスのコンビニで買うつもりだけど?」


「一応聞くけど毎日そうしようとか考えてないわよね?」


「え? なに当たり前のこと言っているの?」


「赤城は馬鹿なの? 栄養バランスとかあるでしょうが! そんなんじゃ模擬戦前に倒れるかもしれないじゃない!」


「いや……そもそも出る気はないし、別に食べられれば俺は特に栄養なんかは気にしない。それより手短に用件を言え」


「とりあえず私の部屋に今から来なさい」


「意味がわからん……なんで?」


「夜ご飯食べさせてあげるからよ」


「遠慮しておく」



 大和の手を強引に引っ張り自分の部屋に連れて行こうとする春奈と抵抗を見せる大和の前に丁度帰宅した華がやってくる。


「あらまぁ~。仲がいい事で。それよりこんなところで何をしているのですか?」


「生徒会長こんばんは。こいつが毎日コンビニで夜ご飯済ませようと考えていたので夜ご飯を食べさせてあげようかと思いまして」


「何か楽しそうね。私もお邪魔していいかしら?」


「なら俺の変わりに生徒会長を連れて行けば解決だな」


 大和の妙案に低い声が返ってくる。


「はっ!?」


 どうやら先ほどの案は春奈の気に障ったらしい。


「……なんでもない」


「私がいたらお邪魔かしら?」


「いいですけど、ご飯が炊けるまで後十分ぐらいかかりますよ?」


「大丈夫です」


「ではどうぞ」


「ならこのまま失礼するわね。赤城君共々」


「えっ……俺も……」


「はい。女の子の好意は素直に受け取る物ですよ?」


「……わかった、わかりましたよ」


 大和はため息まじりに答え、素直に従うことにした。

 後々のことを考えるとここは二人を敵に回すより仲良くした方が賢明だと判断して。




 春奈の部屋に案内された二人はリビングでご飯を待つ。

 その間、華は疑問の眼差しを春奈に向ける。


「ところで早乙女さんは何で赤城君に世話を焼いているの? 確か貴女のデータベースを見る限りそんな子じゃなかった気がしたけど」


「だって放っておいたら栄養失調で模擬戦前に倒れそうじゃないですか?」


「……たしかにそれは現実的に考えればありえるわね」


 その言葉を聞いた大和はわざと咳払いをした。


「……おい、お前らさり気なく俺をディスるな」


「それは半分冗談。本当は昔命を助けてもらったからまぁその恩返しもあるのよ。多分本人は覚えてないと思いますが」


「だ、そうよ? 実際のところ赤城君敵にはどうなの?」


 大和は過去を振り返る。

 しばらく天井と睨めっこをして真面目に考えてみるが、


「記憶にないな」


 と、答えがでた。


「本当に?」


「あぁ」


「私にとっては一生の記憶でもアンタには風景程度の記憶なのね。昔魔人に捕まって奴隷になりかけたことがあるんです。その時、赤城に命を助けられたってのが私の記憶であり真実です」


 春奈は首を横に振りながら大和の方に視線を向けた。

 その視線に含まれた問いに大和は気づいていながら、本当に心当たりがないことから答えることができなかった。


「見る限り二人の意見がかみ合ってないわね。もう少し詳しく聞いてもいいかしら?」


「宝来の魔事件って覚えていますか?」


「えぇ。軍が動く時には全てが解決していたアレね」


 丁度そのころ軍は慌ただしくすぐに戦力を集めることができなかった。

 隊長の一人銀幕の戦線離脱問題、国家戦闘員の脱走問題、銀幕の戦線離脱による派閥バランスの悪化、時期隊長候補問題、国内全域に連日魔人による偵察隊の侵入、など他にも沢山の問題が重なり当時は政治的地位を確立する早乙女家への襲撃に迅速に対応できず後手に回ってしまったのだ。軍は魔人偵察隊の動きから重要な政治家たちに護衛を付けることを当時計画していたが、それより早く向こうが動いたためだ。

 だけどこの事件はあろうことか魔人が早乙女家を襲撃してから数時間で解決されることとなった。その真相は――。


「中学三年生の頃、魔人に私の別荘が襲撃されました。魔人は政界で力を持っている両親を拉致目的で襲撃してきました。優秀な護衛をつけていましたが襲撃してきた魔人一人に全員殺され、私たち家族は奴らの隠れ家まで連れ去られました。アジトに着くと早速両親は拷問にかけられ私達姉妹三人は人質として牢屋に入れられました。同時に看守の魔人が私達姉妹の服を引き剝がしました。両親たちの身も考えると抵抗はできませんでした。そのまま裸になった私達の胸を触り、下半身を触りとされるがまま泣きながらとにかく助けを求めました。こんな山奥ですし誰にも届かないと分かっていましたがそれでもきっと誰かが助けてくれると信じて……。魔人も人間なのでこのまま性行為をされるのだろうと思っていました。後ちょっとで前座と言われる行為が終わるその時敵アジトに一人の脱走兵がやって来ては魔人を殲滅し私達姉妹と両親を助けてくれました。名前を聞くとファントムと教えてくれましたが彼は私たちの自由と引き換えに半年はこの真実を黙っていて欲しいと口止めをしてきました。それを了承した私と家族はファントムの空間魔法で国の領地まで転移させてもらい命を助けてもらったんです。今日赤城が生徒会長にファントムと言われているのを聞いて気づいたんです。私がずっと探してた人は目の前にいるんだって」


「成程。ってか脱走している時にそんなことしてたんですか?」


「言われてみればん……う~ん、たしかにそんなことした記憶があるな。なんか探知魔法使っていたら助けてっていきなり何度も何度も言っている女の子たちがいたからとりあえず空間魔法使って行ってみたら敵が十人程度いたような。残量魔力と相手の力量からSランク魔法を時限式で四つ同時展開してみたらいけそうと判断してやってみたら勝った記憶があるちゃある……な。まぁ普通相手もあんな山奥で奇襲を受けるとは思わないから警戒心がなくて魔法発動と同時に勝手に死んだけどな。一応中にいた五人の人間には魔法障壁をかけたな、たしか」


「相変わらず後先考えないのね。Sランク魔法四個って言ったらそれだけで魔力をかなり使うと思いますが。それに赤城君の場合もうガス欠寸前じゃない」


「まぁな。助けてってのが夜な夜な聞こえてきても耳障りで邪魔だったから魔法ぶっ放して静かにさせようぐらいの感覚だな。たしかあの時は一人静かな場所にいたくてあの場所を選んで野宿していたからその障害排除が主な目的だったはず」


「り、理由はともなく結果的に早乙女さんにとっては命の恩人でご飯は模擬戦前に栄養失調で倒れるであろう人物に対する一種の恩返しみたいなものと言う認識であっているかしら?」


「そうですね」


「でも助けたのは彼の気まぐれだったみたいですし、そこまでしてあげなくてもいい気がしますが?」


 華が横目で大和に怪しげな視線を送る。


「生徒会長にとって赤城はどんな存在なんですか? 私が見る限りですけど赤城のことに関しては偉く熱心に感じられますが」


「そうですね。早乙女さんと同じで私の命の恩人であり、私が唯一異性として好きになった人です」


「えっ!? 赤城のこと好きなんですか?」


 春奈が勢いよく立ち上がって華に質問をする。


「そうですよ。私も年頃の女の子ですから好きな男性ぐらいは流石にいますよ。早乙女さんは好きな人いないのですか?」


 春奈が少し冷静になり椅子に座る。


「いません。ただ向こうが付き合ってくれと言ったら考える相手はいますけど」


 春奈は椅子に座ったかと思えば今度は手遊びをしてモジモジする。

 大和は春奈の行動原理は一体なんだ? と疑問に思う。

 だけどここで口を出せば面倒なことに巻き込まれると考えた大和は二人の会話を静かに見守る。

 

「それを好きと言うのでないですか? 仮にその方を私が横から奪おうとしたら早乙女さんは諦めますか?」


「無理です。生徒会長が相手でも恋の邪魔はさせません」


「もはや好きと自分で認めていますけど、一応聞きますけどその方はどなたなのですか?」


「赤城ですけど何か問題でも?」


 この瞬間、華と春奈の間に殺伐とした目に見えない何かがぶつかる。

 春奈が大和に好意があったことを知った華の目の色が変わった。

 面倒な事にならなければいいがと大和は心の中で静かに願う。


「はぁ~、帰りたい」


 二人には聞こえないように小声で本音を吐いた。


「この私に宣戦布告ですか?」


「だとしたら何ですか? 好きな人を取られるのがそんなに怖いのですか?」


「えぇいいわ。絶対に負けませんから」


 大和は一旦状況を落ち着かせる為に話題を変える。


「まぁまぁ二人共落ち着いてご飯食べないか?」


「……わかった。とりあえず用意するから待ってて」


 春奈が立ち上がりご飯の準備の為にリビングからいなくなる。


「大和? 浮気したら許さないわよ?」


「別にするつもりはない」


「なら大和は早乙女さんが告白して来ても振るの?」


「振る」


 即答。

 たしかに春奈は正直可愛いと思っている大和。

 しかし彼女は華だ。

 その事実は変わらず、余計なことで悲しませたくないと思っている。


「凄くきっぱりしているわね」


 華は大和が即答してきたことに少し驚いているようだ。大和も男の子なので自分の気持ちをストレートにぶつけてくる可愛い女の子には弱くてもしょうがないと思っていたから。


「華こそどうなんだ? これから他の男に告白されたらどうするんだ?」


「勿論お断りするわよ」


「俺よりいい男でも?」


「当然よ。私の素を知っているのは大和だけで、大和はどんな私でも受けいれてくれる。そんな安心感をくれる人よりいい人なんていないわ」


「世界は広いぞ?」


「それに大和が家族を失った時に、残りの人生全て大和の為に生きるって約束したからね」


 ここで大和が話題を変える。何か妬ましいことがあるからではなく大和の平穏な学園生活を過ごす上でとても重要なことだったので先に念を押すためだ。


「早乙女とは事を大きくして喧嘩するなよ? 俺のクラスに支障が出るからな」


「相変わらず揉め事嫌いなのね」


「当たり前だ」


「それにその心配は必要ないわ。大和の生活が一人だとダメだと分かった以上、ここで恋の喧嘩をする必要はなさそうだし」


 華は何故大和が自分と春奈の関係を心配しているかを大和の性格と過去の経験からすぐに理解していた。だから正直に喧嘩をしないと伝えた。


「どういう意味だ?」


「ライバルと言う存在は常に自分を成長させてくれることを知らないの?」


「ちょっと待て。それはやめろ。俺の日常が壊れる」


 大和は華の一言で日常が壊れる可能性があることに気づき慌てるが華の手の中で遊ばれる。


「なら早乙女さんに付き合っていることを話すけどいいの?」


「…………」


「困った顔可愛いね」


「うるさい」


 言葉に困った大和が次の一手を考えていると、料理を持って春奈が戻ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る