勘違い×勘違い 3
オレたちは、いったい何と戦っているんだ?
おかしい。次々と味方が倒されていく。
死角からの斬撃や炎の銃弾、魔法の矢による攪乱が来たかと思えば、いつの間にかまた一人怪人が倒されている。
こんな筈じゃなかったんだ。カスほども戦闘能力が無い白髪の小娘と、高校生のガキひとりを捕まえるだけの、楽で簡単な任務だったはずだ。
それが何故、こんな全滅寸前にまで追い詰められている? オレたちは奴らに傷一つ負わせていないんだぞ。
「ッ!!」
後ろからの気配を感じ、オレの全力をもって剣で弾いた。
今のが直撃していれば間違いなく倒されていたことだろう。
「防がれた……っ!?」
驚きつつも、オレと同じく剣を構えた状態で眼前に現れたのは、赤みがかった茶髪の高校生。
資料で見たことのある顔だ。
確かレッカ・ファイアというガキだったか。先ほどまでオレたち怪人を葬っていたのはコイツで間違いない。
「お前を含めてあと数人程度だ、諦めろ」
「が、ガキどもが……」
いや、確実にもう一人いるのだが。
ヤツは『正義に目覚めた』とかいう理由で組織を裏切り、十数年前に正義のヒーローたちに力を貸して、一度組織を壊滅寸前にまで追い詰めた科学者の息子だ。
「っ! さっきの衝撃で通信が切れて……」
「もう上空にいるお友達とは、コレで連絡ができねぇな?」
「問題ない。貴様程度の相手なら、僕一人で十分だ」
紀依勇樹──忌まわしき元組織の科学者。
実験体であるあの純白をキーとして、世界を創り変える能力を発動させるシステムの完成には、あの男の頭脳が必要とされている。
ゆえに協力させるための人質として、その息子である
「くくっ。おめでたい奴だな、レッカ・ファイア」
「……何を笑っている」
そうだ。オレはあのガキを捕まえて、一気に昇進して偉くなってやるんだ。その為にもここで終わるワケにはいかない。
仲間が来るまでの時間稼ぎとして、俺が知りうる情報を使い倒してやる。きっとコイツも気になる話のはずだ。
「坊主。いまお前を援護しているあのアポロとかいうガキの姓、なんだか知ってるか?」
「……? キィだ。それがどうした、くだらない時間稼ぎなど──」
「オイ待て待て。早まるなよ、コレはお前も知っておかなきゃならねぇ話なんだぜ」
おっ。警戒は解いてねぇが、動きは止まったな。
ようやく話を聞く気になりやがったか。
「いいか。紀依太陽のオヤジ──紀依勇樹はもともと悪の組織側の科学者だ」
「……だとしても、そんな事アポロには関係ない」
「いや大いにあるね。……実はとある一人の少女を封印しているペンダントってのがあってな。そんな何の罪もないガキを閉じ込めた魔法アイテムを作ったのがそいつのオヤジで、アポロ本人もそれを使っているんだ」
「……なにを、言っている?」
ファイアは怪訝な表情で眉をひそめる。
「まだ分からねぇのか。だったら教えてやる。
実験体である純白を庇ってる、あの黒髪の少女の正体は──アポロだ」
「ッ!?」
剣を持つ手が僅かに震えた。よしよし、いい調子だ。
オレは紀依が悪の研究者として働いていた頃から組織にいる古株だ。
数十年もあそこに居れば、偶然目に入った”自分しか知らない秘密”ってのも自然と増えていく。
そうだ。
組織の誰も知らない紀依の秘密を、オレだけは知っている。
いつか周囲を出し抜けるように、誰にも共有してこなかった秘密が。
だからオレはあの見覚えのある黒い少女を見つけた時、好機だと思った。
今持っている地位と権力の全てを使って、自分の息が掛かった連中だけを引き連れてこの森に訪れ、奴を捕まえる作戦を決行したわけだ。
黒髪の少女の正体が、紀依の息子だとすぐに分かったから。
「正確には黒髪の少女に”体を貸しているのが”てめぇの親友だってことだよ」
「……お前が何を言っているのか、理解できない……」
動揺こそしているが、攻撃の隙は見当たらない。
まったく末恐ろしいガキだ。
「だったらもう少し説明してやる。やつのオヤジである紀依博士は、組織の研究所を逃げ出す前夜、自分の研究室で『こいつは封印したままにする』と言っていた。この耳で聞いたからな、間違いねぇ」
だいぶ昔の事ではあるが、あの少女に関する情報は、とても鮮明に記憶している。
「何度か博士の研究室を覗いたとき、たまにだがあの少女がいた。そしてその少女の姿から、博士の姿に戻るところもな」
「へ、変身魔法……とでも、言うつもりか?」
甘いな。そんなモンじゃねぇ。
「姿形だけを変えているワケじゃないぜ? 博士はあの姿の時、まるで人が変わったように無口で大人しくなってたんだ。
基本的にはフレンドリーだし、わりと常にテンションが高い博士の性格を考えると……あり得ないほどに変質していやがった」
ファイアの額に汗が流れる。よほど衝撃的な内容だったせいなのか、いつの間にか呼吸も荒くなっていた。
「最初は演技で美少女ごっこでもしてる変態なんじゃねぇのかって思ったが、それは違ぇ。博士は助手のチエという女をいつも侍らせていたからな。
気づいた時には腹にガキをこさえてやがったし、あんなノンケ野郎がそんな真似できるワケがない」
だから、俺はこう考えたのだ。
「博士が使っていたペンダントの中には……モルモットとして捕まえたであろう、あの黒髪の少女が閉じ込められてんだろうな。本人が封印しておくって言ってたんだから間違いない。
そんな彼女が現実世界に出てくるためには、ペンダントをつけた人間の体を依り代にして、その本人の意思で
そうすることで黒髪の少女はようやく自分で動くことができるようになるが……くくっ、笑えるぜ。オレは一度もあの少女と博士が、同じ空間にいるところを見たことが無いぞ。
きっとあの少女は──二度とペンダントの中から出られない」
「…………」
長々とオレの話を聞いたファイアは、ついに手の震えを抑えることが出来ず、握っていた剣を地面に落としてしまった。
詳しい関係は知らないが、きっとコイツはアポロだけではなく、黒髪の少女に対しても何らかの感情を抱いていたんだろう。
だからこそ、ここまで心が揺れ動き狼狽している。様子を見れば丸わかりだ。
「テメェのお友達はな……オヤジからそんな最低最悪なアイテムを譲渡されちまったんだよ!
ケヘヘっ、一体どっちなんだろうな? 不憫に思ったあいつが少女に体を明け渡してんのか……はたまたモルモットの女が、アポロを誑かして体を奪ってんのか!
どちらにせよあの二人が同時に存在する事はできねぇってワケだ! ギャハハハッ!!」
「……はっ、はぁっ、ハァッ」
おらっ今だ、ぶっ殺してや──
「ああ゛ァ゛ぁッ!!!」
…………あれ?
オレのお腹に、剣が刺さってる。
いつのまに。
剣はさっき、手放していたはずなのに。
「ばっ、馬鹿な、こんなところでぇ──」
──組織の改造人間、怪人は一定のダメージを受けると、情報漏洩を防ぐために自動で爆死する装置が埋め込まれている。
「ぐわああああぁぁぁッ!!!」
少年の剣の一撃をトリガーに、怪人はしめやかに爆発四散した。
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