王都アル・デ・バラン

アル・デ・バラン到着


 しばらくしてルナちゃんとロゼちゃんの二人が戻ってきた。


「二人で一体何を話してたの?」

「あ、あのっ、それは……」


 何気なく訊いてみたけどルナちゃんはモジモジしていて様子が変。


 すると背後からセレナさんの手が僕の肩に置かれた。


「ゆー君、今はあんまり詮索しない方がいいと思うよ」

「そうなんですか、セレナさん?」

「お姉ちゃんの勘だとあれは……」

「お姉ちゃん! それ以上はダメです~!」


 頬を赤らめたルナちゃんに咎められて、セレナさんは舌を出しておどける。


「それもそうだね。これ以上はお姉ちゃんが介入するのも野暮だから、あとは二人に任せたよ~」


 快活にそう言ったセレナさんが離れると、ルナちゃんがたどたどしく言葉を紡ぎ始めた。


「あ、あの。ユウキくん、ルナは……その……」

「ん? どうしたのルナちゃん、顔が赤いよ?」


 僕が顔を寄せると、ルナちゃんの顔が火を吹いたように真っ赤になってしまう。


「や、やっぱり無理です~!」

「ルナちゃん! ……行っちゃったあ」


 一目散に逃げていくルナちゃんを見届けて、僕は呆然としてしまった。


 一体どうしたんだろう……?


 すると今度はジト目なはなちゃんが僕の肩に鼻を置いた。


「ブロロロ……」

「え、今度は何?」


 何か言いたそうなはなちゃんだけど、残念ながら僕には伝わらなくて。


 それから簡単なお昼を済ませたところで、僕たちは改めて王都アル・デ・バランに向かって進むことにした。


 元の大きさに戻ったはなちゃんに乗る僕だけど、ルナちゃんはセレナさんの馬に乗ることにしたみたい。

 それではなちゃんの背中に乗っているのは僕一人。


 そんな僕たちと並走する馬車からロゼちゃんが顔をのぞかせたので、僕は質問することにした。


「ねえねえロゼちゃん、ルナちゃんと何を話してたの?」

「それは秘密ですわ。でもルナちゃまの口からちゃんとお話しされると思うので、それまでお待ちくださいまし」


 うーん、ロゼちゃんも教えてくれないかあ……。



 胸にくすぶる疑問を抱えながら進むこと二日、僕たちの前に巨大な外壁が見えてきた。


「あれが王都アル・デ・バランだ」


 領主様が言うんだから、あの壁の向こうに王都があるんだね。


 壁に近づくに連れて、同じ方向や逆の方向に向かって移動する馬車がちらほらと増えてくる。


 大きなゾウのはなちゃんを見た人たちがビックリするのはもういつものお約束。


「私が先に行こう」


 そう言った領主様の馬車が先へと進んで門番と話をすると、王都に通じる入り口が開かれた。


「さあ進もう、王都はすぐそこだよユウキ君」

「はいっ」


 領主様の馬車に先導されながら僕もはなちゃんに進んでもらうと、そこには異世界に来てから今まで見たことないような規模の都市の光景が目に飛び込んだ。


「わ~、すっごーい!」


 のっぽな時計塔を中心に広がる、歴史あふれる石造りの建物の数々。


 それだけじゃない、たくさんの町行く人々も普通の人間だけじゃなくて獣人やエルフなど今までに見てきた人種がパッと見ただけでも揃っているんだ。


「これが王都……!」

「すごいです~!」

「すっげぇ~!」


 隣を見ればいつの間にか並走しているセレナさんとベイルガードさんの馬から、ルナちゃんとワイツ君が身を乗り出して目を輝かせている。


 相変わらず巨大なはなちゃんが注目を集めるなかで領主様の先導で向かったのは、大理石のような石で作られた豪華なホテルだった。


「ここにルナたちが泊まるんですか……!?」

「すげえ! めちゃくちゃ豪華じゃねーか!」


 豪華ホテルを前に口に手を添えて目を丸くするルナちゃんと、興奮を隠せないワイツ君。


 正直僕もあまりの豪華さに言葉が出ないよ。


 ホテルに入る前に、はなちゃんにはあのブルーマッシュを食べさせて身体を小さくしてもらう。

 道中で何度も欲しがってたもんね。


「ピュオ、ピャオ!」


 嬉しそうにじゃれつくはなちゃんに、僕は思わず尻餅をついてしまった。


「本当に嬉しそうだね、はなちゃんも」

「も~、セレナさんも感心してないで助けてくださいよー!」


 それから僕たちはそれぞれの部屋に案内されたんだけど。


「うわあ……広いな~!」


 白を基調とした空間に大きなベッド、それから天井にはシャンデリアまで。


 ワイツ君とベイルガードさんの二人と同じ部屋なんだけど、今までの宿とは比べ物にならないくらい広くて豪華だよ。


「うっひょー、すっげ~!」


 歓声をあげて早速大きなベッドに飛び込むワイツ君。


「なあ父ちゃん、騎士になったらこんなところにも泊まれるのか!?」

「どうかなあ、父さんだってこんなところに泊まるなんて滅多にないことだぞワイツ」


 楽しそうに語り合うワイツ君とベイルガードさんの親子。


 僕にも本当の家族がいたらなあ……。


 そんなことを思って少しうつむいてたら、ワイツ君が僕の肩に腕を回してくる。


「どーしたんだよユウキ、そんな浮かない顔して。何か不満でもあんのか?」

「ううん、なんでもないよワイツ君。ほら、僕にははなちゃんもいるし」

「ピュオ?」


 膝に寄りかかるはなちゃんに不思議な顔をされちゃった。


 まるで何を今さら、みたいな感じかなあ?

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