第18話 魔王、逆異世界転生完了!!!

「俺を倒す!! ほざいたな若人わこうどがぁぁぁ!!」


 魔王が両手を突き出すと、そこから無数の黒き十字架が放たれるッ!

 進路の邪魔となる十字架だけ、小型のトラックで撃ち落とし、ひたすら直進するライド! ブレーキなどありえない、待ったなしの高速道路ッ! その道中に命を必要とする有料道路が存在するのか――!


「魔王! 僕がお前に根本的に勝っているところがあぁぁぁぁる!」


「なんだよそりゃあああ!?」


「教えてやる! だがぁ! その前に補強をしよう!」


 手の届くような距離。

 魔王の全身を覆う黒い闘気がより一層、大きくなった。だがライドは恐れない。アドレナリン全開、スロットル全開!

 ライドはトラック魔法を発動する――!


「トラックの四肢だ! 生身で弱いのなら! トラックで四肢を覆えば良い!!」


 超小型のトラックがライドの四肢を覆う! それはまさにトラックが生み出した最強の戦士!

 超小型トラックが生み出す不思議な力で、ライドは単独で飛行が可能となった!

 ライドは魔王めがけて更に突き進む!


「うおおおお!」


「カァァァア!」


 ライドの右腕と、魔王の右腕が、互いの頬を捉える。クロスカウンター。全くの同タイミングで互いは名刺交換を行った!


「僕はルピスが好きだ!」


 ライドの左拳が魔王の腹に突き刺さる。トラックが生み出す馬力は魔王よりも一手早い攻撃を可能とした。そのまま何度も魔王の頬を殴りつけるライド。何回攻撃しても足りない。多ければ多いほどいいのだ。

 一瞬ふらつく魔王。その隙を突くように、ライドは更に追撃を選択する!


「いつも笑顔を僕に向けてくれるルピスが好きだ! 僕を包み込んでくれるルピスが好きだ! ずっと側にいてくれるルピスが好きだぁ!」


「ノロケかよォオイ!」


 魔王の蹴りがライドの腹部に突き刺さる。僅かな間の後、吹き飛ぶライド。

 魔王の両手に黒い闘気が収束し、それが解き放たれたッ!


「消えさりゃああああああ!!!!!」


 今までの攻撃とは比べ物にならないほどの極太の黒き光線!

 ただの防御ではしのぎきれない。だとすれば! 答えは簡単!


「うおおおおお!!!」


 黒き光線の中に飛び込むライド。まるで激流。一瞬でも気を抜けば、呑み込まれてしまうだろう。

 ライドの四肢にあるトラックが悲鳴をあげる。


「お前と僕の違いはぁ!!」


「ぬうぅ!?」


 黒き光線をかき分け、ライドは再び魔王の前へ姿を見せた。


「ルピスへの愛だあああああ!!!!」


 両手のトラックを魔王へ叩きつける。同時にトラックが粉砕するが、それでもライドはお構いなし。

 次にかますのは頭突き。額に血がにじむ。


「突然現れたお前がルピスの何を分かっているんだ!」


「独占欲の塊ちゃんがよぉお!!」


「そうだ! 僕はルピスを独り占めにしたい! 世界中の全てを敵に回したとしても、僕はルピスを自分だけのルピスにしたいんだ!!!」

 

 トラックがライドに集まっていく!

 やがてライドは一台のトラックとなり、魔王へ突進する。


「これはあああああ!?」


「トラック魔法の奥義を今こそ見せてやる!!!」


 まるで山を思わせる巨大なトラック! それはまるで彼のルピスへの思いがそのまま形になったような……?

 魔王は逃げようとした。これくらいの速度なら、まだ間に合う。

 そう思い、回避行動に移る魔王。


 ――少しだけ遅かった。


「俺の体が動かない!?」


「トラック魔法秘奥義! 『じんトラ一体』! アァァァンド! トラックによる拘束魔法!!」


 魔王は謎の硬直の正体を、即看破した。

 彼の四肢と胴体に巻き付くは、超小型トラックが無数に連結することによって出来上がった“鎖”。名付けるなら、トラック拘束魔法。

 魔法の強度的には、魔王が力を込めれば、破壊にはそう時間がかからない。

 しかし、その時間が致命的だった。



「転生しろォォォー!!!」



 グシャリと大きく、鈍い音がした。

 トラックによるインパクトの大きさは、まさにビッグバン級。魔王の肉体をもってしても、ダメージが体の芯にまで染み渡っていくのが良く分かった。


「げぼぼごごごごごおおお!? 俺が、消える!? 俺が、死ぬ!? 俺が、負けるぅぅぅぅぅ!?」


「最後に勝つのは純粋な愛だけなんだよ! 覚えておけ!!」


 地上に落ちていく魔王。それを追うライド。

 魔王の体が光に包まれ、まるで流星を思わせる。

 燃え尽きるまでの僅かな時間。魔王はライドにこう質問した。


「なぁライドルフ。俺は間違っていたのか」


「あぁ、間違っていた」


「そうか! 何が間違っていた?」


「僕のルピスを狙ったこと。これが大きな間違いだ」


「ははは! ライドルフ、お前は実に欲に塗れている。そうか、ならばこれは同類同士の戦いだったか」


「否定はしない」


「俺は強大だったか?」


「人生最大の強敵だった」


「そうか。最後の質問だ。俺はこことは異なる世界で新たな生を受けるのだろうか?」


「僕のトラック魔法はそういう魔法だ。対象を逆異世界転生させるんだ。お前はもうじき、転生する」


 すると、魔王は一段と大きな高笑いをあげ、満足げに呟いた。



「そうか、そいつぁ楽しみ――――」



 魔王は、光の粒子と化し、この世界から消滅した。


「魔王マガラ……」


 一瞬とはいえ、一人の女性を奪い合った相手。

 その力は絶望的なほどまでに強大で。だからこそ、ライドは彼に対し、最大限の敬意を抱いていた。

 祈るような気持ちで、ライドは消え去ったマガラへ対し、言葉を送る。



「転生完了! 今度はまともな人間に生まれ変われると良いな!」



 いつかの未来で、どこかの世界で、“彼”は産声をあげた。


 ――俺の前世は、地上を揺るがす魔王だった……!

 

 ここからの物語はあえて語らないでおこう。

 きっと誰かが観測する出来事なのだから。


 トラック魔法を扱う彼の物語はいよいよゴールまでたどり着いた。

 最後の最後まで、お付き合い頂こう。

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