ルナちゃんの恋心

 その後も魔物との遭遇が繰り返し起きたけど、その都度セレナさんたちがやっつけてくれた。


「全くいくらなんでも魔物と遭いすぎじゃないっすか?」

「やっぱりおかしいルン」


 違和感を覚えるクーガさんとラルンさんの二人、それとは対照的にアッシュさんはなおも猛っている。


「上等じゃねえか、これでこそ戦いがいがあるってもんだぜ!」

「アッシュったら相変わらずなんだから……」


 どこか楽しそうにさえ見えるアッシュさんに、セレナさんはやれやれとばかりに肩をすくめていた。


 そんなセレナさんが今度は僕たちのいる馬車に馬を並べて、幌を覗き込む。


「それよりもゆー君たちは大丈夫?」

「はい。セレナさんたちが戦ってくれてるおかげで、僕たちは無事です」

「それなら良かったよ」


 僕の返事で安堵の息をつくセレナさん。


 そのまま進んで昼過ぎになった頃だった、僕たちはいつものように川辺で休憩を取ることにしたんだけど。


「ピュオ!?」

「あれ、はなちゃん!?」


 急に光ったと思ったらはなちゃんがググクと元の大きさに戻ったんだ。


「ブルーマッシュの効き目が切れたんだね」

「ブロロロロロ……」


 名残惜しそうに長い鼻を揺らすはなちゃんを、僕はぎゅっと抱きしめる。


「小さい姿も可愛いけど、僕は大きなはなちゃんが一番好きだよ」

「ブロロ……パオ」


 抱きながら顔をすり寄せる僕の身体に、はなちゃんは鼻を絡ませた。


「やはりユウキちゃまとはなちゃまは大の仲良しさんですのね」

「そうだねロゼちゃん」


 ニッコリ微笑んだかと思ったら、ロゼちゃんはなんか浮かない顔をしてポロっと漏らす。


「わたくしもはなちゃまくらいにユウキちゃまと仲良しになれるでしょうか?」

「僕はもうなってると思うけどなあ」

「ほ、本当ですの!?」

「うん。ロゼちゃんも僕の大切な友達だよ」

「う、嬉しいですわ……! こんなこと言ってくれる年の近い人は今までいませんでしたのに……」


 なんでだろう、ロゼちゃんの顔がほんのり赤い気がするなあ。


「ユウキくんってばもう、誰にでも優しすぎるんです」

「ん、ルナちゃん何か言った?」

「な、何でもないです!」


 ぶっきらぼうにルナちゃんはプイッとそっぽを向いてしまう。


 どうしたんだろう?


 ふとロゼちゃんがルナちゃんの肩に手を添えてこんなことを。


「ルナちゃま、ちょっとよろしいですか?」

「は、はい」


 するとロゼちゃんはルナちゃんを連れてこの場を離れてしまった。


「どうしたんだろう……?」

「パオ」


 僕の肩に置かれるはなちゃんの鼻。

 何か言いたそうだけど、何だろうな……?



 ロゼちゃん、急にルナの手を引いてどうしたんでしょうか?


「ロゼちゃん、一体何ですか!?」

「ここなら誰もいませんわ」


 ロゼちゃんにルナが連れてこられたのは、川をほんの少しさかのぼった先にあった林の中。


 ロゼちゃんはルナをジーッと見てこう言いました。


「ズバリお聞きしますわ、ルナちゃまはユウキちゃまのことが好きでなくって?」

「えっ、うそ!?」


 ロゼちゃんの見透かしたような緑色の目に、まさかそんなことを聞かれるとは思わなかったルナはビックリしてしまいました。


「その反応、図星ですわね」

「いえいえ! ルナはその~!! ……はい、ルナはユウキくんが好きです、大好きなんです」


 ロゼちゃんにウソはつけませんね。


 諦めたルナは、ロゼちゃんに本当のことを打ち明けることにしました。


「それは初めてユウキくんと会ったときのことでした。――」


 それからルナは話しました。


 初めて見るゾウという大きな動物さんに乗って、ルナのピンチに駆けつけてくれたユウキくん。


 初対面の彼は下着一枚で、それなのにルナを助けてくれました。


 それからユウキくんとはいろいろありました。


 笑いながら一緒に水遊びしたり温泉に入ってくれた愉快なユウキくん。


 シーフゲッコーの女王クイーンにさらわれたルナを助けるために、はなちゃんと一緒に立ち向かった勇敢なユウキくん。


 迷子になったレインボーフェニックスの雛ピッピちゃんの面倒を一緒に見てくれた、優しいユウキくん。


「――この数ヵ月でいろいろありましたが、ユウキくんの優しいところも勇気のあるところも少し乙女心に鈍感なところもルナは大好きなんです」


 なんででしょう、こうしてユウキくんのことを話すだけでルナの胸がキュンとしめつけられるなんて。


「ルナちゃまは本当にユウキちゃまのことが大好きでいらっしゃいますのね。とても素敵な恋だと思いますわ」

「恋だなんてそんな! ……ユウキくんにはルナの気持ちなんて半分くらいしか伝わってないんです。ユウキくんは誰にでも優しくて、それで……」

「――それで、ルナちゃまはユウキちゃまに自分のことだけを見ていてほしいのですわね?」


 ロゼちゃんに本当の心を看破されて、ルナはビクッとしてしまいました。


「それならルナちゃまの本当の気持ちをユウキちゃまに伝えてみるのはいかがですこと? 彼ならルナちゃまの気持ちに応えてくれるはずですわ」

「どうしてそんなことが分かるんですか……? ロゼちゃん、ルナよりも年下のはずなのに……」

「わたくしも貴族ですから、幼いなりにいろんな人の顔を見てきましたわ。でもこんなに分かりやすいのはルナちゃまとユウキちゃまの他にはございませんことよ」

「そうなんですか……」


 やっぱり貴族の娘はいろいろと経験されてるんですね……。


「でもっ、ロゼちゃんだってさっきユウキくんと仲良くなりたいって言ってたじゃないですか!」

「それはそれ、これはこれ、ですわ。人様の恋を邪魔するほど無粋なつもりではなくってよ」


 やっぱり大人びてる、ルナはロゼちゃんに対してそう思いつつ自分の子供っぽさ加減が嫌というほど実感してしまうんです。


「やっぱりロゼちゃんには敵いませんね。ルナはまだまだ子供です」

「そうでございます? ルナちゃまほどのまっすぐな心はわたくしにはありません、羨ましいくらいですわ」

「ロゼちゃん……!」


 それからロゼちゃんはルナの手をぎゅっと握ってこう言いました。


「ですからわたくしにもルナちゃまの恋を応援させてくださいまし」

「ありがとうございます、ロゼちゃん。ルナにも自信がわいてきそうです」

「その意気ですわ。……ですが焦ることもないと思いますわよ。ユウキちゃまならいつでも待ってると思いますので」

「はい。ルナも自分の心を整理してから気持ちを伝えたいと思います」


 こうしてルナにも心強い仲間ができました。


 待っててくださいユウキくん、いつかルナの本当の思いを伝えますので。

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