もっと謎の美少女ごっこがしたい!! 2

 はい、というわけで仮病を使って、まずは学校を休みました。

 レッカには『今日は休む』とだけメッセージを送った。アイツのことだから仮病ってことには気づいてるんだろうな。


 話を戻して。

 今回、俺は謎のヒロインとしてのストーリーを一気に進めていく作戦を思いついた。

 このままフラッと現れてまた居なくなってでは、進展も無いしレッカもそれに慣れてしまうだろう。

 さよなら、という手紙だけを残して二ヵ月も姿を消し、彼がコクの安否を気にしまくっている今がチャンスだ。マジでタイミング的には今しかない。


 今日は大雨が降っている。

 主人公に対してヒロインが『決別』を告げるには、これ以上ない良シチュエーションだ。

 そう、俺は本日レッカに対して、コクの重要な事実を暴露する。

 そして彼に対して本当の別れを告げ、ついに攻略できなかったヒロインとして、彼の関心を一気に引きつける作戦を決行するわけだ。絶対驚くぜあいつ。


 まずは透明マントを使って学内に侵入し、現在の状況を見てみる。

 

 時刻は昼休み。

 ヒーロー部もひと固まりではなく各々別に動いていていた。

 ライ会長は生徒会メンバーと一緒に生徒会室。コオリとヒカリは食堂で友達と談笑している。

 レッカは他のヒロイン……ウィンド姉妹の二人と一緒に、購買へ向かっているようだ。


「そういえばレッカ。いつも一緒にいるアイツはどうしたのよ」

「ポッキーはけびょっ……か、風邪で休みだよ」

「レッカさん? そこまで言ったら訂正する意味ないと思いますよ?」


 姉のカゼコと、妹のフウナに囲まれて、いつも通りのイチャイチャだ。ふざけやがって。

 ちなみに俺の風魔法は、あの二人のすっげー強い風魔法を参考にして練習してたのだが、結局ウィンド姉妹本人たちとは、コクの姿ではあまり接したことなかったな。やっぱハーレム六人は多いよ。

 唯一の下級生であるオトナシは見当たらなかったけど、まぁたぶん友達の教室とかで飯食ってんだろ。簡単に姿を見せないところが、いかにも忍者っぽいが、アイツを探して昼休みが終わっては元も子もない。

 そもそもずっと透明マントを着ているから、誰にもバレていないはずだ。

 

「……なーんか、ずっと見られてる気がするのよね。気のせいかしら」


 っ!?


「後ろには誰もいないよ、お姉ちゃん。だってほら、あたしたち購買の列の一番後ろだし」

「うっ。そ、そうね……出遅れたせいで、目的のものが買えるか不安だわ……」


 妹ちゃんナイスカバー。助かったぜ。

 ったく、勘が鋭いお姉ちゃんの方には気を付けないとな。


「カゼコとフウナにファンがいるって噂は聞いたことあるよ」

「えっ、わたしたちに?」

「ヒーロー部はそこそこ有名だしね。それに二人ともかわいいから、ファンがいても不思議じゃないっていうか」

「かっ、かわっ!?」

「あぅ……」


 わっっっかりやすいレッカの天然ムーブで赤面するカゼコと、困るフウナ。

 さすが主人公、自分のヒロインを照れさせることなんざ造作もねぇってか。やりますね。


「急に変なこと言うんじゃないわよバカっ!」

「いてっ! ご、ごめん」

「お、お姉ちゃん、叩いたらダメだよ……」


 強気な姉に、内気な妹か。

 より取り見取りで羨ましいよ、レッカくん。それでも理性的で、性欲に流されず好青年のままでいられるキミに敬意を表するぜ。

 

 

 っと、少し雨が強くなってきたな。


 マントが多少雨具としての役割を果たしているとはいえ、割と激しめの雨粒に打たれ続けて、少し体が冷えてきた。傘は一応折りたたみのを持ってきたけど、荷物になるという理由で学校の出口付近に隠してきたため、今は手元にない。

 風邪ひく前に、そろそろ作戦開始といきますか。謎の美少女モードに切り替えだ。


「……」


 透明マントを脱いで畳み、ポケットに入れる。

 途端に、ざぁっと頭に雨粒が降り注いだ。まるでシャワーでも浴びているような気分だ。

 制服の胸ポケットから家の鍵を取り出し、わざとコンクリートの下に落とした。

 

「っ!」


 落下による僅かな金属音に、レッカだけがピクリと反応した。よしよし、計画通り。

 普通なら雨音でかき消されるような弱々しい音だが、レッカなら気づくだろうという確信はあった。

 ここ最近はことあるごとに色々な音や人影に反応してしまうほど、コクを探していたのだ。こういう時でも気づいてくれるって信じてたぜ。


 購買からギリギリ見える範囲の物陰からあちらを覗いていると、キョロキョロと周囲を見渡しているレッカと、ついに視線がぶつかった。


「コク……っ!?」

「──」


 焦らず、ゆっくりと校舎の陰へ姿を消し、鍵を落としたままその場を離れて、誰もいない校舎裏に向かって歩いていく。

 走る足音が後ろに聞こえる。ちゃんと追ってきてくれているみたいだ。

 彼に声を掛けられる前に、校舎裏の開けた場所まで移動し、いかにも待ってましたと言わんばかりに背を向けて待機する。


「はぁっ、はぁっ、コク!」

「……」


 きたきた。

 無言のまま振り返る。

 レッカは相当急いで追いかけてきたのか、傘を持っているにもかかわらず、制服の肩が濡れていた。


「っ、はぁ……ず、ずっと探してたんだ、きみを。これ、アポロの家の鍵。持ってたってことは、今日はあいつの家にいたのか?」


 肩で呼吸をしているレッカは、息を整えつつ顔を上げた。

 彼の表情は安堵だ。

 コクを見つけることが出来て、どうやら主人公くんはホッとしているらしい。


 いいね、ゾクゾクしてきた。これからその表情を崩してやるから、覚悟しろよな。


「今日まで何してたんだよ。何かやるんだったら、相談してくれればいいのに。僕たち仲間じゃないか」

「…………仲間、じゃない」

「えっ?」

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