ロリと忍者とTSっ娘 3


『──というわけでアポロ! 公共交通機関を一切使わずに、オキナワにある秘密基地まで、なんとかたどり着いてくれ!』


 朝いちばんにアホみたいな電話をよこしてきたのは、TSペンダントを作った張本人である父親だ。

 今は地下通路を歩いていて、こういった場所でも連絡できるハイテクスマホに感心していたところだったのだが、そういった感情は今の一言で全て消え去ってしまった。ウチの両親は無茶ぶりすんのが趣味なのか?


「オキナワ。……沖縄って言った?」

『そうだ!』

「公共交通機関を一切使わずに?」

『あぁ!』

「……ここ、東京のド真ん中なんだけど」


 めちゃめちゃ首都圏の中心なんですけど。

 魔法が発展しすぎて名前と苗字が反対になったハイパー大都会トーキョーなんだよ。

 四国でも九州でもなく、正真正銘ここは関東なんだわ。なのにこっから飛行機はおろかバスや新幹線すら使わずに、この国の最南端まで行けとか正気か? 親父のことブン殴りたくなってきたな。


「わかった。迎えが来てくれるんだな」

『来ないぞ! 二人でなんとか頑張ってくれ!』

「あきらめていいか」

『エェッ!? か、母さん! なにかアポロのやる気が出る言葉を頼むよ!』

『ごめんなさい、フォローできない』


 いや確かにフォローできない無茶ぶりだけどアンタは頑張れよ。このままだと息子は挫折します。


『……その子を守れるのは貴方しかいないわ』

「そっすね。がんばりまーす」

『あ、ちょっ、あぽ』


 もう電話は切ってやった。どうせありきりたりな励ましの言葉しか飛んでこないことは目に見えていた。そろそろ出口だし時間の無駄だ。


「よしいくぜ──TS変身!」

「ぴかー。しゅう~、どんっ」

「変身完了っ!」

「ぱちぱち」


 口でサウンドを足してくれていた衣月の頭に、パーカーのフードを被せてやった。こいつの目立つ白髪は隠しとかないとな。


「いいか衣月。外では俺のことをお姉ちゃんって呼ぶんだぞ」

「わかった、お姉ちゃん」

「んふっ」


 言われた瞬間、なんかゾクゾクしてきちゃった。お姉ちゃんって呼ばれるの、すげぇ変な気分だ……!


「紀依。キモい」

「ちくちく言葉はやめるんだ」


 普通に傷つくので。


 そんなこんなで、文字通り”旅”をする準備を終えた俺たちは、さっそく地下通路から繋がる扉を開けて、外に出ていった。

 俺たちが出た先は、おそらくは学園からは離れた位置にある郊外の、人気が無い路地裏だ。

 前日と違って今日は晴天。

 雲一つない青空が広がっている。

 旅立つにはこれ以上ないほどの良シチュエーションだ。

 

 ……あぁ、そう言えば。


「レッカに連絡するの、忘れてたな」

「れっか?」

「俺の友達。誰よりも頼れるすげー男」


 昨日はコクとして別れを告げた後、アポロとしてすら一度も彼と連絡を取り合っていなかった。

 かなり早い段階で地下室へ避難したため、俺のスマホはそれからずっと圏外だったし、うちに来てインターホンを鳴らされた場合でも気づくことが出来なかった。


 どれくらいの期間かは分からないが、しばらくは会えなくなるんだ。そこまで仲が深くないヒーロー部の面々はともかく、レッカにはその事を連絡しておきたい。

 電話するんだから男にも戻っておいた方がいいか。一旦地下通路に戻ろう。インターバルも五分だけだしすぐに済む。


「変身解除っと」

「……地下に戻ってから解除した方が、よかったんじゃないの」

「あ、やべっ、急いで戻るぞ」

「ポンコツ……」


 大変なことに気がつき、焦って衣月をグイグイ押しながら、扉の先に戻ろうとして──




「ちょ、ちょっと! あのっ!!」




 その時だった。

 俺の背後から──聞き覚えのある、少女の声が聞こえた。

 恐る恐る後ろを振り返ると、そこにいたのは。


「……き、キィ先輩? なにやってんスか……?」


 いかにも忍者っぽい恰好をした、長いマフラーが特徴的な女の子。


「…………オトナシ、ノイズ……」


 先日美少女になって学園へ足を運んだ時に、気配を消していたせいなのか、唯一その姿を見つけることが出来なかった少女。

 レッカを想い慕うヒーロー部のメンバーの中の唯一の下級生にして、現代を生きるニンジャ少女。


 オトナシ・ノイズであった。


 よりにもよって、ヒーロー部の中で最も活動範囲が広域な存在ニンジャに、俺が変身解除するところを見られてしまったワケだ。


「い、いまっ、女の子から、先輩の姿に……? たしか、コクって子でしたよね? え、どういう……」

「オトナシ!」

「ひゃいっ!?」


 ……こういう初歩的な失敗をするのが、俺の悪い癖だというのは、十二分に理解できた。本当に改めるべき悪癖だ。

 しかし、ここで後悔に駆られて何もできないのはもっとマズい。

 さっそく正念場だ。

 俺のアドリブ力が今この場で試される時が来てしまったようだな。


 まず、こういう場において必要なのは──シリアスっぽい雰囲気だ。


「緊急事態につき、単刀直入に聞かせてもらう。お前、学校サボってここで何をしてる」

「え、えっと、キィ先輩を探してたんです。昨日の深夜、キィ先輩の家が何者かに破壊されて……んでその何者かと、ウチらが戦闘をしまして。それで、やっつけた後に倒壊した自宅を見ても誰もいなかったから、ウチら部員に先輩を探すよう、レッカ先輩が……」


 マジで? 昨日俺たちが寝てた時、その真上でバトってたの? 全然気づかずスヤスヤでワロタ。

 ……いやいや、冗談じゃねぇぞ。地下室ってそんなに音や衝撃を遮断する機能備わってたのかよ。そんな事になってたんなら、もっと早く逃げたのに。


「あの、何はともあれ見つかって良かったっス。とりあえずレッカ先輩に連絡しますね」

「いやダメだ」

「えっ」


 なんとか頑張ってポーカーフェイスを保ちながら、頭ん中を必死にこねくり回して、彼女に必死の説得を試みる。

 いま、確実に人生で最大と言えるほど、緊迫感のあるシリアス顔をしてると思う。がんばれ俺。


「お前が見た通り、漆黒の正体は俺だ。俺があの少女に変身していた」

「ど、ドン引きっす……」


 だよね……。


「どう思われようが構わない。全てはこの少女を守る為だったんだ」

「……その子は」

「ライ会長から聞いてないか?」


 賭けだっ!! お願いです会長!! みんなに情報共有していてください!!!


「も、もしかして、部長が言ってた”逃げ出した実験体”って……!」


 っしゃあ!!!


「レッカたちヒーロー部は、良くも悪くも人の目に付きやすい。情報の拡散が致命的なこの状況だと、頼れるのは隠密行動に優れた忍者であるお前しかいないんだ、ノイズ。……いや、オトナシ」

「……っ!!」


 スゴイ。あの子、驚きつつもシリアス感のある真面目な顔になった。割と話を聞いてくれる子で助かったわ。


「秘密を知ったのがお前で良かった。頼む、全てを秘密にしたまま、俺と一緒に来てくれ」

「っ……それは、レッカ先輩を裏切ることになります」


 うぐっ。あいつに惚れ込んでるヒロイン相手に、この提案は厳しいか……?

 正直『秘密は黙ってる』と言われても信用できない以上、この場でオトナシを返したくない。人を疑いすぎるのは良くないが、レッカの事を好いているのなら、あいつに対してだけは口が軽くなる可能性が大いにある。壁ドンされながら自白強要でもされたら、十中八九ゲロってしまうはずだ。


 頼むぞ後輩。おねがい──!



「……でも、その子がまた悪の組織に捕まったら、世界が大変なことになっちゃうんスよね」



 ──おっ?

 こ、これは確変演出か……?


「市民を守るのがヒーロー部の使命。……世界そのものが終わっちゃったら、話にならないです」

「オトナシ……」

「わかってますよ。忍者が秘匿情報をペラペラと喋るわけないでしょ」

「オトナシぃ……!」

「どこまで手伝えばいいのか、ちゃんと教えてくださいね。……先輩」

「オぉトナシャアァ……ッ!!」

「さっきからうるさいっスよ……」


 おめでとう! こうはいのニンジャが なかまになった!


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