第5話

 同じ夢を再び見ることで、イメージが以前より明確になって映し出される景色や人物は美しく思える。


 俺はやはり美少女と麻雀をしている。

 将棋や囲碁のように向かい合って二人で戦っているが変に感じるが、自分にとって脱衣系のゲームでしか麻雀をしてなかったので、少し遅れて納得した。


「とりあえず同じ色を揃えるか、三枚一組を同じ数字や文字にするのが早いわよ」


 この前に見た美少女は以前より美しく、アドバイスを言っているようで楽しそうにサイコロを振りながらウインクをした。

   「お願いします」

 慣れないせいか照れる自分を抑えながら自分の手牌を見ると、うわずった声と同時にあることに気づく。


 親近感なのかもしらないが、どうしてか昨晩とは違って懐かしさすら感じる。

 何処かで見た顔だと気がつき、再び彼女を凝視するまで5分は頭をフル稼働させた。

 赤面を通り過ぎるて首から先が爆発するのではないか心配なる。


 正面に座り何気に髪を気にしなが、こちらを気にしている彼女の姿が『涕木なみだぎ 文』なのだから仕方ない。


声すら掛けれないヘタレなのが悔しくて、それでいて彼女と会えた夢が嬉しかった。

 


灰色の絵の具を撒き散らしたような天気だが、何時もより快適に起きることが出来た。

 早めに家を出るとスマホで遊べるフリー麻雀をゆっくり歩きながらプレイする。


 朝のクソ忙しい時でも、待ち時間が無く対戦相手が見つかるのが不思議だった。


 傍から見ればニヤニヤ顔が気持ち悪く見えるだろうが、どんどん理解していく過程はどんな遊びでも面白く、姉貴や秀明さんには決して見せられない。スマホをポケットに仕舞うと街の喧騒が耳に入った。


 何もないような顔で歩き出したら、後ろから呼び止める声が聞こえる。


 振り向くと、身の覚えのない容姿の男子だが同じ明導高校の制服を着ている。さっきまでのにやけ顔が引き攣り、そして胸騒ぎが突然に始まると同時に無意識で後ずさりをした。


「携帯が楽しそうだな。俺と遊ぼうぜ」

 性転換してもこんな奴は御免だと思っていると、奴は俺の目の前まで近づいて臭い息を吐いた。


「お前は忙しそうだから、銭だけ置いていけばいいからよ」


通りには大勢の人達はいるが、俺たちを見て見ぬ振りをして、誰一人助けようとしない。

ただ、音声信号のメロディーだけが聞こえてくる。


見知らぬ男子は、俺がポケットから財布を出すと、手を伸ばし鷲掴みにすると立ち去ろうとした。


「ちょっと待ちな、私の目の前でカツアゲなんて許さないよ」


 細身と言うよりも、引き締まった身体の女性が颯爽と現れた。


 眼前の見知らぬ男子が躊躇する一瞬を女性は逃さず、距離を詰めたと思うと一転、背中向きに相手に対峙する。


呆気に取られた相手が怯んだ隙に、身体を捻ると閃光の如くムチの蹴りをお見舞する。見知らぬ男子は見事なまでに絵に描いたような蹴りを喰らい、遠慮なく近くのゴミ箱に吹っ飛んでゆくが、状況が理解できていない。


 短めなスカートが靡く瞬間に純白な下着が見えたが、こんな時には不謹慎なので忘れることにした。


「舐めた真似してくれんじゃないで。このアマ」


頭を振り、大きな声で叫びながら立ち上がる男子は、誰も聞いていないと言うのに勝手に名乗りを挙げて、女性に突進した。


平川篤治郎ひらかわとくじろうを、なめんじゃねぇ」


 見知らぬ男子には決して許せない重要事項らしくて特攻とも玉砕とも取れる動きをみせる。


 が、しかし残念にも志は結果に繋がらない。


 決して小柄ではなく熊のような男に、

女性が格ゲーの跳び蹴りの見本のようなグレートな一撃を決めた時には、周りは黒山の人だかりになっていた。


アッパーカットを喰らったボクサーばりに、平川は天を仰ぎながら綺麗なアーチを鼻血で描いた。


「返す物は、きっちり戻してもらうよ」

女性は倒れた平川のポケットから財布を二つ取り出すと、俺にどちらだとジェスチャーをする。俺が自分の財布を指差すと、何も言わず財布をこちらに投げてくる。


 もう一方の財布から紙幣を取り乱暴に自分のポケットに入れた。


 騒ぎを尻目に立ち去ろうとする女性は、さっきとは別人のように穏やかな顔になっていた。


 驚くべきは思っていたより若くて、それでいてショートヘアながら美人とは言えないまでも目鼻立ちが整っている。


 手であちらに行けと合図する彼女は、やって来た方へ立ち去ろうとした。

「ありがとうございます。お礼を……」

「そんなのは必要ない。こいつから授業料をいただいた」



 始業時間に遅れないようにスマホを鞄に収めると競走馬のように俺は走った。


 前方から数人の男性が、大の字に倒れた男子生徒に駆け寄る時には野次馬などの群集は何処かへと消えていた。


 後から情報で不良同士の喧嘩と学校には伝わっているらしく、当事者の俺としてはトラブルに巻き込まらたくなかった。


 校門についてスマホを取り出しTwitterやラインで自分の事が書かれてないかチェックすると予鈴が鳴らないうちに教室向かった。


 ふと廊下の掲示板にイラストよりも落書きの狼が妙に笑いのツボに入ってホッとした。

 それにしても彼女は誰なのだろう。


同い年ぐらいに見えた事を思えば学校で騒ぎになってもいいのだが拍子抜けするぐらい静かなのだ。


 授業に身が入らないのは今日に始まったことではないが彼女の事が頭の中を支配していた。

微睡むようで退屈な時間が、静かに突然と終わりを告げことになるLINEが姉から送られてくる。


 「こちらは大変なことになってるから昼休みにでも職員室に来い」


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滾るが燃えて 夢狐さつき @Towaneko

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