王都観光

 翌朝早めに目覚めたらはなちゃんが小さいままだったので、早めにはなちゃんを外に連れ出すことにした。


 これならブルーマッシュの節約になるよね。


 だけど思いもしなかった難関があったんだ。そう、階段。


 上るときは何の問題もなかったはなちゃんだけど、下るときに尻込みしちゃうみたいで。


「ほらはなちゃん、おいで。怖くないから」

「ピュロロロロ……」


 僕が干しブドウを使って誘ってみるけど、はなちゃんは段差に尻込みして下りようとしない。


 うーん、困ったなあ……。


 するとルナちゃんとロゼちゃんが寝間着姿で出てくる。


「ふあ~、ユウキくんおはようです……」

「そんなところでどうなさいましたの?」

「実はね、はなちゃんを小さいうちに外へ連れ出そうと思ったんだけど階段を下りようとしないんだよ」

「まあ、それは困りましたわね」

「ルナもお手伝いします!」


 口に手を添えるロゼちゃんに、両腕をふんすと構えるルナちゃん。


「そうだ、二人とも力を貸してよ。三人で力を合わせればはなちゃんを運び出せるかもしれない!」

「それは面白いアイデアですわね!」

「ルナも賛成です!」

「それじゃあ!」


「「「せーのっ!」」」


 三人で声を合わせて小さなはなちゃんを担ぎ上げようとする、だけどはなちゃんは小さくてもまだ重くて持ち上げるので精一杯。


「ん~っ!」

「重いですね……!」

「息を合わせて運び出そう!」

「「「いっち、にっ、いっち、にっ」」」


 三人でさらに力を振り絞り、僕たちはやっとの思いではなちゃんと一緒に階段を下りることができた。


「はあ、はあ……やっと下ろせた……!」

「朝からとんだ重労働でしたね……」

「でもこんな体験も新鮮でしたわ」


 そこからはなちゃんを外に連れ出したその直後、はなちゃんの身体が元の大きさに戻ったんだ。


「ぎ、ギリギリセーフ……!」

「パオ」


 息を切らす僕たちに、はなちゃんがのっしのっしと歩み寄って長い鼻で労を労ってくれる。


「良かったよ、はなちゃんを無事に外に出せて」

「くすぐったいです~」

「やはりはなちゃまは大きい姿が一番ですわ」

「パオ」


 はなちゃんの足元で大の字に寝そべっていたら、ロゼちゃんのメイドであるアリシアさんが呼びに来た。


「ロゼお嬢様、そんなところにいらっしゃったのですね。皆様が朝食をお待ちですよ、着替えてお向かいくださいませ」

「これはいけませんわ! ユウキちゃまにルナちゃま、急いで戻りましょう!」


 飛び起きたロゼちゃんに触発された僕たちは、慌てて部屋に戻って着替えて、朝食に急ぐ。


 ホテルの食事は朝から豪華で、僕も大満足だった。


 国王の誕生祭は数日後というわけで、僕とはなちゃんとルナちゃんとワイツ君とそれからロゼちゃんは、セレナさんとベイルガードさんの付き添いで買い物がてらアル・デ・バランの観光をすることにした。


 まず僕たちが向かったのは、パーティー用の服を見繕ってくれるっていうお店。


「これがドレス屋さん……!」

「アトラスシティーの服屋さんとは全然違います……!」


 そのお店も大理石で造られたガラス張りのおしゃれな建物で、僕とルナちゃんはそれだけで圧倒されてしまう。


「さ、皆様入りましょ」


 ロゼちゃんに先導されてお店に入ると、中は高級そうな間取りだった。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件で?」

「それじゃあこの三人にパーティー用の正装を見繕ってくれる?」

「かしこまりました、少々お待ちくださいませ」


 セレナさんの注文で、タキシード姿のお兄さんたちに僕とルナちゃんとワイツ君はそれぞれ別のスペースに案内される。


「それでは採寸させていただきますね」


 そう言うなりタキシードのお兄さんが僕の身体にメジャーを添えて採寸し始めた。


 うう、メジャーが身体に当たってくすぐったいし、なんかちょっと恥ずかしいかも……。


 それから見せられたカタログの中から服装を一つ選んで、僕たちはお店の外に出た。


「なあ、ルナはどんなドレスにしたんだ?」

「秘密ですっ」

「えーっ、そんなのないぜ~!」


 ワイツ君に対して相変わらず冷たい態度のルナちゃん。

 するとワイツ君が僕の肩を肘で小突く。


「ユウキ、おまえならルナのドレスを聞き出せるだろ?」

「んー、僕は誕生祭までの楽しみにとっておきたいかな~」

「ちぇーっ。ユウキもつまんねーのっ」

「はっはっはっ、まあそういうことだ。お前も誕生祭を楽しみにしような」


 肩の後ろで腕を組んでそっぽを向いてしまうワイツ君を、ベイルガードさんが抱き寄せる。


 それから僕たちは王都の市場に足を運んだ。


 市場は今まで見てきたのとは比べ物にならないくらい賑わっていて、見たことのないいろんなものも並んでて目移りしちゃいそう。


「わ~、初めて見るものでいっぱいだよ~!」

「すげーぜ~!」

「見てください、見たことないものが売ってますよ!」


 目を輝かせる僕たち三人をよそに、はなちゃんが急に歩みを早めだした。


「はなちゃん?」


 そんなはなちゃんに着いていくと、やっぱり果物売り場にたどり着く。


「わあっ、なんだこのデカブツ!?」


 巨大なはなちゃんの来店に、店主さんは腰を抜かしてぶったまげてしまった。


「ほら、ダメでしょはなちゃん! ごめんなさい、僕の連れが脅かしてしまったみたいで」

「いいよいいよ、ちゃんと主人がいるなら安心ってところだ。で、どれが欲しい?」


 店主さんが早速果物を勧めてくるけど、どれも見たことないものばかりで迷っちゃう。


「えーと、どれがいいかな~?」

「プオ」


 目移りする僕をよそに、はなちゃんはトゲだらけの大きな果物を長い鼻で指し示して即決した。


「こいつを選ぶとはこの動物もお目が高い! これはドリドリの実って言ってな、見た目はこんなだけどクリーミーな食感と甘みで美味しいんだ!」

「そうなんだ! ――セレナさんお願いします」

「もー、しょうがないなあ」


 後から追い付いてきたセレナさんにおねだりして、僕はドリドリの実を一つ購入することに。


 おねだりするはなちゃんにドリドリの実を渡すと、はなちゃんはそれを足で踏んで割ってみせた。


「パオ」

「え、くれるの? 自分より先に僕に分けてくれるなんて珍しいね」

「プオ」


 ドリドリの実のかけらを受け取った僕は、その白い果肉にかぶりつく。


「んんっ!? なにこれすっごくおいしい!!」


 口に入れた途端に広がる、濃厚でクリーミーな甘み。


 こんなの食べたことないよ!


「それは何ですかユウキくん?」

「俺の分もあるよな?」

「わたくしたちにも分けてくださいまし!」

「もちろんだよ、みんなで食べよう!」


 合流したルナちゃんたちにもドリドリの実を分けて、僕たちは極上の甘味を味わったんだ。

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