怪鳥襲来
あれから三日、ピッピちゃんはルナちゃんのお世話でぐんぐん元気になっていったんだ。
「きゃ~! ちょっと、ダメでしょピッピちゃ~ん!!」
隣の部屋でルナちゃんの悲鳴が聞こえてくる。
「大丈夫!?」
僕も駆けつけると、ルナちゃんの部屋は嵐でも通りすぎたかのようにめちゃめちゃになっていた。
「また……?」
「あ、ユウキくん! 聞いてくださいよ、ピッピちゃんったら最近イタズラがひどいんです!!」
ぷんすこと膨れっ面になるルナちゃんに、僕は苦笑するしかなくて。
ピッピちゃんを保護してからというもの、こんな調子でルナちゃんは部屋をめちゃめちゃにされているんだ。
「ていうかルナちゃん、またピッピちゃん大きくなってない?」
「ユウキくんもそう思います? 最近ピッピちゃんがやんちゃすぎて困ってるんですよ……」
そう言うルナちゃんの足元で、ピッピちゃんはバツが悪そうにうずくまっていた。
そこへやってきたのは、この日は休みを取っていたセレナさん。
「ふぁ~あ~、おはようルナ。どうしたの、こんな朝っぱらから?」
あくびをしながら部屋に入るセレナさんを見るなり、ピッピちゃんが羽を膨らませて威嚇モードに入る。
「ピギィ……!」
「あれ、ピッピちゃん? どうしたの一体?」
ピッピちゃんの変化に不思議そうな顔をするセレナさん。
昨日まではセレナさんを見ても威嚇なんてしなかったのに、どうしたんだろう?
そう思っていたのもつかの間、ピッピちゃんが口からセレナさんに向かって何かを吐き出した。
あれは火の玉ぁ!?
「お姉ちゃん危ない!!」
だけどセレナさんは落ち着き払った様子で火の玉を手でかき消した。
「ピィ~! ピギィ! ピギャア!!」
そんなセレナさんにピッピちゃんは敵意剥き出しといった感じにけたたましく鳴いている。
「ルナ、その子をここに置いとくのもう限界なんじゃない?」
「え、限界って……?」
「だってその子、魔物の子供だよ?」
厳しい目をしたセレナさんからの思わぬ言葉に呆然とするルナちゃん。
「そ、そんなはずはありません! ピッピちゃんは可愛いピッピちゃんです、魔物だなんてあり得ないです!!」
「本当にそう思う? だってもうその子をもて余してるじゃん。毎日のように部屋を荒らされて、お姉ちゃんそれでも今まで大目に見てたけど、今に至っては火の玉まで吐いてきた。さすがにもう一緒に暮らすのは無理があるんだよ」
「でも、ピッピちゃんの額には魔結晶なんてないですよ!」
必死で反論しようとするルナちゃんだけど、それさえもセレナさんにはあっさり論破されてしまう。
「ないんじゃなくて隠れてるだけ。魔物はね、子供のうちは魔結晶が外から見えないこともある。だけど魔力までは隠せない、お姉ちゃんには分かるの」
「そんな……!」
唖然とするルナちゃんをセレナさんは優しく、だけど厳しさも込めて諭し始めた。
「ルナの気持ちも分かるよ。だけど悪いことは言わない、……ピッピちゃんを手放しなさい」
「――いや。ピッピちゃんはルナの家族なんです! 手放すなんてできません! お姉ちゃんのバカあ!!」
泣きながら吐き捨てるとルナちゃんはピッピちゃんを抱きかかえて部屋を飛び出してしまう。
「待ちなさい、ルナ!」
セレナさんが慌てて追いかけようとするけど、ルナちゃんはもう玄関から出てしまっていた。
「ルナ……!」
そう漏らしたセレナさんが扉の枠を拳で打ち付けるところを見て、僕は思った。
セレナさんもルナちゃんのことを思って心を鬼にしたんだ。
だけど当のルナちゃんには伝わらなかった、それで無念なんだ、と。
「セレナさん、僕がルナちゃんを探しにいきます! はなちゃんの嗅覚があればすぐに見つかりますよ!」
「そうだね。お願い、ルナを連れ戻して」
僕の手をひしっと握るセレナさんの頼みに、僕は責任の重大さを感じる。
その時だった、村のどこかから爆音が鳴り響いた。
「うわあ!?」
「一体何!?」
「――大変だ! 村に鳥の魔物が攻めてきた!!」
うちに駆けつけてきた村人の血相を変えた報告に、セレナさんはあごをなでて呟く。
「鳥の魔物、まさか……」
「セレナさん?」
「お願いゆー君、すぐにでもルナを連れ戻して。もちろんピッピちゃんも一緒に!」
僕の肩を掴んで頼み込むセレナさんに、僕は戸惑ってしまう。
「だけど鳥の魔物が……」
「だからだよ。ここはお姉ちゃんが食い止めるから、ゆー君は早く!」
「は、はい!」
そうしておうちから駆け出した僕は、東の空に巨大な影を目の当たりにした。
七色に輝く羽をまとった巨大な翼。
その姿はまるで伝説の鳥の鳳凰かフェニックスを思わせる。
「ピイイイイギュルルルルルル!!」
けたたましい雄叫びをあげながら巨大な鳥の魔物が翼を振り下ろすだけで、村の家々に火が燃え移る。
「あわわわわ……!」
村を焼く炎を見て、僕は過去の記憶が思い起こされて震え上がってしまった。
火、火、火、怖い、怖い、怖い!!
「馬鹿野郎! そんなところで突っ立ってたら死ぬぞ!!」
逃げてきた村人の罵声で、僕は逆に我に返る。
そうだ、ルナちゃんを連れ戻さないと!
じゃなきゃルナちゃんが危ない!!
慌ててはなちゃんの元に駆けつけると、その彼女までパニックに陥っていた。
「パオオオン!! プオオオオオン!!」
「落ち着いてはなちゃん! 僕だよ!」
大声で呼びかけた僕を、はなちゃんは鼻で抱えて走り出す。
「え、ちょっと! どこ行くの~!?」
気がつくと僕ははなちゃんによって、森へと連れ去られていた。
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