燃える戦い

 全身を覆う七色の羽、額には赤い結晶のようなもの。


「レインボーフェニックス……!」


 無意識に僕の口から漏れた、その名前。


 書斎で読んだ魔物図鑑で見たことがある、確か羽ばたくだけで周囲を焼き払う強力な魔物。

 そんなのがどうしてここに……!?


「ピイイイイイギュルルルルルル!!」


 耳をつんざくけたたましい声をあげてズン!と着陸するレインボーフェニックス。


 その背後は図鑑に書いてあった通り、木々がメラメラと燃えている。


「あ、あ、あ……!」


 火、火、火、火……!


 恐怖で目の前がぐらつくところに、後ろからルナちゃんの声が届いた。


「ユウキくん!」


 その声で僕は我に返る。


 怖がってる場合じゃない、僕がルナちゃんたちを守らなくちゃ!!


「うおおおおおおおお!!」


「無茶です、ユウキくん!!」


 がむしゃらに突っ込む僕だけど、次の瞬間にはレインボーフェニックスに嘴でつまみ上げられてしまう。


「うわああああ!!」

「ユウキくん!!」


 軽く投げ飛ばされ地面に叩きつけられた僕の目の前に、パチパチと火花を立てて燃える草が。


 慌てて身体を起こした時には、レインボーフェニックスがルナちゃんに迫っている。


「ピイイイイイギュルルルルルル!!」


「ルナちゃん、危ない!!」


 僕が声をあげるけど、ルナちゃんは逃げようとしない。


 それどころかピッピちゃんを抱きしめながら、レインボーフェニックスをぎっ!とにらみつけている。


「ピィイ! ピィイ!」

「ピッピちゃん落ち着いてください! ルナがあなたを守りますから!」


 レインボーフェニックスの前で盛んに鳴くピッピちゃんをぎゅっと抱いて、ルナちゃんは守るという意志を示していた。


「ピイイイイイギュルルルルルル!!」

「ひいいっ!?」


 けたたましい声をあげるレインボーフェニックスに、ルナちゃんは怯んで引き下がってしまう。


 だけどルナちゃんはそれでもピッピちゃんを守ろうと、手を前にかざした。


「これ以上来ないでください……!」


 そう静かに、だけど意志の強さを感じさせる口調のルナちゃんが、足元で何か魔法陣みたいなのを形成し始める。


 あれは、ルナちゃんの魔法!?

 僕も初めて見るけど……!


「――インパクト・フラッシュ!!」


 そう叫ぶや否や、ルナちゃんの手のひらから強烈な閃光が放たれた。


「ピギュル!?」


「うわあ!!」


 まばゆい光で目の前が真っ白になる。


 チカチカする目をこすって見通してみると、ルナちゃんが力なく横たわってるのが目に飛び込んだ。


「ルナちゃん!!」

「えへへ、慣れない魔法は使うものじゃないですね……。ルナもう動けないです……」


 弱々しい口調のルナちゃんに歩み寄るのは、レインボーフェニックス。


 そんな、ルナちゃんの魔法が全然効いてないなんて!


「ルナちゃん!!」


 僕が呼びかけてもルナちゃんはピッピちゃんを抱いたまま動けない。


 そんなルナちゃんに、レインボーフェニックスはおもむろに近寄ろうとする。


「ルナちゃーーーーーーん!!」


 もうダメかと思った次の瞬間、炎の向こうから巨大な影が駆けつけて、レインボーフェニックスに体当たりした。


「パオオオオ!!」


 トランペットのような声をあげてレインボーフェニックスを突き飛ばしたのは、他でもないゾウのはなちゃんだった。


「はなちゃん!」

「パオ!」


 僕に気づくなりはなちゃんが鼻をあげて一声あげる。


 その身体をよく見ると、分厚い皮膚がブルブルと震えていた。


 はなちゃんだって怖かったんだ、それでも勇気を出してここまで来てくれた!


「よーっし!」


 頬を叩いて気合いを入れ直した僕は、はなちゃんに駆け寄って指示を出す。


「はなちゃん、一緒にあのレインボーフェニックスを追い払おう!」

「パオン!」

「アクア・スプラッシュ!」


 まずはなちゃんの背中に乗った僕は、頭に思い浮かんだ魔法を叫んだ。


 するとはなちゃんの鼻から水が噴水のように吹き出して、周りの火を一瞬で消火した。


「さすがです、はなちゃん……!」


「いくよはなちゃん!」

「パオーン!」


 僕の号令ではなちゃんがレインボーフェニックスに突進する。


 ズン!と巨体同士がぶつかり合い、僕にも鈍い衝撃が伝わった。


「ズオオオオオオ!!」

「ピイイイイイギュルルルルルル!!」


 それから巨体同士の押し合いが繰り広げられる。

 だけど力比べならはなちゃんに敵うものなんていない!


 僕の期待どおりはなちゃんが強靭な鼻の一撃もぶちかまして、レインボーフェニックスをのけぞらせた。


「ピイイイイイギュルルルルルル!!」


 だけどレインボーフェニックスも負けじと巨大な翼を羽ばたかせて熱風を起こしてくる。


「マジックシールド!」

「パオン!」


 僕の指示ではなちゃんが耳を大きく広げると、ピンク色の障壁が熱風を防いだ。


「いっけえええ!!」

「ズオオオオオオ!!」


 はなちゃんが再び突撃しようとした、その時だった。


「ピィイ!」


「ピッピちゃん、そっち行っちゃダメぇ!!」


 ルナちゃんからすり抜けたピッピちゃんが、レインボーフェニックスの前を遮るように躍り出たんだ。

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