18 : アレク (Story)



「……全員が揃ったところで、今回の一連の事件についての話し合いを始めたい。

 皆忙しいのに集まってくれてありがとう」


 重苦しい空気を和ませる様に、兄はそう言ってニコニコと微笑んでいる。

 気軽に雑談という雰囲気ではなかっただろう、三つ子の誰かが細く長い息を吐いていた。


「まずはあの決定的な事件が起こって以降の関係者の情報を、正確に共有してもらいたい。

 噂や話で聞いたことがあると思うけれど。

 事実確認が終わって、私達に関わりがあるだろう人達が、あの後どうなったのか。

 その上で、今後私達がどのような方向に舵を切るのか、話し合って決めたいと思っているよ」


 そう言い切って、兄は小さな嘆息を落とす。


 何をどう話し合うにも、各個人が持っている情報や事情だけで話すのは建設的ではない。

 まずは何が起こったかの情報の共有をしたい、思考の土台をフラットにしたいというのは兄らしい話だと思う。


 皆、思っている事や言いたい事、主張したい事、今後への不安……

 様々な感情が腹の中に渦巻いているはずだ。



 だが、時間が経つにつれて――『聖女』に対する扱いをどうするのか、という問題が顕現化してくる。

 人々は彼女達に対して絶対的な支持を表明するだろうが、何せ聖女は一人ではない。

 そしてそれぞれが三家の後継ぎの恋人ということになれば、下手に各人が勝手な言動をすれば……

 こんな状況にあっても、どこかで不審や争いの種が蒔かれないとも限らない。


「じゃあシリウス、報告の方は君に任せても良いかな?」


「分かった。

 ……まずは例の・・事件の犯人バルガスのことだが――」



 シリウスは淡々と、抑揚のない声でこの件に関わったであろう人物達がどうなったのか、一体彼らは何をしていたのか、と述べていく。


 大体はアレクの耳に入っていることだったが、噂に留まるだけではなくきっちりと裏をとった正確な情報だと判断できるのは有り難い。



 バルガスは、路上に遺体で発見された。

 遺体を発見したのはライナスだ。

 彼はカサンドラへの凶行を詫び、身内の不始末の責任をとるとアーサーの前で自害仕掛けようとしたそうだ。思いとどまらせるのに苦労したのだとか。

 沙汰待ち状態で日々の重労働に勤しんでいる。人手は一人でも大いに越したことはない。


 ダグラスは意識を取り戻しこそしたものの、身体機能の著しい低下状態が回復せず寝たきり状態だ。その苦しみは壮絶なもののようで、毎日呪詛のように「殺せ」と呻いている。


 レイモンドは自分の館を国王やアーサーに貸与し、彼自身は「私がいては目障りだろう」と言い残し、自室に籠ったまま今に至る。


 レオンハルトは自らの先導してきた隊商襲撃事件のため魔物の卵を荷に詰め込ませたこと、ティルサの町を魔物に襲せる魔物の幼体を攫ったというその人為的な手口を証言した。

 彼もまた裁きを待つ身であるが、アイリスが魔物の襲撃を受けた際に怪我を負ってしまい――彼の告白は周囲に伏せた状態で彼女の看病に専念している。


 テオ……三つ子の同郷の後輩が、バルガスに脅されカサンドラを呼びだす偽手紙を渡すよう強要された事を自白。

 精神的にかなり不安定で、未だに部屋の隅で縮こまっているらしい。


 ”悪魔”によって、王城の地下深くの牢に繋がれた罪人が一人残らず踏みつぶされていた、というところはシリウスの表情が微妙に翳っていた。

 ……その有様は夜が明けた後、見た者全員が絶句し蒼褪める程むごたらしいものだ。

 人としての原型が辛うじて残っているところがなお凄惨な有様だった、と。



 あの悪魔はエリックが自分に寄生させたもの。

 彼を打ち倒したのは、聖女に覚醒した三つ子である、ということ。



 関わりがあった人達がどんな状況に置かれているのか。

 事実を並べられ、それを認識するだけでも動揺が走る。




「――最後に、エリックの『協力者』であった私は”ここ”にいる。

 レオンハルトと同じく、まぁ、沙汰を待つ身だな。

 今述べた人間に関する今後の処遇、断罪がこの会合の主なテーマになるのだろう。

 ゆえに私はこの先一切の話し合いの進行に口を出すつもりはない。


 裁く権利があるのは、お前達だ」



 シリウスはやはり限りなく抑揚を抑えた声で、最後にそう結んだ。


 実際にこんなにも大事になってしまった事件の後だというのに、直接的に関わっていた人間は決して多くは無かった。

 こんな大それた計画でも、決して完遂するとは思えない内容だったのが原因か。

 聖女だ悪魔だ、なんて裏で蠢いているのが自分達だと知られるわけにはいかない。

 慎重な三家の当主の人選の結果、巻き込まれてしまったのが協力者……か。


 

「そんなに皆を委縮させたり怖がらせるような事は言わなくても良いよ。

 ……大方、シリウスが説明した通りの現状かな。



 それでね。

 勿論全員の意見を聞きたいのだけど、最初に確認したい事がある」



「確認?」


 アレクは首を捻った。

 兄は静かな口調で、その場に集まる全員の顔をゆっくりと見渡す。

 この期に及んで何を確認したいと言うのだろう。

 関わった人たちの話なら、今シリウスから聞いたことが全てではないのだろうか。



「私達は、キャシーのお陰で『すべて』を知っている。

 この世界がどういうものなのか。

 リナ君やアレクのお陰で、知っている。

 この世界が閉ざされた「繰り返す」世界であったことを……。


 その全てを、公にするのか否か」


 兄の話に面食らい、皆それぞれ顔を見合わせた。

 勿論全てを知っているからここに招集を受けたメンバーなわけだが……




「流石にその話を世界中に向けて公開する意味はないと思うのだけど。

 第一、今更証明することも出来ないし。

 事情を知らない人に敢えて説明してどうしようと?


 いくら王家や聖女がそう主張し、それを信じてもらうよう努力する意味が薄い気もする。

 当然、僕はその話は伏せておくべきだと思うよ」


 ラルフの意見を皮切りに、皆も自分の言葉で意見を表明する。

 真実――全て、物語だのシナリオだの、繰り返す世界だの、アレクやリナの逆行体験。

 それら全てを詳細に国中に周知し理解を求めることは難しい事のように思える。

 混乱を生じることになりかねないし、証明できない事を自分達が主張したところで要らぬ不審の種を植え付けるだけではないか。

 下手をしたら歪んだ解釈をされ、新興宗教が乱立するきっかけにさえなりかねない。



「兄様、何故そのような事をお聞きになるのです。

 常識で考えれば、僕達の知っていることを全世界の人間に分かってもらうなど不可能で、意味がある事とは思えません。

 それに……僕は、そんな事実を今更、何も知らない人達に無理矢理分かって欲しいとも考えていませんよ」



 まさか兄とて、正直にカサンドラのことや世界の成り立ち、閉ざされていた三年間、という真実を公開しようなんて思っていないだろうに。

 ただでさえ落ち着かないこの復興の最中、常人には受け入れがたい話を「こうだったのだ」と今更知らしめることに大きな意味を見い出せない。




「……。

 皆の考えは良く分かった。

 隠し事をすることは、本来良くない事だね。

 だけど無用な混乱を生じる懸念、今後の自分達への信用問題に関わることとなっては、全てを公表することは正しいとも言えない状況だ。


 それが私達共通の認識であることを確認したかった」


 為政者側の持つ情報全てが包み隠さず公開される。

 言葉だけをとってみれば、民にとっては良い事かも知れない。


 だが、知らなくても良い情報は確実にあるのだ――と思う。

 何もかも知り得た情報の全てを公開しなければいけない、なんて融通の利かない話はない。


 第一、ただでさえ突拍子もない真実だ。そこの周知や理解に時間や頭を使うなら、知らなくても良いことなら、必要な他のことにリソースを割きたい。

 

 

 親しい友人、知人なら分かってくれるかもしれない。

 だけど知らない他人、地方の人間、被害を受けた全ての人達に「この世界は……」と説いて何になる?

 無意識の内に、「軽々しく他人に聞かせて良い話ではない」と皆、思っていたはずだ。


 何と言うか、いくら兄が正直で誠実な人柄の持ち主とはいえ、まさかこの世界に起こった全ての事情を「明らかにする」という選択肢を持っていたとは思わなかった。


 



「その事情を踏まえた上で、私の『希望』を皆に聞いて欲しいんだ」





 全てに裁きを、蹴りを、区切りをつけて。

 そして……カサンドラのこと、今後の王国の歩む道、聖女の処遇などを決めなければ折角未来に辿り着いたと言うのに、先に進めない。

 




「私は……




 今回の事件は、悪魔に施していた聖アンナの封印が綻び悪魔が復活してしまったことが発端。

 異変を察知したエリックと私が抑えようと封印の間に向かったけれど、その力になすすべもなかった。



 宰相であったエリックは、私の事を庇って落命。

 その後、国の危機を救わんと聖女が覚醒し――今度こそ悪魔を滅ぼす事に成功した。

 もう二度と、悪魔が蘇ることはない。






    それが真実になれば良いと思っている」






 真剣な表情でそう告げる兄の言っている事を、すぐに理解するのはとても難しい話であった。

 だが冗談でも何でもなくそう望んでいるのだと分かり、カッと頭に血が上りそうになる。



「進行には口を出すつもりはなかった。

 ……だが、アーサー。

 お前のその意見は、お人好しの度が過ぎている。

 それでここにいる皆が納得できると本気で思っているのか?」


 シリウスが「理解できない」と言った苦虫を噛み潰したかのような顔で、衝動的に兄へと噛みつく。



「アーサーの事だ、当然相応の理由があっての事なんだろう?

 尤も、今の段階では賛同できないかな、感情が追い付かない」



 アレクの隣に座るラルフもまた、眉間に皺を寄せ机の上に肘を乗せる。



「………。

 要するに今回の奴らの計画をなかったことにしてやるってことか?

 は、お前――頭にお花畑でも出来たのか?」



 ジェイクもまた、完全に憤りを噛み潰したような形相である。

 もしも腕が自由に動いたのなら、兄に掴みかかって胸倉を掴んでいたのではあるまいか。

 そんな勢いを感じ、アレクは首を竦める。






「王子、私は王子の意見に賛成です。

 というか、その結論に至らないのなら――私もそうなるよう何とか説得するつもりでここに臨んでました」





 凛とした声が、騒然とした場に響く。

 はっきりとした眦でアーサーを見据えるリゼの表情は、緊張故か完全に強張っていた。


「お前何言ってんだ、あいつらのやって来た事を簡単に無かったことにできるわけないだろ?」



「ジェイク様はそう言うだろうと思ってました。

 でも、王子のお話の意図が分かりませんか?

 ……このまま『断罪』するのは 公平じゃないアンフェアな んです」


 

 フェアではない?

 公平という概念が突然話の中に飛び出てきて、アレクは首を傾げるばかりだ。


 やってはいけない悪事に手を染め、大勢を苦しめ傷つけた諸悪の根源、そしてそれに図らずも協力することになってしまった者を無罪放免にする方がわけがわからない。

 そちらの方が恣意的な感情が入っていて、不公平だと思うのだ。

 第一……その罪に対する刑を話し合おう、という場ではなかったのか?


 いわば量刑も決まっていない段階で公平な裁きではない、と言われる気持ちの悪さを感じてしまう。



「はは、リゼ君も悩んだ末の結論だろうけどね。

 ……そうだね、リタ君。一つ訊いていいかな」


「ひゃ!? わ、私ですか!?」


 急に王子に話の矛先を向けられ、落ち着かない様子でそわそわしていたリタが肩を大きく跳ね上げて自分の顔を自分で指差した。



「君は演劇が好きだと言っていたね」


「……。はい」


「もしも劇が台本通りにならず、役者が勝手な行動や発言をしたらどうなるだろう。

 皆が脚本を無視したら?

 倒されるはずの悪役が、改心して悪事を起こさなかったら?」


「え? それは勿論、演目として失敗した……って事ですよね。

 アドリブで脚本に沿った台詞を喋るならギリギリセーフですけど。

 勝手な事をしたら、役者さんが怒られちゃいますよ」



「……アーサー、お前は……」



 シリウスが兄の言わんとすることに思い至ったのか、ギリ、と唇を噛んだ。




「――皆も知っての通り、この世界は普通じゃない。

 普通じゃなかったんだ。


 キャシーが教えてくれたね。

 異世界の”ゲームという媒体”を現実なものとして創り出した世界。

 三年間という閉ざされた時間だけを同じ設定で繰り返し過ごすというためだけに創られた箱庭。

 全てはこうあるべきと決定された形を基に構成された世界。


 ……主人公達が、『恋愛』を成就させる過程を繰り返させるよう整えられた舞台。



 ここにある有史からの歴史も何もかも、その世界の設定に都合の良いよう作り上げられた世界なんだ。

 シリウスも言っていただろう、全て「現状を成り立たせるための都合の良い歴史でしかない」と」




「そう……なんです。

 私もずっとモヤモヤしていて。


 ……御三家の当主が悪い事をしたのは事実です。

 でも、それって物語の都合に合わせるよう、世界が勝手に決めた事でもあるわけじゃないですか。

 単純にこの世界が原典通り勧善懲悪の舞台ではないのは、カサンドラ様が結論づけたとおり、制御コントロールの効かない主要な登場人物である王子が何かのきっかけで「悪事を辞める」という不確定要素を排除するためで……

 悪役がいないと成り立たない世界観において、当主方もまた、確実性を求めるための”道具”でしかなかったんじゃないでしょうか。


 主役がリナで、悪役が王子――そして恋愛相手は皆さんで――そして、彼らはただの大道具。

 どうあっても変わらない。そうあるべきと役割を固定され、もはや舞台の外にさえ置かれた世界の仕掛け。


 よく卵が先か鶏が先かって問題が上がりますけど、私達はこの世界の成り立ちを知ってしまいました。


 彼らがあくどい考えを持っていたから、この計画が出来たんでしょうか?

 違いますよね?

 極論を言えば主人公である私達のため、世界によって都合よく事が動くよう配置されただけとも表現できませんか?


 あの人たちは、何度繰り返しても、何度同じ場面になっても、同じ選択をし、行動するしかなかったんです。

 そうでないと、世界の前提が破綻してしまうから。


 ここは主人公リナが恋愛をするための世界、聖女になるか否か三年の過程を無限に繰り返すだけの閉鎖空間だったのですから」





 世界の全容を知らなければ、きっと未来に辿り着けなかった。

 だが全容を知ってしまったことで、受け容れがたいことも積み上がって行く。



 知らなければ、きっとエリックを極悪非道の希代の悪人として躊躇なく恨みを吐き捨てることが出来るはずだった。


 




「何度繰り返しても……。

 ……後悔はしない、か……」



 隣のラルフが渋面を作ったまま、何かを思い出しているのかぽつりと呟く。




 ただの物語ではなく、何度も繰り返しを楽しむという馴染みのない”遊戯”を原典にしている事が、全ての発端だったのだろう。

 小説のように予め決まった物語を辿るわけではなく、主人公目線で無限の選択の余地があり、分岐する”ラストシーン”。


 何度繰り返しても舞台設定が破綻しないよう、ちょっとやそっとでは揺るがない強固な背景、大道具を必要としていた。

 それが三家による支配、という世界が付け加え創り出した舞台設定。


 



「だが、結局は自分の意志で行われた事だ……

 世界の意思だの、始まりがどうだの、実際に被害に遭った人間に対して何の言い訳にもならない」


 シリウスは苦々しい表情を浮かべ、そう言葉を落とした。


「それはそうだ。

 だけどね、逆に考えてみて……

 一体彼らは、どうすれば”計画”を拒絶し、改心できたのかな。



 この世界の”エキストラ”への拘束力は、絶対だった。


 ……そうだろう、アレク。




 逆行と言う真実を知り、起こり得る未来を知り。

 それでも世界に干渉できなかった。


 未来を知っても世界に干渉を妨げられるなら、一体彼らは……どうすれば考えを翻す事ができたのだろうか。

 そういう性格になるような人格や過去を持たされ。

 歴史を創られ。

 計画を実行するよう誘導されて。

 黒幕でさえそうなら、無理矢理協力者にさせられた人は?」





「――――……!」




 アレクは天井を見上げ、強く瞑目した。




 『ここ』は普通の世界じゃなかった。

 特定の目的のためだけに創られた、箱庭。





 ……それを誰よりも知っているのは、他ならぬ自分アレクだった。



 自分の人生なのに自分が主役ではない、という空しさを、諦めを、何度繰り返し抱いて来たのだろう。

 あの時カサンドラに求められたから、自分はこの世界に触れることを許されたのだ。


 自分達は、ただ舞台を成立させるための エキストラ でしかなかった。



 皆自分の意志で、考えで……でもどこまで自由だったのだろう。




「勿論、その理屈で罪が消えるなんて思っていない。

 だけど、リゼ君が先ほど言ったようにフェアじゃないよね。


 ――世界の真実の姿には、三家の当主への運命的誘導が確実に組み込まれている。

 だというのに、真実を黙ったまま私達が量刑を決める、罰を与えるのは正義なのか、公正なのだろうか。

 私達はたまたま偶然、キャシーに救われた幸運な”周回人格”だっただけなのに、全てを伏せたまま物語内の罪を裁くなど傲慢ではないかな。


 そう思ったんだ」







「……ならば真実を公表し、正しく裁くという方法があるだろう。

 世界の成り立ちを一から説明し、量刑が公正だと世間様に納得してもらえばいい」 







「最初に確認したとおり、私はその案を拒否したい。呑めない。


 キャシーが”物語という呪い”から救ってくれたこの世界を、またその真実を押し付けて大勢を縛り付けるなんて……

 彼女が消してくれた呪縛をわざわざ拾い上げて、私達が皆に着せて回るのかい?



 やっと世界みんなが本当の意味での自由を手に入れた今になって?」







 今までの人生は自分達が主役でない、物語の付属物だったと皆を説得して何になる。


 それを理解させて、誰が得をする。

 誰が幸せになれる。


 


 世の中には、伏せておくべき真実は確かに在るのだとアレクも思う。




 脅迫状態、または催眠状態で罪を犯した人間は通常、情状酌量の余地が認められる。どこまでが、自分の意志か?


 今回のケースは更に上位存在たる世界そのもの、創造主の”都合”が関わっている事は明白だ。

 アレクがそうだったから、分かる。

 





   未来を知っていても自分では変えようがない世界だった、と。






 ――だがそういう事情を一切隠したまま、世界の”道具”でしかなかっただろう人物を処す、ということは。

 法も決まりも当然陪審員もない、限られた内輪だけでの感情や私情で断罪することを余儀なくされる。




 ……私刑と何が違うのか。

 聖女だから、王族だから、貴族だから許されることなのか?





 根本的な問いかけだ、

 理性の側面で兄は訴えていたのだ。







「私がこのような考えに至ったのは公平ではない――という以外にも理由があるんだよ。

 もう一つの理由の方が、私には重い」






 納得いかない表情の友人を眺め、兄は軽く肩を竦めた。

 どうやら次に話す内容こそが、本当に伝えたいことなのだろう。





 ぎゅっと膝の上の掌を握りしめた。

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