レインボーフェニックス
*
一方セレナは魔物がやってきたという方に駆けつけていた。
「ひどい……!」
向こうの前方で燃え盛る村の家々を前に、彼女はギリリと歯を噛みしめる。
この辺りでちょうど村の戦士たちと巨大な鳥の魔物が対峙しているのが見えた。
「あれはまさか、レインボーフェニックス……!?」
七色の羽を身にまとう巨大な鳥の姿に、セレナはその名前を口にする。
以前の仕事で小耳に挟んだ噂でも出ていた、強力な魔物。
話に聞いていた通りレインボーフェニックスが巨大な翼で羽ばたくたび、炎が次々と燃え移っていく。
「全員矢を放て! 魔法の準備もだ!」
セレナの父親であるゲイツの指揮を元に弓兵が矢を放ち、村の魔法使いたちも様々な魔法攻撃を仕掛けた。
「ピイイイイイギュルルルルルル!!」
しかし矢も魔法もレインボーフェニックスには届かない。
その羽ばたきで全て跳ね返してしまうのだ。
それどころか次なる羽ばたきで戦士たちまでもが吹き飛ばされてしまう。
「うわあああああ!!」
「なんて化け物なの……!?」
その圧倒的な力を前に、セレナは唖然とする他ない。
それもつかの間、レインボーフェニックスは村の外にある森の方へ飛んでいく。
「ルナとゆー君たちが危ない……!」
森の木々を焼きながら飛んでいくレインボーフェニックスを、セレナは追うことにしたのであった。
*
いつの間にか僕がはなちゃんに連れてこられていたのは、最初に転移した場所の森だった。
ここまで来てやっと落ち着いてくれたはなちゃんが、僕を優しく地面に下ろす。
「急にどうしたの? こんなところに連れてきてどうするのさ?」
「ブロロロ……」
たしなめる僕から目をそらすはなちゃん。
「でもまあ、はなちゃんも火が怖かったんだよね。僕もよーく分かるよ」
そう言って僕ははなちゃんの顔を優しくなでてあげた。
はなちゃんだって火に包まれて転移したんだ。僕と同じ。
違うのははなちゃんが本物のゾウになったことだけど、今はそんなことどうでもいい。
「はなちゃん、ルナちゃんを探しに行くよ。匂いは分かるよね」
「パオ」
長い鼻を軽くあげてはなちゃんが匂いを探り始める。
今までだってはなちゃんの嗅覚に助けられてきたんだ、今回だってそうなるに違いない。
「パオン!」
匂いを嗅ぎ当てたのか、はなちゃんが一声鳴いて歩みを早めた。
「はなちゃん待ってよ~!」
慌てて後をついていくと、突然女の子の悲鳴が耳に届いた。
「きゃーーーーー!!」
この声はルナちゃん!? やっぱりこの辺りにいるんだ!
急いで駆けつけると、ピッピちゃんを抱えたルナちゃんが五人のオークに囲まれているのが目に飛び込んだ。
「ブヒヒヒヒ」
「イヤ、来ないで~~っ!!」
下劣な笑みを浮かべて歩み寄るオークに、ルナちゃんは腰を抜かして今にも泣きそうになっている。
あれ、こんな光景前にも見たような……?
「パオオオオン!!」
そんな場面でオークとルナちゃんの間に、はなちゃんが巨体を割り込ませる。
「ブヒ!?」
「ズオオオオオ……!」
突然の乱入に驚くオークの前で鬼の形相を浮かべるはなちゃんは、すぐさま正面のオークに突進した。
「パオオオオン!!」
「ピギィ!?」
はなちゃんの体当たりで、オークが吹っ飛ばされて近くの木に叩きつけられる。
だけど前と違うのは残りのオークたちが怯む様子を見せず、それどころか逆上したかのように棍棒を振りかざして突っ込んできた。
「ブヒィ!!」
「ブヒブヒブヒブヒ!!」
その気迫にさすがのはなちゃんも一瞬足を止めてしまう。
「はなちゃん、危ない!」
僕も慌てて駆けつけようとしたけど、巨体のオークが邪魔で思うように近づけない。
「ズオオオオオ!!」
はなちゃんが強靭な鼻を振り回して応戦するけど、オークたちは怯むことなくはなちゃんを取り囲む。
「はなちゃん!」
「プオ!」
一声あげたはなちゃんが目を向けたのは、すっかりフリーになったルナちゃんたち。
そうだ、まずはルナちゃんを助けないと!
「ルナちゃん! こっち!」
「へ!? ちょっと、ユウキくん!」
すかさずその華奢な肩に腕を回した僕は、ルナちゃんを連れて一旦この場を離れることにした。
「ユウキくん! はなちゃんから離れて大丈夫なんですか!?」
「はなちゃんなら大丈夫、きっとすぐにオークたちをやっつけて追いかけてくれるはず!」
そう、あの時はなちゃんはきっと「ここは任せて!」と伝えようとしたんだ。
だったら僕もはなちゃんを信じる!
ルナちゃんと寄り添って僕は全速力で森の中を走って、少し離れたところに避難した。
「はあ、はあ、はあ……!」
膝に手をついて息を切らしていると、ルナちゃんも息を切らしながら問いかける。
「はあ、はあ……どうしてルナを……? ……やっぱりお姉ちゃんに言われて、ですか?」
「それもあるけど、僕自身ルナちゃんが心配だったから、だよ」
少したどたどしく説明すると、ルナちゃんがこんなことを。
「……ごめんなさい」
「ルナちゃん?」
うつむいて謝るルナちゃんに、僕はキョトンとしてしまう。
「ルナも薄々分かっていたんです。ピッピちゃんと暮らし続けるのは無理なんだって。だけど認めたくなかった、だってルナが面倒を見るって決めたんだもん!」
「ピィ……」
「ルナちゃん……」
「やっぱりダメ、ですよね。意地張っちゃってお姉ちゃんにまでひどいこと言っちゃって。ルナは悪い子です……!」
気がつくとルナちゃんは嗚咽を漏らして涙をボロボロこぼしていた。
「ルナちゃん……」
なんとかしてあげなくちゃ、そう思うけど僕はどうしていいか分からなくて。
すると抱えられているピッピちゃんが、ルナちゃんの頬に嘴をすり寄せた。
「……ピッピちゃん?」
「ピィ……」
「ありがとうございます。慰めてくれてるんですね」
「ピィ!」
なんだかよく分からないけど、ルナちゃんはピッピちゃんに元気づけられたみたい。
「それじゃあ帰ろうよ」
このタイミングで僕が手を差し出してみたけど、ルナちゃんは手を取るのをためらう。
「……ですけどピッピちゃんはもう……」
「大丈夫だよ、僕も一緒にセレナさんを説得するから。ね? きっと心配してるよ、セレナさん」
「……分かりました。ユウキくんはやっぱり優しいですね」
僕の手を取ったルナちゃんは、再び微笑みを見せていた。
「それじゃあまずははなちゃんを迎えに……」
その時だった、急に暗くなった頭上を見上げたら。
「な、何ですかあれは……!?」
瞳を震わせて僕にぎゅっとすがり付くルナちゃん。
「ピイイイイイギュルルルルルル!!」
さっきの巨大な鳥の魔物がこっちに来たんだ!
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