【幕間】 ~シグルズ・フォン・リーデンハイゼル~


 両親は、恋愛結婚だったと聞いていた。

 先王クロヴィスの一人娘で、将来は女王となることを期待された聡明なエカチェリーテと、歴史はあれど領地もほとんど無いような東方の小貴族の嫡男、アレクシス。

 出会ったのは学術都市サウディードで、当時アレクシスは、そこで細々と経済学の研究をする、しがない学者でしか無かった。

 周囲からは釣り合いが取れないからと結婚を反対され、クロヴィスも当初は難色を示していたという。

 けれど二人は諦めず、根気強く周囲を説得して周り、出会ってから十五年を経て、ようやく結ばれた。


 ――そんな話を幼い頃から聞かされて、「お前たちも自分で伴侶を選びなさい」と示されれば、普通なら喜ぶところかもしれないが、シグルズは微妙な気持ちだった。

 彼には、あまり女性というものがピンと来ていなかったからである。


 そもそも、幼い頃から身近にいた女性といえば、平均以上の美貌と強さを持つ女傑たちばかりだった。

 王妃の立場ながらに王国議会を切り盛りし、国政にも容赦なく口を出してゆく母。

 才気に溢れ、剣術の腕前では年上の男ですら敵わないと評判のティアーナ。

 それに、代々優秀な近衛騎士として王の側に仕える、忠誠心厚い女傑、シンディ。


 当然、「普通の」令嬢たちと接しても、何か物足りなさを感じてしまう。

 というより、力加減が分からず、下手に触れれば壊れてしまうような気すらして、どう親しくすればいいのかも分からなくなってしまう。何しろ、彼の知る「ご令嬢」というものは、すぐに気分を害するか、泣き出する、厄介な生き物だったのだ。


 「はあ…。」

王位を継いで、はや一ヶ月。もう何度目かのため息を、隣で書類整理を手伝っていたスヴェインが聞き咎める。

 「シグルズ、さっきから何回ため息ついてるんだよ。そのうち魂抜けるぞ」

 「もうとっくに抜けてるよ。気が重いなぁ」

 「何見てるんだ?」

 「これ。」

兄の手から手紙の束を受け取ったスヴェインは、「ああ…」と小さく呟いた。

 貴族のご令嬢からのお茶会のお誘いに、恋文めいた私信、夜会の招待状。律儀に全部読まなくてもいいようなものを、彼は性格上、すべて自分で開封して目を通しているのだった。

 元々、こうしたお誘いは多い方だったが、即位してからは輪をかけて増えている。理由は――シグルズが、「現国王」になったからだ。

 「王妃の座が欲しい方々、ってことだな。有力候補だった旧貴族たちが軒並み消えて、今が好機と見てるわけだ」

スヴェインは、手紙を兄の手に戻して苦笑している。

 「てか、いい加減、本腰入れて相手の品定めくらいしたらどうなんだ? 婚約者を作っとけば、もうそれ以上、煩わされることもないだろ」

 「そう簡単に言うなよ。いざとなると難しいんだぞ? 父さんと母さんは、『好きな相手を選びなさい』しか言わないし…はあ」

やはり、ため息しか出てこない。

 「いっそ、町に探しにでも出るか? 若き国王がお忍び旅で村娘に一目惚れ! とかさ。面白そうじゃないか。それとも、おとぎ話よろしく、舞踏会でガラスの靴を落として帰る女性でも探すとか」

 「そういうわけにも、いかないだろ…。」

話していた時、執務室の扉を叩く音がした。

 「失礼します。財務大臣がお見えですが」

今日の近衛騎士の当番、ミハイル・ブランだ。

 「おっと。」

慌てて、スヴェインは席を立った。

 名目上、一応は王国に反逆した「罪人」ということになっており、「謹慎中」でもある彼は、本当は、自室から出てはいけないことになっている。実際は、部屋と部屋を繋ぐ扉から行き来してシグルズの仕事をこっそり手伝っているのだが、それを知っているのは、家族と近衛騎士だけだ。

 「それじゃ、またな」

 「ああ」

シグルズは、さっきまでの素の表情から国王の顔に変わっている。

 スヴェインが隣の部屋に通じる扉から姿を消した後、彼は、今まで一人だったように取り繕いながら、威厳のある声で扉の向こうに声をかけた。

 「入れ。」




 シグルズが大臣を応対している声を、スヴェインは、どこか誇らしいような、少し寂しいような気分で聞いていた。

 (少しは国王っぽさも板についてきたかな。…ま、兄さんなら上手くやれる。そこは心配してないんだけどな…。)

先代の国王だった父のように、むやみに人と衝突することも少なく、どちらかといえば温厚で辛抱強い。その反面、「押しが弱い」というのが問題のような気もしていた。

 ことに、恋愛に関してはとことん奥手なのだ。その点は、昔から潜入捜査のようなことをしていたスヴェインのほうが、はるかに上手くやれる。

 (そもそも、女性とまともに話したことがないのが問題だな。さーて、どうしたもんだか)

ソファに腰を下ろしたまま、スヴェインは、さっき見せてもらった手紙の束を思い出していた。

 お妃候補を探す前に、まずは異性経験を積ませることが必要だ。何しろ、大事な家族のことなのだ。妙な女性に掴まって酷い目に遭わされるのでは、かなわない。

 「よし、思いついたぞ」

立ち上がって、彼は部屋の隅に向かって声をかけた。

 「シンディ、いるか?」

ふわりとカーテンが揺れ動き、影のような女性が、音もなく姿を表す。

 初対面の人なら声を上げるところだが、幼い頃から見知っているスヴェインは慣れたものだ。

 「おっと、今日はそこか。――なあ、一ヶ月後に迎春祭があるだろう」

 「ああ」

大柄な近衛騎士の女性は、逞しい腕を組みながら頷いた。

 「皆、仮面をつけて踊るやつだな」

 「そう。あの祭りなら、ぼくとシグルズが入れ替わってもバレないと思うんだ。ちょっと手伝ってくれないかな? 君なら、シグルズをこっそり警護するくらい出来るよね」

 「…何故、そんなことを?」

 「思うに」と、スヴェインは至極、真面目な顔をして言った。「兄さんが女性とまともに話が出来ないのは、自分の立場とか役割を意識しすぎだからなんだ。相手の女性も、兄さんを一人の男性としてというよりは、肩書きでしか見ていない。」

 「……。」

 「だからさ、いちど肩書きなしの素の状態で、女性と接してみるのが必要なんだよ。こういう機会でもないと無理だろ。このままじゃ、兄さんは一生、誰とも付き合えないののだ。頼むよ!」

 「…分かった。」

シンディは、表情も変えず頷いた。

 近衛騎士の中では古参の部類に入り、王子たちのことは赤ん坊の頃から知っているだけあって、彼女は、こういう時は融通を利かせてくれる。

 「他にはどうする?」

 「そうだな。ベオルフはどうせすぐ気づくだろうし、先に話しておくよ。――ああ、それと…」

スヴェインは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

 「せっかくだ、アイツにも協力させておくかな。」




 かくして、仮面舞踏会の夜は訪れた。

 集合場所の裏門には、そっくり同じ仮面と黒いコートに身を包んだシグルズとスヴェイン、護衛担当のシンディとベオルフ、それに、なぜ自分が呼び出されたのかさっぱり分からないという顔のイヴァンが立っている。

 「本当にすまないね。こんなことに協力させて」

 「あーいや…それは別にいいんですけど…」

イヴァンは頭をかきながら、シグルズとスヴェインを見比べた。

 見た目だけではどっちがどっちか分かりづらいが、多分、茶目っ気たっぷりにニヤニヤしているほうがスヴェインで、申し訳無さそうな顔をしているほうがシグルズなのだろう。シンディは相変わらずだが、ベオルフは、何やら複雑な顔をしている。

 「とりあえず、今夜は国王様連れて、そのへん適当に周ってればいいんですか?」

 「相変わらずだな、お前は…」

ベオルフが、苦笑している。

 「――ま、お前の、そのヘタに格式張らない適当な態度なら目くらましにはうってつけなんだろうが。相手は国王陛下だ、それなりに弁えてくれよ」

 「あー…えっと、それは分かってるんだけ―ですけど…」

イヴァンにとってシグルズは、今まで数回しか対面したことのない相手だ。しかもそのうち一回は、弟とともに、先王アレクシスにこっぴどく叱られている場面だった。即位式や演説での威厳のある姿も見てはいるのだが、どうしても、しょんぼり項垂れていた姿のほうが印象が強い。

 「まあまあ、ベオルフ。彼はこうでなくちゃな。で、イヴァン。出来るだけ女の子に声をかけてってくれよ。もし兄さんが尻込みしてたらお前から尻をひっぱたいてやってくれ。それが目的なんだから」

 「はあ」

 「オレは、スヴェイン様がシグルズ様とすり替わってることが気づかれんよう、お側で取り繕う役だ。お前たちのことは、舞台上から見ている。」

と、ベオルフ。

 「それと、会場内には他の近衛騎士も巡回してる。シンディ以外は何も知らされていないからな、そのつもりで」

 「分かったよ」

 「よーし、それじゃ解散! 楽しんできてくれ」

スヴェインたちは、国王のために設えられた祭りの特等席のほうへと去ってゆく。

 イヴァンは、仮面を整えながら隣のシドレクに声をかける。

 「それじゃ行きますか。俺もこの祭り初めてなんで、何すればいいか分かりませんけど」

 「ああ。」

日が暮れかけた広場には、すでに沢山の人が繰り出して、音楽に合わせて踊りまくっている。

 「今日は無礼講だよ! さぁ、飲んで歌って、踊って!」

陽気な声で手拍子をしながら、派手な格好の道化師がもり立てている。酒場前には樽が置かれ、通行人たちに無料で盃が配られている。

 「あれは、国王と貴族たちからの寄付でふるまっているんだよ」

シグルズが説明する。 

 「もともと、この祭りは、冬のいちばん寒い時期を乗り越えた祝いとして始まった。夜のいちばん短い時期が終わった後、少しずつ日が長くなってゆく。それは人々にとって嬉しいものだからね。そんな日くらい、貧富の差なく楽しんでもらいたいから」

 「へえ…。」

イヴァンは、隣の背の高い青年をまじまじと見つめた。

 「ん、何だい?」

 「いや、そういうの丁寧に説明してくれるとこがアルに似てるなって。」

 「ああ。」

シグルズは、仮面の下で嬉しそうに微笑んだ。

 「そういえば君は、アルの友達だったな。あの子も立場上、なかなか友達が出来なくてね。――君と出会えて、本当に良かった」 

 「やっぱ王族とかだと、そのー…友達とか出来づらいんですか」

 「うん、まあ…。近づいてくる者たちの裏の意図を、つい探ってしまうところもある。」

目の前を、笑いさざめく少女たちの群れが通り過ぎてゆく。一人は、こちらに向かって投げキスをした。既に酔っ払っているようだ。

 「けど、自分から近づいていかないと、本当のところなんて分からないですよ」

 「そうだな」

 「…とりあえず、あそこの踊ってる輪に参加してみます?」

 「うん」

篝火の周りでは、若い男女が一人ずつ組になって、楽しげに踊っている。

 イヴァンは、そこにするりと入り込んだ。

 「よろしく。」

 「あら、いらっしゃい」

そばかすの少女がにこりと笑って、イヴァンの差し出した手を取った。

 陽気な音楽に合わせてスカートが翻り、靴のかかとが敷石をリズミカルに打ち鳴らす。ちらりと隣を見ると、シグルズも、おっかなびっくりではあるが相方の女性の手を取って、ぎこちなく踊りに参加している。

 「なかなか上手じゃない。どこかで習ったの?」

 「ん、騎士学校でちょっと。何だか知んねーけど、舞踏会の練習って授業があったんだよ。」

 「あら、学生さんなんだ。今いくつ?」

 「十六だ。」

音楽が一区切り。男女は互いに礼をして、男性のほうが一人分ずれる。こうして、輪になっている男女が一人ずつひと踊りして、その間に会話を交わす仕組みなのだ。

 (国王様、ちゃんと上手く話せてるか…?)

踊りながらもイヴァンは、時々、気になって隣を見てしまう。

 「ちょっとあなた、お連れのことがそんなに心配なの?」

踊りながら、目の前の栗色の髪の少女が面白そうに笑う。

 「んーちょっとな。友達の兄ちゃんなんだけど、なんか女性不信っぽいんだよなー。今日も無理に連れ出してきたからさ、ちゃんと楽しめてるかと思って」

 「あらら、そうなんだ。仮面つけてるけど、なかなかいい男みたいじゃない? 素顔だとモテすぎるのかしらね」

 「らしい。」

 「色男も大変ねー」

少女は笑って、イヴァンの腕の中でくるりと身を翻す。

 「あなたは? どうなの」

 「女の子と話すくらいは全然。ちょっと気になる子もいる」

 「そうなんだ。それじゃ、あなたが手ほどきしてあげないとね」

音楽が一区切り。女性はスカートをつまみ、男性は手を胸に当ててお辞儀する。

 ひとしきり踊って輪を抜け出した後、イヴァンは、そっとシグルズに話しかけた。

 「どうでしたか」

 「……。」

返事はない。仮面の下の表情も見えず、楽しめたのか、そうでないのかもさっぱり分からないのだ。

 「あー、踊ったら喉乾きましたよね。ちょっと飲み物貰ってきます」

 「……。」

 (やばい。思ってたより深刻なんじゃないか、これ)

果実酒を配っている列で二人分の杯を受け取りながら、イヴァンは、内心でびくびくしていた。

 「飲み物どうぞ」

 「ああ、あり――」

横から、音もなく近づいてきたシンディがさっと杯を奪い取り、ぺろりと一口、なめて味見する。

 「うむ。毒は入っていないな」

 「……。」

 「………。」

何事も無かったかのように杯をシグルズの手に戻し、彼女は再び人混みの中に消えていく。

 「あー、えっと。その…次、どこ行きますか」

 「任せるよ」

 「うーん、そしたら…」

酒場の食べ放題は、シンディに止められそうだ。かと言って、踊りの方もシグルズの雰囲気からして盛り上がりそうにない。


 ふいに、わっと声が上がった。

 大道芸が始まったのだ。皆、そちらに向かって集まっていく。

 「何かやってますね。行ってみますか?」 

 「ああ、…」

動き出そうとした時、人の波が勢いよく動いて、押し出された少女が一人、よろめいて地面に倒れそうになる。とっさに、シグルズは手を差し出して受け止めた。仮面が顔から落ち、地面に転がってゆく。イヴァンは、慌ててそれを追いかけた。

 「大丈夫?」

 「あっ、すいませ…」

見上げた少女が、仮面の隙間から見える瞳に気づいて、はっとした顔になる。

 「シグルズ…様?」

 「え?」

 「!」

仮面を手に戻ってきたイヴァンも、思わず足を止めた。

 「あっ! な、なんでもないです…」

少女は、顔を真っ赤にしてイヴァンの手から仮面をひったくるようにして顔を隠すと、大慌てで人混みの中に紛れてしまった。

 「待って。君は、一体…」

 「知り合いじゃないんですか」

 「うん、覚えがない。誰なんだ…?」

シグルズは、真剣な顔をして考え込んでいる。

 「シンディ、あれは誰だ?」

 「名前までは知らない。ただ、王宮で見たことはある」

背後から、どこからともなくぼそぼそと声が聞こえる。

 「即位の後の懇親会に…来ていた。陛下をやけに熱心に見つめていたから、覚えている」

 「なら、どこかの令嬢か。スヴェインに聞けば判るかもしれないな」

コートを翻し、シグルズは、スヴェインたちのいる席のほうに向かって歩き出した。何がなんだか分からないまま、イヴァンも後を追う。

 ――さっきの少女の姿は、振り返っても、もう、何処にも見当たらなかった。




 送り出した兄が勢いよく戻ってきたかと思ったら、突然、勢いよく戻ってた。

 しかも祭りで出会った見知らぬ少女の名前を思い出してくれなどと言い出したので、スヴェインは、呆気に取られていた。

 「…えーと? 黒っぽい巻毛に緑の瞳で、鼻筋の通った、そばかすのある十五、六の女の子の名前が知りたい? いくらぼくでも、さすがにそれだけじゃ分からないよ。記憶力はアルほど良くないんだ」

 「そうか。そうだよなあ…。」

シグルズは、目に見えて落ち込んだ様子だ。スヴェインは興味をそそられたようで、身を乗り出して尋ねる。

 「で? その子、そんなに美人だったのか」

 「いいや。」

 「じゃあ、何でまた」

 「…スヴェインと間違われなかったからだ」

 「へ?」

何故か憮然とした表情で、シグルズは呟いた。

 「こういう祭りで遊び回るのは、スヴェインだと思われてる。その、…こういう場だと特に」

 「ああー…」

スヴェインは、思わず大きく頷いた。

 「確かに。こういう入れ替わりの時は、毎回そうだったなぁ」

 「いつもって、…こんなの何度もやってたんですか」

と、イヴァン。

 「うん、子供の頃から定番の悪戯でね。ぼくがシグルズに成り切って、シグルズがぼくに成り代わる。それが、面白いくらい気づかれなくてさ」

 「最初は面白かったけど、あまりにバレないもんだから虚しくなってさ。正直、自分たちが衣装や肩書きでしか見られていないと知るのは本当に不愉快だった。」

 「なるほど? つまり陛下は、女性が苦手っていうより、そういうのが嫌いだったんですね」

ベオルフは、納得したような顔で頷いている。

 「まぁ分かりますよ。オレも、近衛騎士じゃなきゃ女なんて寄って来やしねぇ。無職になったとたん捨てられるような嫁は貰えませんからね」

 「…ベオルフは、そもそもガサツすぎる。女性にモテない。」

 「うっ」

シンディの鋭い一言に、ベオルフは思わず口を閉ざす。

 「まぁ、ベオルフのことはどうでもいい。要するに、スヴェイン様と陛下を見分けられる――中身を見てくれる女性を探せばいい。」

 「なんだ、そういうことなら簡単じゃねーか。よし、王様、もう一回周って来ようぜ! もしかしたら他にも、気がついてくれる人とかいるかもしんねーし」

 「あっ、こら。だから、お前はもう少し礼儀作法というものを――」

シグルズを引っ張って町に出てゆくイヴァンの後を、慌てたベオルフが追いかける。

 夜空にきらめく星の下、祭りは宴もたけなわに、最高潮の時を迎えつつあった。


 迎春祭の夜にすれ違った少女が、王都の北方に荘園を持つ小貴族の娘で、王宮でエカチェリーテの侍女として働いていたマルグレーテ・オーベリだと突き止められるのは、それから、ほどなくしてのことだった。

 彼女がシグルズの話し相手となるまでは、そう時間はかからなかった。

 ただ女性慣れするための練習役なのか、それ以上の感情が芽生えるのか、いまはまだ分からない。けれど、女性嫌いの若き国王に、一歩踏み出す勇気が生まれたことは確かだった。


 暗く長い冬の夜は祭りとともに過ぎ、あと一ヶ月もすれば、木々は最初の芽吹きを見せるだろう。

 どれほど冬を長く感じようとも、いつか、春はやって来るのだ。

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