エピローグ
~思いを伝えて
王都での戦いから数日後、僕たちはプレアデスの村への帰路に着いていた。
「いろんなことがあったけど、いい旅だったよねはなちゃん」
「パオ!」
僕を乗せたゾウのはなちゃんが、鼻を上げて返事をする。
この前の戦いでとんでもなく大きくなったはなちゃんだけど、あの後すぐにもとの大きさに戻ったんだ。
あんな巨大な姿でいつまでもいたらどうしようと困るところだったから、そこは安心したよ。
「それにしばらくははなちゃんも食事には困らなそうだもんね」
王都を救ったということで、僕たちは唸るほどのお礼を頂いたんだ。
あまりの大金だったから僕も怖じ気づいちゃったけど、ロゼちゃんの助言で素直にもらうことにしたよ。
ついでに持ってきてたレインボーフェニックスの羽根も献上したら、王様がビックリ仰天してたっけ。
それと最初険悪な感じだったリリエンス様ともあの一件で仲直りできた。
なんでも僕は命と国の恩人なんだって。
パーティーの時に僕を見て顔をほんのり染めてモジモジしていたけど、あれは何だったんだろう?
「ブロロロロ……」
「え、何どうしたのはなちゃん? ちょっと目が怖いよ」
何も分かってない、と言いたげなはなちゃんで僕はあることを思い出した。
「そうだ、ルナちゃんに僕の気持ちもちゃんと伝えないとっ」
あの戦いの最中での告白だったし、誕生祭のドタバタもあったから、ルナちゃんにまだちゃんと返事ができてないんだ。
それもあってかここ何日かルナちゃんと少しギクシャクした感じになってるんだよね。
本人はいつでもいいって言ってたけど……。
そんなことを考えながら僕はルナちゃんがいるはずの幌馬車に振り向いてから、懐の小箱を取り出して眺める。
「うん、これでいいんだよ。きっと。ルナちゃんもビックリするぞ……」
*
ルナはロゼちゃんと一緒の幌馬車で、膝を抱えて悩んでいました。
勢い余って告白したのはいいんですけど、それからドタバタしちゃって先に進めていないんです。
当のユウキくんは王都を救った英雄として表彰されたりなんだったりで、すごく忙しそうだったのでルナも返事は急がないと言ったのですが。
「うう~、やっぱりモヤモヤします~!」
膝小僧にグリグリと顔を押しつけるルナに、ロゼちゃんは手を添えてこう言いました。
「心配は無用ですわよルナちゃま。ユウキちゃまもきっと貴女の告白に対して真剣に答えてくれるはずですわ」
「それは分かっているんです。だけど、う~やっぱり気になっちゃいます~!」
どうしようもないルナを、ロゼちゃんは優しく抱きしめてくれます。
「よしよし。ルナちゃまの恋に幸あれ、ですわ」
村に着くまでの数日間が、ルナにとってはとてつもなく長く感じました。
*
村にもうすぐというところで、ロゼちゃんとはここでお別れすることに。
「楽しい旅でしたわ! またお会いしましょう!」
「うん! 元気でねロゼちゃん!」
「ユウキ殿も達者でなぁ!」
「はい、領主様!」
お互い笑顔で手を振りあったところで、僕たちは村への道をたどることに。
ちなみにさっきまでロゼちゃんと一緒だったルナちゃんも、直前でこっちに乗り換えたよ。
「ねえ、ルナちゃん」
「な、なんですかユウキくん?」
僕がちょっと声をかけただけでも、ルナちゃんはポッと顔を真っ赤にしてしまう。
やっぱりルナちゃんには最高のタイミングで気持ちを伝えてあげないと!
「村に着く前にちょっと二人で寄り道しない? ――いいですよね、セレナさん?」
「ははーん、ゆー君もイカすね~」
あのー、セレナさんニヤニヤしてるけど、何か誤解してません?
「それじゃあ僕たちはちょっと森に寄り道しますね!」
「いってらっしゃ~い」
「行こう、はなちゃん」
「パオ」
セレナさんたちとも別れた僕は、ルナちゃんと一緒にはなちゃんの背中に揺られてあの森に。
「ユウキくん、どうして森に?」
「ねえルナちゃん。僕たちが初めて出会ったのってどこだったか、覚えてる?」
「確か……、この森の中でしたね!」
「そう! だからね、僕もルナちゃんと初めて出会った思い出の森で気持ちを伝えようと思うんだ」
「ユウキくん……」
口許を押さえて早くも目をうるうるさせるルナちゃん。
「着いたよ」
ルナちゃんをエスコートしてはなちゃんから下りたのは、ちょうどキレイな泉がある地点。
「あのね、ルナちゃん」
「はい、ユウキくん」
「「…………」」
うう、やっぱり緊張するよ~!
「ブロロロロ……」
それを見かねたのか、はなちゃんが鼻で僕の背中を押してくれた。
「ありがと、はなちゃん。――早速だけどルナちゃん、この前は僕に気持ちを伝えてくれてありがとう。勇気を出してくれたんだよね、僕とっても嬉しかった」
「いえ、あの、ルナはその……!」
スカートの裾をギュッとつまんでモジモジするルナちゃんに、僕はとっておきの思いを伝えた。
「僕も、僕もルナちゃんのことが大好き。愛してるよ、ルナちゃん」
差し出した小箱をパカッと開けると、ルナちゃんがお目々を星のようにキラキラと瞬かせる。
「これは……指輪、ですか!?」
「僕も指輪のことはさっぱりだから、最高のを選べたかは分からないけどね」
僕が選んだのはきれいにカッティングされた小さなダイヤの指輪だ。
ホントはもっとダイヤの部分が大きいのもあったんだけど、僕にはさすがに敷居が高かったんだよね。
「だから僕の思いと一緒にこの指輪をルナちゃんにあげるよ。ほら、左の薬指を出して」
「は、はいっ。……なんかこれ、まるで結婚みたいですね」
「うっ」
どうしよう、分かっていたはずなのに急に恥ずかしくなってきちゃったよ!!
プルプル震える指でルナちゃんの左薬指に指輪を通したら、ルナちゃんが飛びつくように抱きついてきた。
「はい! ルナもユウキくんが大好きです! これからもよろしくお願いしますね、ユウキくん!!」
そんなルナちゃんを、僕は優しく抱き返してあげる。
「うん。僕たちはいつまでも一緒だよ」
「パオーン!」
隣ではなちゃんが僕たちをお祝いするように鼻シャワー。
「きゃっ! 冷たいです~!」
「あはは、はなちゃんってば~!」
「ブロロロロ」
そう、僕はこの異世界で本当に大切なものを見つけたんだ。
《完》
異世界に転移したらお気に入りのぬいぐるみが本物のゾウになっちゃった! 月光壁虎 @geckogecko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます