第3話

朝に乗った 軽トラが止まっている場所、空腹と時間潰しを兼ねて、高層には程遠い薄汚れたオフィスビルの一階のテナントの前に俺はいる。

 この軽トラには痛いイラストが描かれ、ゲームと漫画が所狭しと並ぶ店『古本雑貨  月野』の看板のようなものだ。 

「治、不抜けた面をしとるのう。気合い入れてやろうか? 」 

「その手には乗りませんよ。また、俺をゲームでギャフンと言わすつもりでしょう。」 

 店の中から俺に話しかけるのが、独りっきりで切り盛りしている月野秀明だ。 

「格闘じゃないんじゃ、お前さん相手じゃCPUのほうがマシじゃけぇ!」 

 ゲーム機の検品を手際よくしながら、俺に店の奥の倉庫兼休憩室で待つように顎で合図をする。

 店には絶えず数人の客がいるが、漫画やゲームそしてフィギュアを各々が物色している。 

 俺は、来るときに買って来たハンバーガーをレジの横に置くと店の奥に消える。 

 時間待ちは、倉庫兼休憩室の積み上げてある漫画を整理する振りをして読み、遊んだことのないゲームで遊んだ。 

 どれだけ時間が過ぎたのか、店の主がハンバーガーを頬張りながら現れる。 

「ゲーム好きには、片手で食べられるバーガーは最高じゃけぇ」 

 話しが終わる前に、包み紙を乱暴にゴミ箱に投げいれる。

「世界の5割ぐらいは.今でも手で食事しているからのう」

 俺はむすびを、3個食べながら言葉を返す。

「つまらないトリビアは必要ないんです」

「どっちでもええ、旨けれりゃ」 

 二人は、ゲームから始まり漫画やアニメの話で盛り上がった。 

 途中で即席のラーメンを食べ、夜の8時過ぎには店を閉めた。 

「今日は、ゲーム業界の知人からベーターテストを頼まれての…」 

「携帯電話向けソフトらしかったんじゃが、随分と時間が経っていてPC用に作り直しとると聞いたんじゃけど?」 

 人脈のすごさというか意外な繋がりに驚かされながらも、店主がテーブルにディスクを置くと俺は手を伸ばした。 

 『ドレイク・ブレイカー』とタイトルが書いてあるだけでイラストも無くゲームであるのも分からなかった。 

「治よ、インターネットで麻雀をやったことあるんか?」 

 唐突な質問に、答えが出来ずにいると 

「コイツは、初心者がターゲットのRPG風麻雀なんじゃが」 

 パソコンにディスクをセットすると何やらRPGのオープニングのような映像が流れる。 

「今までコンピューターの脱衣系麻雀しかやらない超初心者の俺でも……」 

「そうじゃ、今まで敬遠してきた人間をターゲットにしとるけぇ」 

 秀明さんは、パソコンを機敏に歯切れの良いリズムで操作すると、中世風の街とアジアンテーストの人達とが世界を織りなす架空空間が現れた。 

 それぞれのパソコンに創られた電脳的な箱庭をオンラインで結び、各々が創造のモンスターや美少女を賭けて麻雀で闘うゲーム。 

 秀明さんの熱弁とプレイ風景を魅入る。 

「殺伐としたゲームと違い、モンスターも美少女も簡単には死なんけぇのう。」 

 剥ぎ取られたり落とすアイテムで、パワーアップするのだけは理解ができた。 

「飲み込みが早いのう。治よ」 

 操作の手解きをすると次の言葉を言う。 

「ベーターテストには、若者が適任だな。俺なんぞ老兵じゃけぇ、頼むわ!」 

 ——玄人も素人もあったもんじゃない——

 そう考えながら、昼過ぎに届いたメールが姉貴と秀明さんのメールだったのを思い出した。 

「昼頃のメール、やっぱりこのゲームの話ですか?」 

「何時も言っとるじゃろうが。メールぐらい読めや!」 

 怒声に愛がある。お盆など休みには墓参りをかねて街に訪れている俺は。その折りにこの店に顔を出していたのだった。

「 部活も入ってないお前に、全国規模のイベントで青春を楽しんで欲しくて無理をしたんど」 

 残念がるにはオーバー・アクションで、何か良からぬ企みの匂いがぷんぷんした。 

「俺は、趣味も部活も先立つ銭がいるから御免ですよ」 

「ベーターテストで全国大会っておかしいでしょ」

 相手に隙を与えず、俺はゲームを操作しながら話すのだが、敵もさるもの引っ掻くもの目線を逸らして、秀明さんは煙草に手を伸ばした」

「どちらかと言えばプロモーションと言えば正解なのだが、一般に公募でプレイヤーを集めるのは数ヶ月後だ」

 」

 「俺を誘うより秀明さん自身がゲームの大会に出れば?」

 俺の言葉を簡単に否定する。

「ゲームを始めあらゆる業界が、新しい人材を発掘する意味がこの大会にあるけぇ。スターの誕生と話題性からか出場参加が高校生限定なんじゃ」

 なるほど未成年である理由が、大人の出来レースやイカサマ天国で残念な結果になるのが避けたかったのか。

 自分が馬鹿っぽいことを考えていたと苦笑する。

「誰かが仕組んだシナリオがあったりしないですよね。オンラインじゃイカサマは無理でしょうけど」

 俺の質問に秀明さんは答えながらスマホを指で弄ぶと、どんな困難も青春時代の思い出なのだ、まだ見ぬ世界で宿敵と恋と栄光を見つけるのも悪くないと言った。

「RPG要素あるんですよね」

 前もって仕込んでいたメッセージのように、俺の質問を無視して話しを進める。

「まあ、大会までは練習の対戦が出来るけぇ、軽い気持ちで挑戦しな」

 そう言うと俺に、無理やりゲームディスクを押しつけた。

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