カタリナさんが好きなもの 04
指を顎にあてがい、しばし考えたあとでカタリナが答えた。
「最後に食べたのは、1ヶ月前くらいかな」
それを聞いてモニカが難しそうな顔を作る。
「ふむふむ。ということは、笑うドラゴンに加入する前ですね?」
「そうなるわね」
「なるほどなるほど……」
モニカが「これは良い情報を得た」といわんばかりに、フフフと笑う。
だが、すぐにはっと我に返った
「あれ? でも、これで何がわかるんですか?」
「知るかよバカ」
本当にバカだ。質問する前に気づけよ。
黙っていると可愛い顔をしているのに、その残念な性格がすべてを台無しにさせている、文字通り残念なやつだ。
モニカが「え〜ん、失敗した!」と頭を抱えているそばで、今度はサティが遠慮ぎみに手を挙げた。
「あ、あの……そ、その食べ物は、このお店で食べられますか?」
おおっ、なんだか良い質問じゃないか?
気弱でビビリだから気圧されて変な質問するだろうと思っていたけど、意外と的確じゃないか。
「このお店にはないかもしれないわね」
「そうですか……ということは、庶民はあまり口にできないものか……それとも、なにか特別なときに食べるものか……」
いいぞサティ。ナイスアシストだ。
これで少しだけレモンのはちみつ漬けに近づいた。あとは「どんなときに食べるものですか?」みたいな質問をすればカンペキだ。
頑張れサティ。俺の未来はお前にかかっている。
そう思って彼女を応援していたのだが──
「あ、これ見てサティちゃん。メルルーサのリンゴ酒煮だって」
となりの天然ボケ娘がメニュー片手にサティに話しかけやがった。
「なんだか、美味しそうじゃない?」
「あ、それ食べたことあります。さっぱりしていてすごく美味しかったですよ」
「ほんとに? じゃあ、これ頼んでみようよ?」
「そうですね」
キャイキャイと盛り上がりはじめる女性陣。
てめぇ……意味のない質問をするだけじゃなくて、サティの邪魔までするとは。
「あ、質問思いついた!」
と、そんなお邪魔虫モニカが、突然挙手をする。
「はいはい、カタリナさん! 次の質問いいですか!?」
「だめ。質問はひとり一回まで」
「ぎゃっ!? いつの間にそんな特別ルールがっ!?」
(ごめんね。でも、これ以上質問されたら、ピュイくんに不利になっちゃうから。わたし、ピュイくんにあ〜んしてあげたいんだ)
カタリナは心の中で浮いた言葉を囁きながらも、俺をじろりと睨む。
「……あなたは権利すらないからね?」
「辛辣!」
その胸中のデレ具合を少し表側に出してくれませんかね、カタリナさん。
というか、本当に何なんだよこいつ。当ててほしいならもっと甘くしてくれよ。
しかし、そんなことを言っても事態は好転しない。
質問がひとり一回までなら、残るはガーランドだけ。
頼むぜ、ガーランド。
「結局、妻を持つ俺にしか女心というのはわからんらしいな?」
ガーランドが呆れたようにため息を漏らす。
頼むぜとは言ったが、なんでそこまで得意気なんだ。
偉そうに言ってるけど、お前、いつも嫁さんの尻に敷かれているじゃねえか。たまに店の裏で「依頼が終わったら家に直帰しなさい」と叱られているの知ってるんだからな?
「覚悟しろカタリナ。俺がずばり核心に迫る質問をしてやるからな」
ガーランドが不敵な笑みを浮かべる。
それを見て、ギョッと肩をすくめるカタリナ。
(え、ほんとに? なんだか怖いよ……ぴえん)
「……」
絶句。ドラゴンを一人で倒したなんていう逸話を持つ最強冒険者の言葉とは思えん。多分、倒したドラゴンもあの世で呆れてるぞ。
ガーランドが、ずいと身を乗り出してくる。
「カタリナ、それは……食べられるものなのか?」
「……え?」
カタリナはしばらく目を瞬かせたあと、気まずそうに答える。
「ええと……そ、それはもちろん……だけど?」
「ふむ、そうか……」
ガーランドがずしんと椅子に腰掛けなおし、難しそうな顔で腕を組む。
しばしの沈黙。
俺は親バカ脳筋野郎に詰め寄った。
「おい! 何をわけのわからんこと質問してんだっ!」
「……!? な、なんだいきなり」
「せっかくのチャンスを不意にしやがって! なんだよ『それは食べられるものか』って!? 好きな食べ物当ててんだから、食べられるに決まってんだろ!」
「な、何を言っている。相手はあのカタリナなんだぞ? 常人では食べられんものでもイケる口かもしれないではないか」
「んなわけあるかっ!」
この男はカタリナをなんだと思っているのか。
いや、たしかにカタリナは、化け物かと思ってしまうくらいに人間離れした強さを持ってるけどさ。
ダメだ。
やっぱりコイツらは──期待通りダメダメだ。
このままだと、カタリナに辱めを受けてしまう!
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