第2話 異論? ありますけど?


 二人の魔法師――集中。


「魔力全開放。全魔力、魔力回路に集中、そして我が身を護る剣となれ」


 大和が詠唱をした。

 白色の魔力のオーラが身体を包み込む。

 魔力のオーラはとても使い勝手が良く大和は重宝している。

 他の魔法使用時に必要な魔力をオーラから供給することで魔力生成に掛かる時間を短縮したり相手の魔法攻撃からオーラが盾の役目を果たし身を護ってくれたりするからだ。


 集中した春奈の鋭い眼光。

 その中心にある黒く綺麗な瞳は大和の姿をとらえている。

 まるで肉食動物に睨まれた草食動物のようだ。


「それが噂に聞く魔力のオーラ? 習得難易度Aランクの高魔法を簡単に使ってくれるのは嬉しいけど、学園ランカーの条件にAランク魔法は必須って事を考えれば普通ね……それに地味で芸がないわね」


 春奈の詠唱に大和が警戒心を強める。

 足に力を入れて一歩踏み出した。

 大和は小さく息を吐き出して調子を整え身構える。


「天に招かざる者、その業火の罪を受けよ。全てを焼き付くせ火竜、火竜の豪炎」


 赤い魔法陣が春奈を中心に広がり魔法が発動する。

 直径一メートル程の火炎が五発飛ばされる。

 さらに追撃を試みる春奈。


「火は万物にして全てを燃やし尽くす。追撃せよ炎の槍」


 魔力のオーラを操作して五発の火竜の豪炎をガードする大和。

 火竜の豪炎は魔力のオーラに被弾後、被爆し綺麗な火の粉となり宙に舞い姿を変える。火の粉で視界が悪くなった中、炎槍を生成し手に持ち大きくジャンプし上空から大和に向かい突進してくる春奈。炎槍は魔力で作られた炎を纏っており、殺傷能力を大幅に強化している。下手に素手で触れば大怪我は免れない。


 突撃してくる春奈に対して大和は素早く詠唱を開始。

 そして春奈の一撃を躱すため、後方にバックステップ。


「甘いッ!」


 そんな大和に向かって突進する春奈。

 大和は攻撃に転ずるため足に力を入れて前へと踏み出す。


「我に力を与えよ。レジスタンス」


 大和の右手に剣が生成された直後に炎槍が容赦なく頬を掠める。炎槍の炎は魔力で生成されており大和は魔力のオーラを纏っている為、頬に掠める瞬間炎だけはガードされた。剣と槍が衝突する音が幾たびにも校庭に響き渡る。


 流石だ。

 と、心の中で感心する大和。


 ここまで槍を自由自在に操る人は同じ年では滅多にいないだろう。何とか食らいつくも、もし魔術のオーラで身体機能をあげていなかったらと考えると彼女は本当に恐ろしくも強い。


 両者激しいつば競り合いを終え一旦距離を取り相手の出方を伺う。


「赤城君は接近戦得意?」


「どっちかと言えば苦手だけど」


「そう、それなのにその剣裁き矛盾している気がするけど。それにしてもその魔力のオーラは一体なんなの? 火竜の豪炎はBランク魔術でもトップクラスの破壊力を持つ。それなのに防衛魔術すら使わず防ぐなんて普通ありえない。それに剣の生成も詠唱が終わると同時に終わるってどうなっているの?」


 春奈の言いたい事はなんとなくわかる大和。


 魔法は基本的に詠唱が終わってからそれに合わせた魔法回路を構成。

 そこから魔力が必要な場所に供給し実行もしくは物体を生成する。

 だから絶対に一流の魔術師でもそこにコンマ数秒のタイムラグが発生する。


 しかし大和は詠唱を開始すると同時に身に纏った魔力のオーラから魔力の供給を開始することができる。魔術のオーラが勝手に魔力回路を外部で生成し使用までの過程を代行してくれるからだ。

 魔力源となる魔力のオーラ自身が必要な魔力を賄いそのまま魔法を実行する。

 後は発動の座標の位置を正確に頭の中で描き、詠唱で合図をすれば問題なく魔法を使えるというわけだ。

 デメリットも当然有り魔力のオーラの維持に大量の魔力を常時使用する為、長くは使えない。


「少し教えるなら、魔力のオーラは基本的に魔法攻撃に対しては効果が強いけど、物理攻撃にはとても弱い。だけどその欠点を補うという意味で身体能力向上効果が備わっている。ただし魔力の消費量はその分多いがな」


 大和は一部の例外を除き、Bランクまでの魔法攻撃は完全防御できる事は黙っておくことにした。それでやけになって春奈が遠距離魔法を連発でもしてくればそれこそ火に油を注いでしまうことになる。防御するのも魔力を元として行っているので連発で攻撃され続けたらこちらが魔力切れを先に起こす可能性を考えると全てを教えるのは得策じゃないと判断したのだ。


「それで火竜の豪炎は防がれたけど物理的な炎槍の攻撃は通じたわけね」


 納得する素振りを見せる春奈。


「そうだ」


 大和は左手を地面に向かって伸ばす。


「五大元素の一つ水よ、球体となりて直進せよ。球水」


 青の魔法陣が大和の左手が触れている所から広がっていき魔法が発動する。空気中の水素を元に魔力で生成された直径十センチ程の球体の水が四発、大和の周りに浮かぶ。

 間髪入れず補助魔術の詠唱に入る。


「水に形はなし、水は万有の形になる。弾けろ」


 大和の周りに浮遊している水の球体四つが春奈に向かって突撃。


「地獄の業火、全てを焼き払え。獄炎」


 春奈の周りに炎の壁が出来る。

 水の球体は全て炎の壁に衝突すると同時に蒸発し消える。


 大和は猛スピードで春奈の元へ飛び込んだ。炎の壁をジャンプで乗り越え上空から剣を振り上げそのまま落下していく。それに気づいた春奈が大和の剣を躱し炎槍で反撃してくる。しかし今回は大和も引けない。大和にとって接近戦は苦手だが出来ないから苦手なのではなく、疲れるから苦手なだけだ。剣が宙を舞うように春奈を襲う。大和がどんなに攻めても春奈には届かず後一歩の所でいなされる。いなし、いなされては攻守が変わる。その繰り返し。


 剣と槍が衝突しあう度に聞こえる衝突音、互いが学園ランカーである為、拮抗する二つの力。衝突音が鳴り響く度に大和の生成したレジスタンスの刃が少しずつ、刃こぼれする。


 魔法のランクは生成される強さに比例する。

 武器の場合は魔法のランクが高い程耐久性や切れ味が良くなり、低いと悪くなる。

 それでも大和は積極的に攻めた。


 つまりBランクの炎槍とCランクの剣がぶつかれば必然的にCランクの剣の方が先に刃こぼれし折れる。


 このままではジリ貧だが試合も後二分ぐらいで終わる。

 なんとかなると考えた大和。

 しかし大和の頭の中には嫌な予感があった。

 それは春奈がまだAランク魔術を使っていないことだ。


 しばらくして違和感が確信に変わる。

 

 周囲の不自然な温度変化。

 この魔法の波長――大規模魔術。


「全て爆ぜよ、我が願い聞き届けろ」


 大和はこの詠唱がAランク魔術の火花だとすぐに気付いた。

 魔力のオーラに膨大な魔力を注ぐことで瞬間的に最高値まで防御力をあげる。


 しかし魔力のオーラを破って火の粉の爆発と爆風の両方が大和を襲う。


 火花をまともに受けた大和は意識を失った。



 ――。


 ――――。



 大和が目を覚ますと白い天井が視界に入る。

 夕暮れの日差しが目に入ってきて眩しかった。

 そもそもここは何処だ。

 仰向けになっている身体を起こし状況を確認する。

 するとベッドの横の椅子に座っていた春奈が起き上がる大和に気付く。


「大丈夫?」


「何が?」


「身体の事よ。何処か痛む所とかはない?」


「ないけど。それよりここは?」


「保健室よ。赤城君は私の火花を受けた後、意識不明になったから保健室に運んで私が看病していたの」


「…………」


 言われてみればそんな気がしなくもない。

 確か火花の爆風で飛ばされた時に頭を強く地面に打ってそこから意識が朦朧としたのを覚えている。


「それより聞きたい事があるわ」


「なに?」


「最後、オーラの防御力あげたわね? あれはどうゆうこと?」


 流石に学園ランカーには小細工が通用しないみたいだ。

 春奈は先ほどの攻防で大和の魔力のオーラには何か秘密があると睨んでいるのかもしれない。


「普通に魔力を注いだだけ」


「手加減をしたとは言え、火花の攻撃力はBランクの攻撃魔術とは桁違いの威力よ。それなのに貴方は意識を飛ばした以外怪我や火傷すらしてない。普通に考えて可笑しいのよ」


 春奈の言葉には熱が入っている。

 春奈としてはいくら加減をしたとは言え大和が自分の必殺魔法をくらって結果的に無傷でいる事がなにより悔しいのかもしれない。


「魔力のオーラはAランクだけど、本来はAランク魔法実行の補助、もしくは防御魔法補助が本来の姿。Bランク魔法が防げると言ったのは、あくまで格下魔法は効かないと言う意味。これで少しは納得する?」


「そうゆうこと……だったのね」


「他に質問は?」


「ないわ」


「そっか」


「後これからは早乙女でいいわよ。私は貴方のこと、赤城って呼ぶから」


「わかった」


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