第18話 らしくない
友人である響を見て、律はらしくないと思った。
思い立ったらすぐ行動、なんでも強引に解決してみせる少し自慢の友人が、今悩み事で頭がいっぱいになり、ため息をついている。
「響、らしくないね」
「おう……」
「振られまくっても強引に勧誘し続けて、歌姫のハートを掴んだ時の響とは別人だね」
あえて嫌味ったらしく言うことで、いつもの反抗的な調子を取り戻して欲しいと思うのだが、あまり効果はない様だった。
バンドを組み始めてもう一年以上が経っている。その月日の中でも、ここまで元気がない響を見るのは初めてだった。しゅんとしてしまっている背中を見ると、「こいつにも落ち込む事があるんだな」と思ってしまう。
響はどうやら律に対しても思うところがある様子で、なんだか態度がよそよそしい。いつもなら『うるせー』とか『いじけてねーし』と返してくるところが『おう』や『そうだな』で返ってくる時点で完全におかしい。
律はここ二日の響のその様子がもどかしく感じると同時に、ちょっと新鮮で面白いとも思っていた。しかし、流石にこのままの響だとこちらも調子が狂ってくる。
響は自分が悪いと思っているのだろう。しかし、他二人もそれぞれに思うところがあるに違いない。律自身もテスト期間前で練習に十分に参加できないことで、響に対して申し訳ないと思っているのも事実だった。
今回のことに関しては、確かに響も言いすぎた面がある。でも、誰が悪いとかそう言う話ではない。それぞれがすれ違ってどうすれば良いのか戸惑っているこの状況が、律はもどかしくて仕方がない。
律とて、このままバンドが解散になるのは嫌だった。
「ほんと、響らしくないね」
大きな声で強めに放ったその言葉は、二人のいる教室に響き渡った。昼食を食べながら賑わっていた周囲の人たちが、思わず動かしていた手を止めてこちらを向いている。落ち込んでいた響も目を大きく見開き、久しぶりに律のことを真っ直ぐ見る。
「いつもみたいにバカ丸出しで真っ直ぐに当たっていけば良いじゃないか! 何回も何回でもめげずに。それが俺の知ってる木下響の凄いところなのに、今の君には幻滅だよ」
「律、俺は……」
「あーそう言うの、そう言うの! なんかよそよそしくて気持ち悪すぎ。いつもの反抗的な態度どこ行った? 野生児がいくら足りない頭で考えたって、いい策なんて思いつくわけないでしょ」
「律、いつにも増して毒舌な」
「ああ、そうだよ。みんなに視線向けられる中、こうやってありのまま思ったこと言っているんだよ。親友のために」
「お前、ホントいい奴な」
若干目を潤ませながらこちらを見つめてくる響の視線に、なんだかむず痒い感情が律を襲った。と同時に、犬の様に純粋そうな人を見ると、ついついいじめたくなる衝動に駆られてしまう。
「さっきまでは悩んでる響見て、内心面白すぎて笑い堪えるの必死だったけどね」
「おいコラ、俺の感動返せ」
反抗的な態度が徐々に戻り始め、響の顔はどこか憑物が取れたかのようにスッキリしていた。
(これなら大丈夫)
律は親友の吹っ切れた様子を見ながらそう確信した。それでこそ自慢の親友だと思ったが、そこまで口に出してしまうと逆に響が調子に乗るのが目に見えていたので、心の中に留めることにした。
「よし! 決めた、今決めた! 今日の放課後あいつ尾行しようぜ」
「誰をかな」
なんとなく響の思いついた内容が分かった気がするが、律はあえて質問を返した。
「音葉だよ。あいつの隠してる事、問答無用で暴いてやる」
あまりにも度ストレートな手口に、律はああやっぱりなと思いつつ呆れてしまう。が、それこそ本来の響なんだよなと思い、そして行きすぎた暴走を食い止めるのが自分の役目なんだろうなと感じていた。いつもの爽やかスマイルで律は自信満々に胸を張っている響を見た。
「いつもの響に戻ったのはいいけど、やりすぎは禁物だよ」
「怖えぇ、笑顔が怖えぇよ」
「第一、どうやって尾行するの? 確か音葉ちゃん自転車通学だよ?」
「俺の自転車があれば充分だろ!」
何やら嫌な予感を感じつつも、やっと通常運転に戻った響をまた拗らせる訳にはいかず、律はその作戦に乗る事を決めたのだった。
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