第8話 過去追憶編 2


「……銀幕そうゆうことだったんだね。お前が何故女王の勅命で脱走者の始末をさせてくれと言ったのかようやくわかったよ」


「な、なぜ女王陛下が!?」


「お前の様子が可笑しかったから通信機に細工をしておいたのさ」


「私の通信機に?」


「そうさ。ファントム聞こえているかい?」


「あぁ」


「お前さん、本当に戻る気はないのかい? もしあるなら国家元首である私がファントムの身の安全を保障しよう」


「ない。俺は家族を殺された。俺自身が弱かったのが原因の一部だとは理解している。それでも俺は家族のいない国に戻る気はない。あの日知った。国家戦闘員である上官たちは俺を恨んでいる。つまり、いつまた命を捨てろと言われるかも分からないからな」


「ファントムお前さんの頭は若いのに優秀だね。一人の女の子を救う為に戻って来てほしいと言うのが私の本音だ。昔国家戦闘員だったお前さんの両親や姉には私も何度も命を救われたこともあったし私個人としても恩返しがしたいんだが?」


「その年で自分のことを一人の女の子と言うか。ふっ、それに何か理由があることは気付いていた。恐らくここに来て一週間以内には殺しの小隊がくると予想していたのに一向に来る気配がなかった。となると国内で何かトラブルが起きていると考えるのが俺達の常識だからな」


「ふふっ。口の悪さはそうならないと生きていけなかった環境のせいだとしても環境を言い訳にせずしっかりと知識を保管するぐらいには勉強に励んでいたらしいね。そうさ私がお前の脱走の件については異例だから待てと命令していた。そして一つ言っておこう。一人の女の子と言うのは私ではなくお前の隣にいる女の子だ」


「それはどういうことだ?」


「銀幕はファントムに恋していると言えば分かるかね? あの時命を助けてくれたあんたに恋したんだよ。でも国の逃亡者は必ず殺すのが国のルールだ。そこで銀幕は私の所に来て、頭を地に着けファントムは必ず戻ってくるから猶予をくれと言いだしたんだ。理由を聞いてみると私の判断で強制的にこうなったのだから多めに見て欲しいと言う内容だった。しかし国のルールに特例がないことは銀幕の立場なら百も承知だ。だからもしファントムが戻らない場合は、ファントムを処断した後その責を負い自害するって言い出してね。国としても最年少の未来ある隊長を失うのは避けたい。だから私が時間稼ぎをしたがお前は戻ってこなかった。そう銀幕にとってお前が国に戻ってこないということは、自害もしくは好きでもない男と子供を作って生涯を終える道しかないんだよ。だから戻って来てくれないだろうかね?」


「それは銀幕の問題であって俺には関係のない話だな」


 突然銀幕がファントムに抱き着いてくる。そのままキスをする。その行動が予想外過ぎてファントムには理解ができなかった。周りにいた男たちも突然の出来事に戸惑い始める。


「ファントム。ううん。大和のことが私好きなの。だから私とずっと一緒にいて。私が必ず貴方を守るから」


 大和が見ると、少女の目には初めて見る涙があった。


「悪いな。さっきも言ったが国に戻る気はない」


「なら私も一緒にこのまま死ぬ。大和となら何があってもいい」


 女王陛下がここで初めて慌てる。


「銀幕何を言っている。隊長のお前さんがファントムと心中したらこの国はどうなる? 国の戦力はがた落ちだぞ。言い方はあれだがお前さんは美人だ。齢十五、六にしてその美貌に惑わされた男たちは少なくない。なによりお前さんと近しい男どもの大半がお前さんに好意を持っている。もしお前さんがここで死ねば国家の一部が一時的にだが機能しなくなる可能性だってある」


「女王陛下申し訳ありません。私は好きな人と一緒に生きる道を選びます。その為なら全てを捨てても構いません。私は大和に人生の全てを懸けてでも償わないといけません。彼の家族と心を殺したのは紛れもない私ですから。大和の家族に救援要請と敵の拠点情報などを教えたのは私です。それに大和が私に好意を抱かなくても私は残りの人生、大和の為だけに生きて愛します。だから大和が死ねば私は私の中での存在意義を失います。それに女王陛下は勘違いされております。ずっと皆にも黙っていましたが私が大和を好きになったのは、国家戦闘員として初めて会った時からです。当初私が一般兵だった頃、姉といつも一生懸命訓練に打ち込む彼に私は一目惚れしてしまいました。年も近かったこともあり好きと言う気持ちに抵抗はありませんでした。だから私情を挟んではいけないあの時、殿を本当は他の部下に頼もうと思ったのに私の好きな人を殿に任命した部下や私の好きな人を馬鹿にした隊長たちとは結婚する気にもなりません」


「そうか。それがお前の答えか。ならば仕方あるまい。銀幕とファントムを殺せ」


「……陛下よろしいのですか?」


「構わん。ルールはルールだ。若くして才を見せた二人を失うのはかなりの痛手だが他の者の手前見過ごすわけにはいかんからな」


「……御意」


「待て。女王陛下取引だ」


「ファントムか? なんだい?」


「俺は国に戻る。その代わり今回の銀幕の件は全て無かった事にして欲しいのと結婚は彼女が高校を卒業するまでなしとしてあげて欲しい。どうせ半ば強制であんたが今回の任が終われば誰かと結婚することを条件に色々と動いたんだろう。いわゆる国際結婚って所か? 姉から密かにそう言った情報は前々から聞いていた。高校を卒業する時までこいつが俺に好意を抱いているかは分からない。その時に誰と結婚するかはこいつ次第で銀幕自身が決める。それと俺の日常に対する身柄の保護だ。俺も国に戻り国家戦闘員として働く。別に作戦で死ぬ分にはどうでもいいが日常を生きていて暗殺で死ぬのは勘弁だ。どうだ? 未来に対する国の生命線になるかもしれない銀幕が生き残ると考えれば安いと思うが」


「面白い。いいだろう。銀幕よく聞け。これは女王としての命令だ。しっかりと愛する者が二度目の逃亡をしないように連れて帰ってきな。じゃあね、国で待っているよ」


「チッ。あの様子から察するに最初からこうなること分かっていたな、あのババア」


「あはは!!! 私は勘のいいガキは嫌いだよ!」


 強制的に通信が切れファントムは銀幕の部下たちと国に戻った。



 それから約二ヵ月後に魔獣が街を襲ってきた時に大和は華に命を救われ、今回もある意味救われている。


「銀幕の狙いは俺の保護が目的か?」


「だから二人の時は銀幕じゃなくて華って呼んで! でないと回復魔法切るけどいいの?」


「わ、わかった。それで華の目的は?」


「そうよ。何があっても私が大和を守れるようにする為に仕組んだことよ」


「もういい。お前も俺の命を救ってくれた。だからこれでチャラってことで気にしなくていい」


「大和の心は? 失ったままだよね?」


「実はもう治っている。だからもう自由に生きろ」


「なんで嘘をつくの?」


「嘘じゃない。だからそんな顔をするな」


「なら私が大和に思っている気持ちを当ててみて?」


「…………」


 大和は嘘をついた。

 だから華の質問に対する答えとなる言葉がでなかった。


「嘘つき」


「正解は?」


 華がキスをする。

 身体の自由が効かない大和はそのまま身を預けることしかできなかった。


「これが答え。大和と一緒にいれて幸せって気持ちだよ。それにこうやって普通にキスしてるけど大和以外とはしたことないのよ。だから少しは私の思いに答えてって気持ち」


「そうか。頑張ってみる」


「本当? なら私と付き合ってみない?」


「遠慮しておくよ。華なら俺以上に幸せにしてくれる人と出会えるはずだ。その時にその人と付き合うといいさ」


「私は大和がいいの!」


「わ、わかった、わかった。絶対楽しくないと思うけどそれでもいいならいいぞ。それと二人きりの時以外、今まで通りで、周りには他言しないならいい」


「ありがとう。いいよ。国家戦闘員にバレたら皆の嫉妬で大和が殺されてしまうかもだもんね」


 すると又キスされる。

 本当に華は大和のことが好きみたいだ。


「だからそんなにキスするなって」


「嫌?」


 華の顔は心配そうに涙を浮かべていた。


「嫌じゃないけど。華ってこんなに分かりやすかったか?」


「う~ん。でも大和以外には素の私見せた事ないよ?」


「ギャップが凄いな」


「まぁね。取り繕うのは昔から上手だからね。そろそろ身体動くでしょ? 帰ろうか」


「そうだな」


 大和はある事を思い出す。

 しかし具体的に何なのかまでは思い出せなかった。



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