第4話

俺は、テーブルゲームに分類される麻雀の中に、将棋や囲碁とは違い対戦相手とは別の何かが存在することを知ることになる。

夢の中で麻雀で遊んだ。次の日にオンラインではあるが麻雀を実際にプレイしたのが何か運命を感じる。

 しばらくは違う話題で盛り上がった後に、缶コーヒーを飲んで店を後にする。

 少し遅くなったことを詫びるため家に携帯をすると留守番電話のメッセージ はなく女性の声がする。


「オイ!こんな時間まで何処で遊んでルンら、子供は早く帰って寝レロ」


 怒ったり泣いたり笑ったりと酒癖の悪さを姉貴は発揮してるようで、気持ちが重く帰路の足取りも重かった。

 百メートルの幅の道路が伸びた先に川があるのだが、そこに掛かる橋を渡り左側を少し進んだところに祖母の家がある。

 祖母に顔を見せてから自室に向かうのが帰宅してからのパターンだ。

 何やら姉貴と祖母が台所で会話をしているのか思い扉を開けると、温かいカレーの匂いとスマホを片手に酒を飲む姉貴だけが普段着でいた。

 俺の顔を姉貴は見ると、猫が新しい玩具を手に入れたみたいに目尻を下げた。

「ソレじゃ!病院で会いまヒョウね。祖母ちゃん」

 飲んだくれの姉貴の話し相手は祖母のようだった。祖母の家の台所で飲んだくれ姉貴と二人きり。

釣り銭切れの自販機に千円札を入れるようなもので骨が折れる状況が今。

途中で紙幣が噛んで商品どころかお金も戻らない。そんな事にも成りかねない会話には御免被りたい。

「カレーも良いれド、何かの卵レ腸詰めのヤツの缶詰めも食べてみぃたーいネ!」

 姉貴は上機嫌で猫なら喉でも鳴らして擦り寄るだろう。

「只今、姉さん。ちょっと遅くなって御免」

 手早くカレーを食べて二階の自分の部屋へ戻ることにする。

 席を立ち冷蔵庫から飲み物を取ると、姉貴が話しかけてきた。

「学業と恋は、当たって砕けるろ!」

 軽く肩をたたき、トイレの方へ出て行った。

 《恋はもとより学業が壊れたらダメだろう。普通に 》

 ツッコミを入れる相手がいない台所よりも自分の部屋を優先すると曲がる階段の先にある六畳の洋間に急いだ。

 鞄を机に置く同時にテレビのリモコンを操作する。

 お笑い番組やスポーツが、何時いつもものように楽しめないでゲームディスクを気にかける。他人との軋轢あつれきや納得出来ないルールにも我慢して争わずにいられるが、ゲームの中だけは他人に見透かされて腰抜けに見られるのが嫌だった。

姉貴と秀明さんから見える弱い俺が変われると信じてパソコンの電源を入れる。


「何もしないより、何かをやって後悔するほうがいい」

 自分に言い聞かせる儀式のように呟いた。

 昨日まで誰もいない隣りの部屋から姉貴のイビキが微かだけ聞こえて安心をした。


 俺は共に冒険する少女をイメージした後で、頑強で正統なモンスターを考える事になった。

 それは対戦時に、相棒と二人で組んで対戦すれば残りのメンバーは少なくて済むので納得した。

 モンスターは自分が直接に操作しない代打ちのようなもので、リアルタイム以外にも自分が遊べない状態でも自動的に誰かと対戦するようだ。


 見てくれに興味は無いのと、早く強くなりたいために装備は丸腰みたいに貧弱だ。

 自分が創ったキャラにボキャブラリィーの無さを感じながら、楽しんでいる自分に驚く。

 小さな街を行き交う人々が話しかけてくる。

「一緒にボスを倒しませんか?自分一人では無理そうなので……」

 俺のキャラの背丈半分ぐらいの小さな女の子が、街の広場で一生鮮明に共闘してくれそうな人を勧誘している。

 周りの人々は、まるで子供を避けるように小さな女の子の話を聞いていないようだった。

 女性キャラの中身ないそうが、中年の加齢臭が100%の男性オヤジだってことは本当によくある話だが、目の前の女の子がそんな腐敗臭まがいな感じはしない。

 どちらかと言うとライチやハイビスカスの香りだったが、架空の電脳世界に匂いの概念は無いはずで俺自身の思い込みと願望なのだろう。

 顔に不釣り合い眼鏡が見えたので、実際に眼鏡をかけた女の子じゃないかと思う。

「俺で、良ければ一緒にボス戦に行こう」

「ありがとう。頑張りましょう。あれっ」

 俺が、彼女を誘いパーティー用チャットの画面に自分の情報を出すと、女の子が言った。

「そのレベルと装備では、ボス戦は無理ですよ。適当に経験値を稼がないと」

 考えてみれば、ゲームを始めて間がない俺にも倒せるボスなどいない。

「ごめん。俺じゃ、役不足だろう。これからレベル上げしてくる」

「ダメですよ。せっかく誘ってくれたんですから、一緒にレベル上げに行きましょう」

 街の端まで歩く間に、世間話をする。途中でアイテムを買うが支払いは、俺じゃなく小さい眼鏡の彼女だった。

「冒険を一緒にするんですから、堅苦しい言葉使いは嫌です」

 ミオンと呼んでほしと眼鏡の彼女が告げると、さっさと門の方へ歩いていく。

 急いで後を追いながら見上げると、店や住宅が壁の中に収まって、クリスマスツリーのように色々な灯りが見える。正面の建物に門があるのに驚いたが、外壁そのものが街なのだから当たり前だと気がついた。

 3人以上で対戦が成立するのと、点棒がライフになること以外は普通のRPGに思えたが、戦闘が麻雀で行われるのが珍しい。

 ミオンと俺は、貧弱なモンスターと対峙する。

 基本的に戦いは3〜4人対戦だが、俺たちはチームで対戦相手は2人となる。

 リアルに操作する仲間がいる時は、最初に作ったサポートキャラはお披露目とはならい。

 目の前の敵も、俺たちがゲームを始める時に創ったように誰かのモンスターなだろう。

 麻雀の対戦画面に切り替わる。

 プロレスのリングみたいな形で、それぞれ小さな四角い塊(牌)が10個以上並ぶが無期質で、夢で見たように美味しそうに見えない。

 ドランプの札を取るように、牌を次々と山から取ってはいらない牌を捨てる。

「麻雀も人生も、終わり良ければ全て良し。ピンピンでコロリです」

 俺の不慣れでヘタクソなプレイを心配しながら場の雰囲気を和ます。

 俺は、皆の捨てた牌と同じ牌を捨てながら、ミオンの足を引っ張らないよう頑張った。

 モンスターがサイコロの一の目のような牌を捨てると、一瞬の隙を与えずミオンは叫んだ、

「ロン!大当たり」

 倒れる向きこそ違えど我々の勝利、彼女の前の牌がドミノのように綺麗に順番に端から倒れてゆく。

 コインを連想させる絵柄が、三枚づつ揃っているのを見て息をのむ。

 麻雀には(ソウズ、マンズ、ピンズ)の三種が、それぞれドランプみたいに1?9までの数字のを持っている。ミオンは、相手が一番端の1を捨てるのを見越して待っていたのだ。チンイツと言う役であがったみたいだが、俺にはメンチンもチンイツも同じに見えるので点数は正確に分からないが、モンスターは大ダメージで白眼を剥いて後ろに倒れた後で、粒子レベルまで分解され消えていった。

「おい、そう簡単には死なないんじゃないのかよ」

 四人打ちが基本の麻雀で、持ち点が0点以下になると勝負は終了する。

「この勝負に負けたら降級だったですよ。ルーキーさん」

 ミオンの説明では、普通のRPGと違いレベルの存在はこのゲームには無く、打ち方や勝率で段位が決まるらしい。

 柔道や空手のようにクラス分けでもしてないと、経験者が断然有利になるから当然だと思った。

「しかし、俺らより弱い奴らっているのかな?どう思うミオン」

「私は別として、あなたは頑張らないといけないですよ。最初は中間の弱くも強くもない階層でスタートですから、落ち零れないよう頑張ってくださいね」

「階層って……」

 俺が不思議そうな顔をすると呆れた素振りをしてミオンは言う。

「今の階層は、10階層ある内の3階層目ですよ。私たちは何処か居場所の分からない各階のボスを倒して、最上階を目指さなければいけないんですよ」

「ボスの居場所にこころ当たりがあるんだろう。ミオン」

 俺が聞くと彼女は恥ずかしそうに言った。

「一人旅が寂しかったんです。お喋り相手も欲しかった……」

 ガチな本気モードのプレイヤーと違い、エンジョイ勢であるのを知れば少し楽になった。 

 レベルを上げながら洞窟やダンジョン攻略するのを提案した。

 ゲームの世界の夕焼けが見える中、二人は弱そうなモンスターを狙って経験値を稼いでいく。

 時折、甲冑武者の強者や三人連れのパーティーに対戦を挑まれ、散々な目にあっても一定の成果があった。

 地平線に陽が落ちる様子がが余りにも美しいので、プレイヤー達はその風景に目を奪われている。

「俺はリア充じゃ全然ないけど、架空の世界の夕焼けでも……楽しい時間をありがとう。ミオン」

 心に染みる景色が言わせたかもしれないが、出逢えた事に感謝もしたし、また一緒に冒険したいと思えた。

「また、一緒にプレイしてください。次はもっと強い敵と戦いましょう」

 小さい少女ミオンは、言葉を告げると微笑んだまま右手を振った。

「この街で僕は君に逢えたから……何か、手がかりを見つけた気がする。また来るよ」

 深夜の一時を過ぎて、電脳世界の人も所々とまだらになって祭りの後の静寂に似た風景に見える。俺は何かに打ち込める趣味を持ちたいと思った。ミオンがログアウトしたのを確認して、俺は電脳世界を後にした。十分な準備や計画性もなく飛び込んだ世界は、半人前で共に戦う少女の足を引っ張るだけで、最弱なモンスターを倒す時でも逃げ惑うようで情けない。

 まず、麻雀の勉強だ。と思ってみたが何をすれば強くなるか見当が付かない。

 とりあえず携帯で遊び方と役の解説は読んでみると、リーチは便利もので得点が増加するブースト技のようなもので驚かされる。フリテンが難しくし解りにくい、さらにピンフが出来る時とそうでない時かが判断出来ないでいるから途方に暮れる。

 調べて見つからない部分は、明日にでも秀明さんに聞くことにした。

 ベットの中へ滑り込んだと同時に眠気が来ると、スマホの麻雀ソフトをダウンロードしたのだが今日の出来事を忘れるくらい深い眠りについた。

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