第17話 ライドの覚悟

 落下していくライドは、ぼんやりとした意識の中で、ぼんやりとした思考をしていた。


 ――強すぎる。


 魔王マガラの力は圧倒的だった。トラック魔法があればどうにかなる。そんなうぬぼれが少し、ライドの中にあったのかもしれない。

 今、ライドは細い橋の上にいた。少しでも片足分の細い橋の上。バランスを崩せば、奈落の底へ真っ逆さま。

 それが、彼の生命の分岐点。


 ――僕は、勝てないのか?


 疑問がライドの中で膨らむ。元より、自分はただの人間。トラック魔法が使えるだけの人間だ。

 そもそも勝ちを拾い続けられたのは偶然だったのだ。魔に堕ちた勇者との戦いも、天空の化身との戦いも、全部全部全部。

 運が重なっただけの出来事。そのツケが一気にやってきた。それだけの話。


 ――あぁ、僕は。



「ライドォォォー!!!」



 ――ルピスの声が聞こえる以上、まだ死にたくないと思えてしまう!!!


 ライドの双眸が開かれた!


「これは……落ちている!」


 すぐにトラックを呼び出し、上に乗るライド。トラックはそのまま空中を駆け出した。

 それを見ていた魔王は、黒い闘気をより一層大きくし、なんと空を飛んだ。


「付き合ってやろうさ! 空中戦がお望みならァ!」


「魔王! 僕は絶対に諦めない! 諦めてたまるか! お前を越えて、僕は!!」


 縦横無尽に空中を動き回る両者。

 魔王の身にまとう黒い闘気からは、無数の光線が生み出され、トラックへ襲いかかる。それに対し、トラックは大きく円を描いたり、急上昇、急降下を繰り返し、何とか振り切ろうとしていた。


「トラックが!」


 とうとう振り切れず、光線がトラックに直撃した!

 だが、もう一台のトラックが被弾したトラックと並走していた。ライドはすぐにそちらのトラックへ乗り移り、魔王のもとへ急いだ。


「ライドルフ! お前は俺にやられるんだ! それで気高き宝であるルピスは俺の物となるのだ!」


「人を物呼ばわりしている奴に託せる子じゃないんだよ!」


 小型のトラックが何台も魔王の元へ飛翔する。先程の意趣返しとでも言えば良いのだろうか、小型トラックは回避行動を取る魔王を徹底的に追尾し、とうとう体当たりに成功した。


「この鉄くず! やけに重い!!」


「僕の想いまで載せているんだよ! このトラックはな!」


 魔王を追い立てている中、ライドは己の魔力をとある魔法へつぎ込んでいた。

 それは圧倒的なまでのトラック。トラック魔法の深奥。

 ここで求められている結果とは、魔王マガラの完全逆異世界転生。もはやこちらの世界に一切戻ってこれないほど、徹底的に叩き潰すことだけ、ライドは考えていた。


「カァァッ!!」


 魔王の闘気が爆散するッ!

 直後、魔王に攻撃を続けていた無数の小型トラックたちが一斉に弾け飛んだ。その結果には一切見向きもしないライド。

 彼の“攻撃準備”はもうすぐで終わりそうだった。


「鬱陶しい! 早急に片付ける必要を感じた! こいよライドルフ! 俺に一矢報いれるもんなら報いてみろよーー!!!」


 魔王が天高く突き上げた右手の平に、闘気が収束するッ!


「喰らえよ!! 死の十字架ァッ!」


 魔王が自分の前で大きく十字を切った。すると巨大な黒き十字架がライドへ襲いかかった。


(これはマズい!!!)


 黒き十字架の前に立ちふさがるは無数のトラック。無数に折り重なり、一つの壁と化した。

 数秒持てば上出来。しかし、黒き十字架はまるで砂糖を水に溶かすように、何の抵抗もなくトラック達を一瞬で飲み干し、再びライドへ襲いかかる。

 ライドのトラックはその場から離脱しようとしたが、黒き十字架はトラックの後ろ半分を食らいつくした。


「あの黒き十字架は危険だ……!!」


「俺の十字架を越えたな! だが、これで終わりではない! 俺はまだまだ撃てる!!」


「なっ……!!」


 魔王の後方には無数の黒き十字架が漂っていた。それを見て、絶望するライド。


 心が折れる音がした。どうにかなる、という次元を超えた。

 あんな物、どうやって凌げば良いのだろうか。

 

 ここまで来たら、全てを諦め、真っ先にルピスの元へ向かったほうが良いのではないか。


「ライドぉー!」


「ルピス!」


 地上にいる彼女の姿は小さい。だが、彼女は拡声魔法でライドへ声を届けているのだ。


「ライド! もう一回言うね! 私、ライドが好き! 大好き! この気持ちはずっと変わらない! 私はどんな相手にも負けないライドが好き! 私を包み込んでくれるライドが好き! ライドの全部が好き!! だから――――無事な姿で、私に返事をして!!!」




「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」




 だから、ライドを遮るものは、なにもない。


「しゃらくせぇわ!!」


 魔王が黒き十字架を放った。先程よりも巨大な十字架。

 ライドの後方から一台のトラックが直進する!


「トラック!!」


 トラックがものの一撃で黒き十字架を打ち破り、魔王へ直撃する!

 手応えあり! だが、まだ致命傷ではない!


「ほっほおおおおおおんん!? この俺様に血を流させるとはな! ちょづいてんじゃねえぞ!!!」


「魔王!! 僕はお前を倒す!! 逆異世界転生させてやる!!!」


 トラックに乗ったライドは、最後の攻防を開始するッ!!!

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