小さなはなちゃんとの旅路

 朝起きてルナちゃんたちと合流したところで、僕たちはヒアデス村を出発することになった。


 それで小さくなってるはなちゃんを元の大きさに戻そうとレッドマッシュをあげようとしたんだけど、はなちゃんはそれを食べようとしない。


「どうしたのはなちゃん? ほら、これ食べて元の大きさに戻ろうよ」

「ピュロロロ……」


 レッドマッシュを押し付けようとしても、はなちゃんは頑として口を開けようとしなくて。


 困ったなあ、これじゃあ僕たちはなちゃんに乗れないよ。


 この様子にロゼちゃんがこんなことを言った。


「もしかしたらはなちゃま、この大きさが気に入ってるのではなくて?」

「ピャオ!」

「まあ、やっぱりそうでしたの。よしよし」


 小さくなった身体をすり寄せるはなちゃんを、ロゼちゃんは優しくなでる。


「確かにこの大きさならこうしてじゃれあえますもんね」

「それもそうだけどルナちゃん、これじゃあ僕たちはなちゃんに乗って行けないよ?」


 なんか嬉しそうなルナちゃんに僕がうなだれていると、領主様がこんな提案をしてきた。


「それならユウキ君たちも我々の馬車に乗るといい」

「え、いいんですか?」

「ああ。元より広さに余裕のある馬車だからな、ユウキ君たちくらい余裕で入るだろう」

「あ、ありがとうございます」


 快活に笑う領主様に僕は感謝すると、ロゼちゃんが僕の腕に身体を寄せてきた。


「今日もユウキちゃまとご一緒できますわね」

「う、うん。そうだねロゼちゃん」


 急に身体を寄せてきたロゼちゃんに戸惑っていたら、さらにルナちゃんも頬を膨らませて僕の手を掴む。


「ロゼちゃんだけズルいです! ルナもユウキくんの隣がいいです!」


 両側から可愛い女の子に迫られて、僕は照れ臭いようなむずがゆいような不思議な感覚に襲われた。


「けっ、ユウキの奴ちょーしに乗りやがって」

「お~、ゆー君相変わらずモテモテだねー!」


 面白くなさそうににらんでくるワイツ君と、面白がって茶化すセレナさん。


「そんなんじゃないってば~!」

「ほら、さっさと行くぞ」


 アッシュさんが一声あげてくれたところで、僕たちは改めてヒアデス村を出て王都アル・デ・バランに向かって進みだした。


 領主様のご厚意で馬車に乗せてもらった僕だけど、慣れない馬車の揺れにちょっと気分が悪くなってしまう。


「うう……っ」

「大丈夫ですか、ユウキくん?」

「心配してくれてありがとう、ルナちゃん。だけど僕は大丈夫だよ、この揺れにもすぐ慣れると思うから」


 心配してくれるルナちゃんの前でちょっぴり強がる僕に、小さなはなちゃんは申し訳なさそうに上目遣い。


「ピュロロロ……」

「大丈夫だよはなちゃん。ほら、小さな身体でいたいんでしょ?」


 はなちゃんも心配してくれるんだね。


 そんなはなちゃんの背中を僕はなでて感謝を伝える。


「でも不思議ですわね、ユウキちゃまは馬車以上に揺れるはなちゃんの背中にいつも乗ってらっしゃるのに」

「ロゼちゃん、馬車の揺れとはなちゃんの揺れは違うんだよ多分。まあはなちゃんの揺れにもすぐ慣れたんだし、馬車も大丈夫でしょ。――ちょっと外でも見てるね」


 馬車の窓から外を覗くと、はなちゃんの背中の上とはまた違う高さでの風景が目新しく見えた。


 馬車も馬車でなんかいいかも。


 そんなことを思っていたら、馬車が急停止したのかガクンと大きく揺れた。


「うわあ!?」


「きゃあっ!!」


 とっさにルナちゃんと抱き合って縮こまる僕に、領主様がこんなことを告げる。


「魔物だ!」


 え、魔物!?


 馬車の窓を開けて外を見てみると、ダイヤウルフ

の群れが道でたむろしていた。


「ガルルルル……!」

「グルルルルル!」


 恐ろしげな唸り声をあげるダイヤウルフたちに、僕は今まで感じたことのない悪寒を感じてしまう。


「大丈夫ですかユウキくん、身体が震えてますよ?」

「え、そうなのルナちゃん!?」


 そっか、今までは大きなはなちゃんがいてくれたから魔物なんて怖くなかったけど、今はそうじゃない。


 今さらだけど僕個人のか弱さを実感してしまう。


「領主様、我々にお任せを!」

「ああ、頼んだぞ」


 領主様の護衛たちが剣を抜いて、ダイヤウルフの群れに立ち向かっていく。


「俺らも行くぜ!」

「ちょっとアッシュ! ……んもう、しょうがないなあ! クーガ、ラルン、わたしたちも行くよ!」

「おうっす!」

「ルン!」


 先走るアッシュさんに続いて、セレナさんたち三人も前線に出た。


「ピャオ!」


 するとはなちゃんが小さな身体のままで外に出ようとしたものだから、僕は慌てて止める。


「ダメだよはなちゃん! 今のはなちゃんじゃ戦いないよ!?」

「ピュオ……」

「わたくしたちは護衛の皆様を信じて、大人しくしてましょ」


 ロゼちゃんの言う通り、今は馬車の中で危険が去るのを大人しく待つしかないんだ。


 幸いなことにセレナさんたちがダイヤウルフの群れを難なく退けたことで、馬車は再び進むことができるようになる。


「ピュロロロ……」


 はなちゃんは浮かない顔してるけど、大丈夫かなあ……?

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