カタリナさんが好きなもの 03

「やっぱり俺もやるぞ」


「えっ!?」


 驚いたようにカタリナがぎょっと目をみはる。


(わ、わ、わたし……ピュイくんにあ〜んしちゃうの!? みんなの前でそんなことしたら……公認の仲になっちゃわない!?)


 ……うん。色々と気が早いなカタリナさん。


 しかし狙い通りだ。これは期待できる。


 覚悟しておけよと胸中でカタリナにほくそ笑む。俺は、すでにお前の好きな食べ物を知っているのだ。


 彼女がパーティに参加して一ヶ月経つが、何回か「はぁ〜、レモンのはちみつ漬けがたべたいなぁ……」と、心の中で囁いているのを聞いているのだ。


 レモンのはちみつ漬けは庶民でも口にできる安価な食べ物だが、食卓に並ぶようなものではない。風邪を引いたり、教会の祝日や誕生日に食べることが多い。なので、子供に非常に人気がある定番スイーツなのだ。


 そんなものが好きなくせに、よく俺に「子供ね」なんて言えたものだ。


 まぁとにかく、カタリナの好物がレモンのはちみつ漬けなのは確定なのだが、問題がひとつだけある。


 いきなりズバッと当ててしまったら、ズルを疑われてしまうかもしれない。


 カタリナが誰にも好きな食べ物を教えてない以上、一発で当ててしまえば何かしらのスキルか魔術で知り得たのかもと怪しまれるだろう。そこから読心スキルが連想されてしまう可能性はある。


 そうなったら、パーティ解散まで一直線。こんなくだらないゲームでパーティが解散だなんて実にアホらしすぎる。


 ここはじっくりやろう。


 まずは適当な質問をして、カタリナの口からレモンのはちみつ漬けにつながるワードを引き出すしかない。


「よし。それじゃあ、ゲームをはじめようか。早速だけど俺から質問していいか?」


「だめよ」


 食い気味に即答された。


「あなたの質問には答えてあげない」


「な、なんでだよ!?」


「だって、なんだか良からぬことを企んでるって顔をしてるもの」


「……っ!?」


 しまった。仕返しの機会を得られたと思って、顔に出でしまっていたか。


(ピュイくんにあ〜んしてあげたいけど、なんだか警戒したほうがよさそうね)


 心の中でも警戒するカタリナ。


 なんだかんだ言って、あ〜んしてあげたいのかよ! なら、そこは素直になってくれよ! ズバリ言い当てることができるんだからさ!


 しかし、こうなってしまったらカタリナは絶対俺の質問に答えてはくれないだろう。他の奴らが的確な質問をしてくれるのを祈るしかない。


 なんという他人任せ。


「わたしたちは普通に質問していいんだよね?」


「もちろんよ、モニカ」


「やったぁ!」


 一歩リードだ! といいたげに得意気な表情を見せるモニカだったが、こいつにだけは負ける気はしない。


 いや、モニカだけではなく他の連中もそうだ。


 ガーランドは親バカ脳筋だし、サティは対人恐怖症、モニカに至っては天然のアホだ。もちろん全員いい奴らで頼れる仲間なのだが、こういう事に関しては負ける要素がない。


 ……


 …………


 ちょっと待て。だとしたら、こいつらに「レモンのはちみつ漬け」に繋がる質問なんて期待できなくね?


「じゃあ、わたしから質問ね!」


 俺の不安をよそに、最初に立ち上がったのは、メンバーの中でも一番当てにならなさそうな天然娘のモニカだった。


「えっと……その食べ物を最後に食べたのはいつですか? えへへ、どう?」


「……」


 えへへ、どう? じゃねぇよ。


 カタリナが「え、そんな質問でいいの?」って顔をしているじゃねぇか。


 うん、わかる。そういう反応になっちゃうよね。俺も目玉が飛び出しそうになっちまった。


 それで仮にカタリナが「昨日食べた」と答えたとして、どうやって正解を導き出すつもりなんだ。


 もしかしてあれか? ウチの女子メンバーの間では「昨日だったらリンゴで、一昨日だったらイチゴ」みたいな、そんな法則性でもあるのか?


 ……んなもんあるか!


 百パーセント適当。やっぱり全っ然期待できない。こんなんじゃ、百回質問しても「レモンのはちみつ漬け」に行きつくわけがない。


「……ん?」


 と、俺はようやくそのことに気づく。


 というか、このまま誰も正解にたどりつけなかったらヤバいのではないか。


 一部とはいえカタリナの晩飯代を払うことになり、さらにカタリナの好きなところを言わされるハメになる。


 前者はまだしも後者は嫌すぎる。


 カタリナに恥辱の仕返しをするどころの話ではない。


 反省会で恥辱の胸中デレ地獄を味あわせられた上に、ここでも辱められるなんて、なんでそんな罰ゲームを受けないといけないのか。


 ああ、畜生。こんなことになるなら参加しなきゃよかった!


「はい、じゃあカタリナさん、お答えくださ〜い!」


 しかし、心の中で嘆いている俺をよそに、負けが濃厚な「カタリナの好きな食べ物当てゲーム」は進行していくのであった。





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