第3話 ワゴン3人組の試み

 「みんな! あっち見てアル!」

「ワァオ…あの男ワッハップン…?」

「捕まっタみたいダ…おそろしヤ…」

その頃、ワゴンの3人は遠くから体育館を観察していた。

「なんで警察がここにいる…校門の前でスタンバるのはリスクが大きいだと思うネ」

「そうだねぇ…でもどこでウェイティングする?」

「みんナ! 面白いこと思いついタ!」


★ ★ ★


 「おおー…」

そういう演出なのか、あるいは本当に不審者が捕まったのか…生徒たちはざわついた。

「あ、これは余談なんですけど…」

紅林はそう前置きしてこう言った。


「昨日の夜、倉地くらちのあたりで赤髪の警察官が男の人を捕まえてたっていう情報…あるじゃない? あれは紛れもなく私のことです」

みんなは、彼女が赤髪だから「もしや」と思っていたのだろう。「やっぱり」という声の方が多かった。


「皆さんも知ってるとは思いますが、去年の今頃…『外国人受入法案がいこくじんうけいれほうあん』が可決されましたね。それが関係してか、ここ空知市を中心に犯罪件数が増えつつあります」

生徒たちは前を向き直し、真剣な眼差しで黙って話を聞き始めた。

「それに伴い、警察署に新たに『特別捜査一課』が設立されました。犯罪の内容も、従来よりも大それたものになってくるだろうと予測されるからです。特別捜査一課はこれから全国の警察署に普及させる予定であり、空知警察署がまさにその第1号なのです」

みんながじっと聞いている中、先ほどのチャラい男子が手をあげた。質問があるようだ。


「昨日の夜のことなんすけど、噂では結構乱暴に捕まえてたって聞きました。そんな乱暴なやり方で大丈夫なんすか?」

それに対し紅林は申し訳なさそうに答えた。

「確かに昨日は、特捜が設立されて以来、初めての現行犯逮捕ということもあって、少々気合いが入りすぎたかもしれません…相手は万引き犯でしたし…」


生徒たちは「なんだ〜 ただの万引き犯かよ〜」などと口にした。


「しかし、ここは空知市です。不法入国するには都合のいい立地ですし、特に近年ではサイバーテロなどが懸念されます。見かけはただの万引き犯でも、どのような武器や繋がりがあってもおかしくないご時世なのです。…ですがご安心ください。私たち特捜が…特別捜査一課が、全力で皆さん市民をお守りします!」

紅林が声高らかに宣言すると、先生に促されたのか、はたまた生徒自身の意思なのかは分からないが、体育館に拍手が起こった。




 6時間目の特別授業が終わり、俺たちは掃除を始めた。

「今回のは意外とためになったね」

「うん。なんか男の人捕まってたけど、あれなんだったんだろ…」

廊下を掃いている生徒たちもまた、6時間目の話で持ちきりだった。


「…ん?」

保健室の前はグラウンドなのだが、そのすぐ奥の路地にワゴン車が停められている。

俺が妙だと感じたのは、助手席のあたりから不規則に光が出ているという点。


チカッチカッチカッ…チカー、チカー、チカー…チカッチカッチカッ…


俺はその様子を見て、誰かが暗号を送っているのだと思った。

暗号のことはよく分からないためポケットからスマホを取り出し、保健室の電気何度か点滅させてからカメラを回した。


すると、しばらく何も光らなくなったあと、新たな暗号が送られてきた。光が途絶えたのを確認した俺は録画をやめた。


 帰りのホームルームが終わり生徒が次々と教室から出ていった頃、俺はメモ帳とスマホを取り出した。

まず最初の点滅…

[・・・–– — — ・・・]は…


「…S・O・S…?」

なぜSOS? 理由は分からないがひとまず解明していく。


[PM4SAMEPLACE]

おそらく午後4時に同じ場所へ来いということだろう。教室の窓から確認すると、やはりまだグラウンドの向こうに停まっている。


★ ★ ★


 「…もう4時になっただけど誰も来ないネ…おいニャンコ! あそこで掃除してたの本当に写楽だったアルか!?」

「間違いないサ! 目の前が見えづらそうな邪魔くさい前髪…紛れもない写楽ダ!」

 「ちょっと待ってブラザー…誰かこっちにカミングだよ…?」


ジョージは後ろを振り返ったままそう言った。まさか犬飼写楽ではないかと思い、ヤンとニャンコも振り返ったが、近づいてくるのは写楽でも他の生徒でもなく…


「あの赤いロングヘアー…もしかして…」

「…イェア…あれが噂のジュリナだねぇ…」

「ジュリナ? 僕それ分からなイ!」


★ ★ ★


 (あれは…紅林さん…?)

彼女は1人で例のワゴン車に近づいていく。

あれこそ本当にSOSではないか?

ワゴン車の停まっているあのあたりはしくも俺の帰り道であるため、いずれにせよあそこは通らないといけない。

(まぁ…警察がいるなら変な真似もできないだろ)

そう思った俺は、早く家に帰りたい気持ちを詰め込むようにカバンを荷物で埋めた。

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嘆きの投げキッス サムライ・ビジョン @Samurai_Vision

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