第9話 悪い予感がするのだが 1


 生徒会室を後にして大和は下駄箱に行き、履いていた上履きから下校用の靴に履き替える。そのまま家に向かって歩き出そうとしたときにさっき思い出せなかったあることをはっきりと思い出す。それは春奈に家の鍵を返してもらっていないことだ。大和の家はオートロックマンションでセキュリティーも堅く鍵がない状態で侵入すれば間違いなく不審者扱いされ通報される。


「……さてどうしたものか」


 そもそも春奈の連絡先を知らない時点で大和は今から春奈に連絡して会うのは不可能だと気づく。


「そうなると今日はネットカフェだな。鍵は逃げないし明日返してもらうか」


 そう思い、足を動かし始めた時だった。

 背後から声が聞こえた。


「赤城?」


 大和が声のした方向に振り返ると、そこには春奈がいた。


「家の鍵返しにきた。迷惑かけてごめん」


 春奈から手渡される鍵を受け取る大和。


「あぁ気にしてない。それよりずっと待ってたのか?」


「うん。一つ聞いてもいい?」 


「構わない」


「私との演習の時は手加減してくれたの?」


「違う。Sランク魔法と魔術は本来魔力の消費がAランクに比べてかなり激しい。だからむやみに使わないだけだ。生徒会長は俺の倍以上の魔力を持っているからそんな感じはしなかっただろうが、俺みたいに魔力が少ない人間がSランクを多用すれば魔力の枯渇状態にすぐに陥る。だから基本はAランクからCランクまでの魔法と魔術しか使わないだけだ」


「それなら……なんで生徒会長との試合はSランクを使ったの?」


「お前も俺と生徒会長の会話を聞いていただろう? 本気で行かなければ間違いなく殺されていたからだ」


「そう。一ヵ月後の模擬戦は本気で行くつもり?」


「生徒会長と同じく俺も校内において緊急時以外はAランクまでの魔法、魔術しか扱うことができない。だからSランクは使わない。今日は特例だ。責任は全部生徒会長が取るだろうからな。それに出場するかもまだ決めていないし出来れば面倒だから出たくない」


「なら私とパートナー組まない?」


 突然のことに大和が疑問を抱く。


「えっ……嫌だけど話聞いてたか? 一応聞いておくがそれはどういう意味だ?」


「模擬戦はクラスの選抜の四人の代表が出場するわ。赤城なら上級生相手でも戦えるし出てみない?」


「断る。先程も言ったが出来れば出たくない」


「なら生徒会長に赤城が出場するようにお願いするしかないか……な?」


「無駄だ。模擬戦の選抜はクラス全員の意思により選抜メンバーを決定する。お前に負けた俺を選抜するやつはいないだろう」


 大和は春奈の企みを回避すべく適当に言い訳をする。


「ならうちのクラスで一番強いのは誰?」


「早乙女」


「即答か。憎たらしいわね。どう考えても赤城でしょうが! それに皆の目が私の方が強いとなっていても私の次にって事には少なくともなっているわよ。学園ランカーとはそういうものなの。だから出てもらうわよ。いいわね?」


「だから俺の意思は?」


「ないわよ?」


 大和が春奈の顔を見ると高校生と言うよりは子供みたいに笑っている。

 春奈は今も無邪気に大和を見つめている。


「もういい。好きにしろ」


「ところで俺は家に着いたけど、お前何処まで付いてくるつもり?」


「え? 私の家もここだけど?」


「……え?」


 春奈は言葉が出ない大和を見つめながら事情を説明する。


「実は家の鍵を奪った時に私のマンションと同じ鍵のことに気付いて、こうやって一緒に帰ってたってわけ」


「そうか」


「ちなみに何号室?」


「教えるつもりはない」


「八〇七号室だよね? 鍵に書いてあるの忘れた? 私八〇六号室だから改めて宜しくね、お・と・な・り・さ・ん」


「はっ……マジで!?」


「い~えす!」


「ここは国家戦闘員や政界関係者のお坊ちゃまお嬢様クラスしかいないはずだが」


「私は早乙女家長女で両親は政界の人間って言わなかったけ?」


「言ってない」


「そう。ちなみに生徒会長は八〇八号室って言ってた」


「え?」


「ん? 嬉しくないの? 私と生徒会長の間の部屋なのに?」


「嬉しくない。お前たち二人は人の意思を無視して話しを進める同類だからな!」

(あんのババア絶対全部俺に内緒で仕組みやがったな! 監視の目を二個も付けやがって)


「うるさいな~男ならグチグチ言うな。じゃあね」


「あぁ」


 大和は部屋に入る。

 そして考える。

 どうしてこうなったのか。

 例えば華が大和を近くで守りたいとか言いだして女王陛下が任せろとか言って隣の部屋にしたのではないかと。あの二人が何だかんだ仲が良いのを大和は知っている。まるで祖母と孫見たいな関係と言えばいいのだろうか。家族のいない大和は王室がバックアップに着くことで家の手配から必要な物まで全部の手続きと用意をしている。だから基本は任せきりだったが、まさか今日から三年間住む家がこんな事になるとは思いもよらなかった。


「てかこの部屋……無駄に広くて落ち着かない」


 やれやれと部屋に荷物を置き、


「あとでマンションのエントランスにあるコンビニに夜ご飯でも買いに行くことにするか」


 先にお風呂に入ることにした。

 心を失った当初は何も感じなかったが最近少しずつ心が癒えてきて昔に戻ってきているように感じる大和。いや本当はあの日心も蘇生されているはず、と内心気付いていながらも華のおかげもあってのことだと心の中で感謝する。人の心の傷は治ってもトラウマになりそれが新しい原因となって沈むことだってあるだろう。


 ピンポーン♪


 すると家のインターホンが鳴った。

 大和が覗き穴から確認すると春奈がそこにいたので扉を開ける。

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