ロリと忍者とTSっ娘 4


 それから約十分後。

 オトナシが捨てたデバイスのGPSを追って、彼女を除いたヒーロー部の全員が街外れの、建設途中の大橋まで駆け付けた。

 なるべく急いでその場を離れたのだが、どうやら彼らの追跡能力を侮っていたようだ。


「──コクっ! 待て!!」


 建設中の大きな橋は二つに分かたれていて、それを繋ぐ中央の道が存在しない。

 まるで谷底のように、途中で断絶されているのだ。


「……レッカ」

「お前……いい加減にしろ!」


 橋の向こうから親友の声がする。息が上がっていて、汗だくだ。相当急いでこの場に駆け付けたのだろう。

 他の少女たちも焦燥の──いや、苛立ちや敵対とも取れる表情で、こちらを見つめている。なんならこのまま殺されてしまいそうな眼力だ。


 こちらはパッと見で、コクに変身した俺一人。

 衣月は透明マントを使った状態で隣にいて、オトナシも忍者らしく橋の真下に張り付いて待機している。

 何かあったときは彼女にサポートしてもらう手筈だ。


「おまえ何を隠してる!? どうして急にあんな事を……アポロがいなくなった事と、何か関係があるのか!?」

「……ごめんなさい」

「そうじゃない、答えになってない……!」


 これまでに無いほどレッカは怒っていて、尚且つ焦っていた。

 偶然衣月の事が重なったとはいえ、こうなってしまったのはほとんど俺のせいだからか、大きな罪悪感が胸中で燻る。


「レッカくん、話しても無駄だよ! 私が捕まえるからっ!」


 横から出てきたコオリが、俺を捕まえるつもりで、氷の魔法を放ってきた。

 氷で生成された巨大な人間の右手がこちらへ向かって、猛スピードで迫ってくる。


「ハッ──」


 しかし、その氷の手が俺を捕まえる直前で、橋の下からオトナシが飛び出てくる。

 彼女の駆使する音魔法とクナイを合わせた技によって、コオリの魔法で作られた巨大な右手は、粉々に砕け散ってしまった。


「オトナシっ!?」


 スタっと俺の隣に着地するオトナシ。

 相殺した魔法の衝撃が強すぎたせいか、透明マントが吹き飛ばされ、隣にいた衣月も露わになってしまう。

 ヒーロー部全員の前に、即席で作った三人の美少女チームが姿を現す事となった。


「どっ、どうしてオトナシが……? それに、その少女は──」

「申し訳ありません、レッカ先輩。今は事情を話せないッス」

「なに、言って……」


 狼狽えて一歩後ずさるレッカ。

 魔法を砕かれたコオリ、隣のヒカリやウィンド姉妹たち四人も同様に困惑したものの、中央にいるライ会長だけは、真剣な表情のままこちらを見据えていた。

 ぶっちゃけあの人にはどこまで知られているのか分からない。勘違いをしているのかもしれないし、わざと知らないフリをしている可能性もある。さすが生徒会長兼ヒーロー部の部長といった所か、どこまでも読めない人だ。


 だが、そんな事には構わず、主人公さんは俺たちに向かって問いかける。


「コク……この際、きみの正体は問わない」

「……」

「けどこれだけは答えてくれ。……アポロは──オレの親友はどこだ!? 知ってるんだろ!!」


 一人称が崩れるほどの迫真の叫びだ。正直ひるんでしまった。

 ……よく考えたら、レッカ視点から見たこの状況、ちょっと俺が隠しヒロインっぽく見えてるんじゃね──と考えた思考は吐き捨てる。流石にここまで追い詰められた状態だと、美少女ごっこに思考を割いている場合ではない。外での少女姿を強要されてる以上、もはやごっこじゃなくなり始めてるし。


 すべてを打ち明けて楽になりたいが、衣月のことを投げ出すわけにはいかない。

 だから俺はまだ嘘を隠し通すのだ。

 アイツがちゃんと俺を止めてくれる、その日まで。


「──私が生きている限り、アポロ・キィは死なない」

「…………は?」

「抽象的な意味じゃない。……いずれ、話すときが来る」


 それだけ言い残して俺が指で合図を鳴らすと、ウチの忍者が煙幕玉を下に投げつけた。

 灰色の煙が一気に充満し、その隙に俺は風魔法を使い、二人を浮かせる。


「二人とも、行くよ」

「うん。……音無おとなし

「大丈夫っすよ衣月ちゃん、しっかり掴まっててください」


 音無が衣月を抱えたところで、三人で一斉に空へ飛び上がり、大橋から離れていく。

 かなり目立つし魔力も大幅に消費してしまう撤退方法だが、あの場所から移動するためには、この手段しか残されていなかった。


 よし、これでひと安心──



「コクぁぁァッ!! 待てェェェッ!!!」


 

 ってなんか来てるゥーッ!!?


「ちょちょちょッ! レッカあいつ、飛べるようになってたのかよ!?」

「ヤバそう」

「あはははっ! さすがレッカ先輩ッス!!」


 笑ってる場合じゃねぇよ冗談抜きでやべぇ。

 主人公の底力マジで計り知れない。

 俺がアイツの前で何回も空へ消えていったせいなのか、その退散方法を学習したレッカが、両手から炎を大量に放出しながら飛行する方法を編み出して、煙幕を突き抜けて追いかけてきやがった。何だよあれアイアンマンかよ。


「散々振り回しやがって! 洗いざらい吐かせてやる!!」

「それ主人公の言うセリフじゃねぇッ!! わっ、うわわうわうわっ、くるなぁァァ!!」



 あまりにも予想外なお空での鬼ごっこが開始されてしまい、前途多難であろう道のりを嫌でも思い知らされる、最悪な旅路の一日目が早速スタートしたのであった。


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