第3話 異論は沢山あるのですが……
魔法に関してはいずれバレるだろうし特に隠す必要もない。
だが気が強い女は昔から苦手。
いつも人の事は後回しで自分の都合を押し付けてくるあたりが特に苦手。
それでも三年間は仲良くするしかないのだろう。
「ちなみにこの後少し時間あるかしら?」
特に予定はないが大和は面倒事に付き合わされるのも嫌なので嘘をつくことにする。
「すまない。この後は予定がある」
「そう。なら私が力づくで連れて行くしかない……わね?」
大和としては演習の時と同じく今も選択させるだけさせて無視するなら最初から要件を言って欲しかったりする。
だけどそれを言っても無駄だと思い、喉まで出てきた言葉を呑み込んで言わない事にした。しかし考えとは裏腹に、大和の口は自分が思っているより素直だった。
「俺の話聞いてた?」
「ん? 文句あるの? このまま帰ると家に入れないけどそれでもいいの?」
「何馬鹿な事言って……」
大和の言葉が途中で詰まる。春奈が先ほどから細い指を使い回転させてある銀色に光るリングの先についている物の正体に気付いたからだ。
大和の家の鍵は今、春奈の手の中にある。
つまり大和は既に人質を取られていた。
不幸だ、と心の中で落ち込む大和。
「ちなみに私と今からデートしてくれたら返すけどどうする?」
春奈の手の中にあった鍵が今度は春奈のブラウスの胸ポケットに姿を消す。
「えぇ~まぁ、うん、わかった。それで何処に行くつもり?」
大和としてはこの上面倒な状況で嫌気がさしていたが、そんな心情とは別に頭が冷静に現状を分析する。春奈はデートと言っているがその前に「連れて行くか」と言っていた。恐らく何処かに行って用が終わればそれで終わりになるだろうと大和は考えた。エネルギーを極力使わずに帰るまでの道筋を考えると今は大人しく従うが得策なのかもしれない。
「生徒会室」
「はぁ? なんでそんな所に?」
「ん? クラスの代表者は任命された日に生徒会室に行き諸々の権限依託をしてもらい、それが終わり次第初めて代表としての権限を使えるようになるからよ」
「それは知ってる。なんで俺まで行かないといけない?」
「ん~何となくかな」
「お前なぁ……」
大和からため息でる。
「嫌なの? なら私は一人で行くね。じゃあ」
保健室の扉を開け出ていく春奈を慌てて追いかける。
家の鍵さえ人質になっていなければ、ここで帰るが今回はそうもいかない。
「ちょっと待て。家の鍵は?」
「ん? デートしてくれたら返すと言ったはずだけど。デートしてもないのに返すのは嫌。赤城は私と生徒会室までデートをするか、私の胸ポケットから鍵を力づくで奪うか、諦めるかの三沢しかないよ。ちなみに鍵取る時に胸触ったら訴えるから」
「あぁ~もうわかったから。生徒会室まで一緒に行けばいいんだろ?」
「そう? だったら最初から素直にそう言えばいいのに~」
春奈に完全に遊ばれている。
ここで鍵を無理やり奪って春奈が胸を触られたなんて校内で言い出したら誤解しか生まれない。大和は葛藤する自分の心と向き合いながら冷静に状況判断をした。
「それで本当の理由は?」
「本当って?」
「とぼけるな。生徒会室に俺を連れて行きたい理由だ」
「なんだ。気づいてたの。面白くないなぁ」
「当たり前だ。早乙女が保健室で俺を待っていた理由。もし看病じゃないと仮定した時、何か特別な理由があるとしか思えない。それに看病なら保健室に先生がいる。すると必然となにかあると予想はつく」
「大した推理欲ね。まぁ生徒会室に着いたし本人に直接聞けばいいよ」
春奈が生徒会室の扉を開くと今年の一年生学園ランカー四人と生徒会メンバーがいた。一斉に皆が春奈とその後ろにいる大和を見る。ただ見られているだけなのに圧が凄い。
「ようこそ生徒会へ。私はここの生徒会長をしている鏡月華(きょうげつはな)です。クラス代表の早乙女さんと付き添いの赤城君ね」
「遅くなってすみませんでした」
春奈が生徒会長に頭を下げる。
鏡月の名は学園を超えて有名だ。
「気にしなくていいわよ。権限依託さえ終わればとりあえずクラス代表の方々は帰ってもらって大丈夫ですから」
生徒会長は笑いながら、校内専用携帯端末からそれぞれの代表者に権限依託依頼と言う文面でメッセージを送る。各々のクラス代表者がそのメッセージを一通り読み終わると承認のボタンを押していく。蓮華学園の最高権力者は生徒会長であり、その下に副会長、書記、各委員会委員長、生徒会メンバー、学年の代表者、クラスの代表者、学園ランカー、一般生徒となっている。基本的にはこの縦順列で権限を持っていて先生達ですら生徒会メンバーと同じ権限しか持ち合わせていない。唯一校長先生と、教頭先生が生徒会長以上の権限を持っているが余程の事がない限り職員は口を割り挟んでこないので、学園の全ては実質的に生徒会長の一存で資金管理を含み全て運営されている。
大和達の前にいる鏡月華は一年生で生徒会長に抜擢ばってきされた天才少女だ。それはこの国に住んでいる人なら全員が知っている程の有名人となっていた。圧倒的魔法、魔術センスに頭の回転まで早くおまけに美人と来た。顔立ちが整っており何より腰下まである銀色の髪が印象的だ。魔法は本来魔法陣を設置して条件下で発動する魔法。魔法陣に術式を加えるのは大量の知識が必要なのだが目の前にいる鏡月と言う人間はいとも簡単に魔法陣を使える状態まで持っていく。
「ではクラス代表者の方はもう帰ってもらって大丈夫ですよ。私は今から赤城君とのお話がありますので」
「え? 俺?」
大和が驚き、春奈が口を挟む。
「私達も一緒に聞いて構いませんか?」
周囲を見ると周りのクラス代表も同意見と言った感じで生徒会長を見ている。生徒会長と大和がどんな話をするか気になるみたいだ。それに春奈がここで帰ると大和としては家の鍵がまずい。
「別にいいですけど……つまらないお話ですよ?」
「構いません」
生徒会長は少し考え、生徒会メンバーに椅子を用意するように告げる。するとすぐに椅子が用意されたのだが何故か大和のだけなかった。
「赤城君? 貴方の椅子はないわよ?」
大和が心の中で疑問に思っていた事の答えが当たり前のように聞こえる。大和の顔を見上げ、首を傾げながら言ってきた生徒会長に大和は一瞬殺意がわいてしまう。
「あらら。殺意なんて人に向けたら駄目ですよ?」
大和は焦る。今の殺意が見破られたことに。大和は頭の中で何が起きたか分からなかった。殺意と言っても一般的に冗談半分で使われる程度の物で周りが察する事はほぼ不可能に近い。それなのにこの人は当たり前のように気づきましたといった感じだ。周りの生徒会メンバーは顔色一つ変えてないがクラス代表者は全員が嘘だろうと言った表情をしていた。
「用件を聞きましょうか?」
「それもそうですね。先に言っておきますが赤城君に拒否権はありませんよ。現時刻を持って貴方を一年生学年代表に任命します。又非常時おいては権限レベルを生徒会メンバーと同じ権限とします。異論はありませんね?」
大和は頭が痛くなる。この状況が全く分からない、そもそもどうしていいかが分からなかった。どうなっている。それでも一つの答えが頭の中ではっきりと出てくる。何故そんな面倒な役回りをしなくてはならない。何かある度に報告が来て、決定を下すとか絶対に嫌だ。仮に皆が何も面倒な事をしなくても、外部から魔人が攻めてこないとも限らない。
「異論はあります。絶対に嫌です」
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