第6話 忘れな草

 彼はあの町の桜祭りに一緒に行こうと言った。

 ファンの人にばれるよ、と言ったが、どうしても行きたいとのことだった。


 久しぶりに桜祭りに来たが、昔とあまり変わっていなかった。

 道の両側に桜が咲き、出店が沢山出ていた。

 かなり混んでおり、これならバレないかもしれない。

 私たちは綿アメを買って、ふたりで分けて食べた。


 そして二人で桜の下を歩いた。

 土曜日、快晴、桜は満開、穏やかな風、隣には彼がいる。

 私にはこれ以上の幸せは思いつかなかった。


 桜のトンネルを抜け、近くの公園に行った。

 思い出した。

 20年前のあの日、ここでさよならしたんだ。

 確か私は彼との別れが寂しくて、少し泣いた。

 そんなことまで思い出した。


 「ねえ、あの日の約束覚えている?」彼は言った。

 私は首を振った。

 本当に覚えていない。何を約束したのだろう。

「僕はあの日、君に言ったんだ。

 もしまた君に会うことができたら、その時は僕のお嫁さんになって欲しいってね。

 そしたら君は「良いよ」と言ってくれた。」


 彼はポケットから指輪を取りだした。

「だから…、僕と結婚して欲しい。」

 桜の花が春の風に吹かれて、美しく舞っていた。

 

 

 

 


 

 

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forget-me-not 青海啓輔 @aomik-suke

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