ルナちゃんと二人で温泉へ!

馴染んできた異世界での日常

 異世界に転移してから半月、僕もこの村での生活にすっかり馴染んでいた。


 はなちゃんのうんこを使った肥料の開発が完了した今、村の作物がグングン育つようになって村のみんなからすごく喜ばれている。


 その使用料が農協ギルド経由で入ってきて、僕はそのお金のほとんどをレイス一家に納めているんだ。


 ゲイツさんは必要ないと言っていたけど、僕も今までのお礼はしたかったからね。

 といっても大体ははなちゃんの膨大な食費に消えてるはずだけど……。


 それだけじゃなくてはなちゃんの噂を聞きつけたアトラスシティーの冒険者ギルドにスカウトされて、冒険者という名の何でも屋もやるようになった。


 この日はアトラスシティーの近郊で新しい土地の開拓をはなちゃんと一緒にやっている。


 具体的には木を押し倒したり邪魔な岩をどける仕事かな。

 はなちゃんのパワーがあれば、未開の場所も簡単に切り開くことができる。


「ありがとう、いつも助かるよ」

「いえいえ、僕たちの力が役に立って何よりですよ」

「パオン」


 夕方頃に仕事を完了させてギルド経由で報酬を頂いたところで、僕は家に帰ってセレナさんから読み書きを教えてもらう。


 驚くことにこの世界の文字は見た目が違っても文法とかが馴染みのある日本語そのものだったんだ。

 だから一度一つ一つの読み方さえ分かっちゃえば後は早い。


「すごいよゆー君! こんなに早く覚えちゃうなんて天才なの~!?」

「いや~、それほどでもないと思うんだけど」

「そんなことないよ! だってこの村にはいくら勉強してもなかなか覚えられない子だっていっぱいいるんだよ!?」

「そ、そうなんだ」


 この世界の読み書きって、そんなに難しいのかな……?


 まあ僕の場合は元の世界での基礎的教養があるから難しく感じないのかもね。


 そして晩ごはんの前に僕はルナちゃんと一緒に、はなちゃんを川に連れていく。


 最初のうちは朝だけやっていたはなちゃんの水洗いだけど、働くようになってからは夕方もやるようになっていた。


 ルナちゃんと二人で握るデッキブラシで、はなちゃんの大きな身体をゴシゴシ洗う。


「お二人とも最近は毎日頑張ってらっしゃいますよね、すごいです」

「ルナちゃんのおうちに居候させてもらってるんだもん、これくらいは当然だよ」

「パオン」


 僕の持論にはなちゃんも気持ち良さそうに鼻をあげて同意すると、ルナちゃんはうつむいてこんなことを。


「……最近忙しくて、こうして二人でいられるのも朝夕のこの時間くらいですね」

「そうだね」


 そう漏らすルナちゃんの顔はどこか寂しそうで、元の世界での僕にどこか重なるようだった。


 ママの帰りが遅くても僕は平気だとは思っていたけど、本当はやっぱり寂しかったのかもしれない。


 そう考えたらルナちゃんに同じ思いはさせたくない!


「そうだ、ルナちゃん!」

「どうしたんですか? 急に大きな声を出してっ」

「明日は僕もまだ仕事をとってないから、二人ではなちゃんに乗ってどこかへ行こうよ!」

「え、いいんですか?」

「もちろんだよ! 僕もルナちゃんとの時間を大切にしたいと思ったんだ」


 僕がそう言うと、ルナちゃんはぽっと頬を染めてからこう答えた。


「あ、ありがとうございます! ユウキくんがルナのこと大切に考えてくれて、とっても嬉しいです」

「えへへ。約束するよ。それじゃあ指切りしよっか」

「ゆびきり?」


 僕が小指を差し出すと、ルナちゃんはキョトンとした顔をする。


 あれ、この世界って指切りないのかな?


「あのねルナちゃん、僕の元いた世界では小指を絡めて呪文を唱えることで約束をするんだ」

「そうなんですか、それは面白いです!」

「それじゃあやろっか。呪文はね、こんなだよ」


 指切りの言葉を教えたところで、ルナちゃんも白い小指を差し出して、僕たちは二人で指切りをした。


「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーますっ、指切った!」」


 指切りを交わしたところで、僕たちはおうちに帰る。




 翌日、いつものように朝のはなちゃん水洗いを済ませたところで、僕とルナちゃんははなちゃんに乗って外出することに。


 出発しようとしたとき、駆け寄ってきたセレナさんにこんなものを渡された。


「ゆー君、これ!」

「これは……ナイフ?」


 手渡されたのは小ぶりなナイフで、鞘に黄色い模様が刻まれている。


「そう! はなちゃんがいるとはいってもゆー君自身も何か護身できなくっちゃと思って」

「ありがとうございます、セレナさん」

「それじゃあ妹をよろしくね!」


 セレナさんに笑顔を向けたところで、僕は改めてはなちゃんを歩かせ出発した。


「ねえねえルナちゃん、この辺りで行ってみたい場所ってある?」

「はい! ルナ、グリルマウンテンに行ってみたいです!」

「グリルマウンテン?」


 初めて耳にする場所に首をかしげた僕に、ルナちゃんはどこからか簡単な地図を取り出して説明を始める。


「はい! ここから北にある火山なんですけど、煙が上るところがとっても見応えがあるって話なんです! それに、天然の温泉もあるみたいですよ?」

「温泉!? この世界にも温泉があるんだ!」

「はい! そのためにルナも湯浴み着を持ってきました。ユウキくんのもありますよ」


 なるほど、それで普段は持ち歩かない白い布袋を携帯してるんだね。


 そんなことを話しながらはなちゃんの背中に揺られることしばらく、草原が次第にまばらになって荒涼とした荒野になっていくのが見てとれた。


「こんな自然もあるんだね~」

「見てくださいユウキくん、あれがグリルマウンテンです!」


 ルナちゃんが指差した方向を眺めてみると、遠くで煙が立ち上る大きな山が見える。


「あれがグリルマウンテンかあ、火山なんて初めて見るよ~!」


 この雄大な光景に目を奪われながら、僕たちはさらに進んだ。

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