第4話 生徒会長との出会い


 生徒会長が笑顔で首を傾けた。


「あら。私に反論して来た人はこの学園では初体験の事でビックリです。でも何故ですか? 普通なら喉から手が出る程喜ぶ事ですよ。クラス代表までは任意で決まる部分が大きいけど、生徒会や学年代表者は学園全体で見ると高権限者になる為、基本的に任命されないとなれないのですけど?」


「ただ単に面倒だからですけど?」


 春奈や他のクラス代表者はこの状況を納得できないと言った感じだ。

 だがそれ以上に大和が一番納得出来ない顔を見せている。


「何故こいつが学年代表なんですか?」


「普通はクラス代表からの選抜ですよね?」


「おい。生徒会長だからってふざけてるのか?」


「こいつは早乙女に負けてる。それに入学実技テストも俺たちの中じゃ最下位だった。そもそも学園ランカーなのも不思議なくらいな奴だ」


「赤城てめー汚い事したなー」


 生徒会長が鼻で笑う。

 そしてやれやれと呆れた表情を見せる。


「貴方たちは私を怒らせたいのかしら?」


 その瞬間、周囲が一気に静かになる。

 生徒会メンバーは眉間一つ動かしていない。

 だけど部屋の温度が今ので一度は下がった。

 そう感じるほどに生徒会長の微笑みの裏にある感情が重たい。


「まぁいいわ。理由をお話します。ただしこれは他言ですよ。赤城君の実力は貴方たい以上のものです。学園と私はそのことを事前に知っていました。だから学園ランカーにも任命されていますし、今私からのお誘いも受けています。確か貴方たちは全員Aランク魔法と魔術までしか使えませんよね? しかし私と同じように彼は本気を出せばSランクまで扱えます。そして国家非常緊急事態に対して私と彼は国の補充要因として呼ばれ最前線で戦うことになります。ここまで言えば分かると思いますが彼は私と同じ高校生としては数少ない国家戦闘員で精鋭魔術師の一人です。と言っても国の学生では二十人程いますが。Sランク魔法と魔術は国でも扱える者が一割もいないことは貴方たちもご存知ですね? それでも彼の実力が不十分だと言えますか?」


 魔法と魔術の違いは触媒を必要とするかしないかの差しかない。

 鏡月華は大和の秘密を知っていた。

 厳密に言えば知っていなければならない存在だから。

 対して大和は鏡月と言う名前は知っているが大和が知っている鏡月はこんな奴じゃないことに戸惑いを感じていた。大和の知っている国家戦闘員の鏡月はこんな話し方ではなかったからだ。どうも引っかかるが大和はしばらく様子見をすることにする。これには何か裏がありそうだと考えたからだ。 

 生徒会メンバーですら国家戦闘員と言うことを初めて知ったのだろう。皆が鏡月華の言葉に唖然としている。先程まで文句を言っていた五人ですら何も言わなくなっている。一人を除いて。


「生徒会長のお話は本当ですか?」


「早乙女さんは私が嘘を言ってると?」


「決してそんなわけではありません。ただお話の内容が大きすぎて頭での理解が間に合っていないのが事実です」


「なら見せた方が早いわね。赤城君今から私と演習するわよ」


「え? 俺は……」


「もし貴方が勝てば学園代表の件は取り消すわ。ただし負けたら受けて頂戴。それならいいわね?」


「……わかりました」


 だから春奈と言い、鏡月華と言いちゃんと選択肢を与えて欲しいと大和は願うがそれが叶う事はしばらくなさそうだ。こんな面倒な事は絶対に間違っている。そもそも大和の意思が何処にも反映されていない時点で勘弁してほしかった。

 ここで断っても話の流れからしてどの道戦闘は避けられないと大和は判断した。

 蓮華学園の生徒会長の強さは前に何回かテレビ越しで目にしたことがあるけど本気の大和でも勝てない。それなら適当に負けた方が楽で良さそうだ。どうせ勝てないのに粘っても学園代表になる運命は変わらないだろうし。


 全員は生徒会室地下にある特別演出室へと移動する。生徒会メンバーとクラス代表の五人は観覧席に行き、大和と鏡月華は演習広場に行く。ガラス越しに皆の姿が見える。二階が観客席になっていて一階が演習場になっていた。それにこちらの声は向こうに聞こえているみたいだけど向こうの声は聞こえない仕組みになっているみたいだ。


「さて、着きましたけど準備はいいですか?」


 鏡月華が髪をほどく。

 それを見た大和は全てを察する。

 あの時、大和が自然に学校に溶け込めるように女王陛下に魔法で記憶の一部に細工されていたことを思い出す。

 その魔法式は大和も知っていて思い出した記憶では『鏡月華の魔力を全身で感じる』が解除の鍵にされていたことを。


「……そういうことかよ。生徒会長、質問いいですか?」


 鏡月華は笑顔だがその笑顔の裏に何かあると思うとめっちゃくちゃ不気味だ。

 嫌な記憶が蘇った大和は息を呑み込んだ。

 手汗が止まらない。

 数ヶ月前……。


「第一部隊撤退開始、第四部隊と第六部隊通信途絶、第七部隊シグナルロスト……指令指示を」


「くそ……あの魔獣の強さはなんだ。間違いなく精霊レベルだ。主人を倒されなければここも終わりだ」


 モニター越しに国の精鋭魔術師をどんどん倒していく魔獣。それを見つめ、指令からの指示を待つ作戦本部と戦場。この時多くの者が生きる事を諦めていた。この状況では逃げるにも負傷者が多く連れて逃げることができず皆の魔力もほとんど残っていたなかったからだ。魔人が使役する魔獣は初めて目にする者がほとんどの精霊レベルだった。精霊レベルは人の域を超えた強さ、例えるなら神話のおとぎ話に出てくる神獣のようなものだがその魔獣を他の戦場から駆け付けた一人の若い女の子が次々と倒した。魔獣の数が多く結局ジリ貧になるが、その強さは圧倒的であった。仲間ですらその強さに畏怖を覚える者は少なくなかった。大和はそんな女の子を目の前で見ていたが特に何も思わなかった。

 何故なら正直どうでも良かったからだ。

 命があっただけでそれ以上何も思う必要はなかった。

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