グリルマウンテンへ

 荒野を進んでいると、軽めの鎧姿で武装した集団が通りかかる。


 冒険者パーティーかな?

 ギルドでも似たような人たちをよく見かけるけど、ああやってチームで行動するんだね。


 そんなことを思っていたら、先頭の男の人が僕に向かって手を振った。


「おお、君は巨獣使いのユウキではないか!」

「あ、アレックスさんじゃないですか! こんにちは!」


 顔馴染みの人だったので、僕も挨拶を返す。


「ユウキくん、この人たちのこと知ってるんですか?」

「ルナちゃん、この人たちは僕と同じギルドに所属している冒険者パーティーの皆さんだよ」

「やっぱりお知り合いさんでしたか! ルナです、よろしくお願いします」


 手を合わせて納得しつつペコリと自己紹介するルナちゃんにも、アレックスさんは挨拶をした。


「おや、連れの嬢ちゃんもいたのか。巨獣使いがなぜここに?」

「あ、うん。今日はルナちゃんとグリルマウンテンまでお出かけなんです」

「グリルマウンテンか。奇遇だな、我々もギルドの仕事でそっちに向かうところなんだ。――こらこら、ちょっかいかけないでくれよ」


 はなちゃんに長い鼻でちょんちょんとつつかれて、アレックスさんはくすぐったそう。


「こらこら、ダメだよはなちゃんっ。それはそうとアレックスさんたちもグリルマウンテンに用があるんですか?」


 はなちゃんをたしなめつつ僕が質問すると、アレックスさんが説明を始めた。


「最近この辺りで家畜の雌牛ばかりが姿を消すという、奇妙な事件が相次いでいるんだ。それで俺たちが調査に来たってわけだ」

「そうですか。おじさんたちも調査頑張ってくださいね」


 僕の代わりにルナちゃんが応援の言葉をかけると、アレックスがニカッと笑う。


「ありがとよルナちゃん。それじゃあ巨獣使いのあんちゃんと一緒にこの先気を付けな」


 そう残して冒険者さんたちは先を進んでいった。


「それにしてもユウキくん、巨獣使いなんて呼ばれてるんですね」

「いや~、はなちゃんといつも一緒にお仕事してたらいつの間にかそう呼ばれるようになっちゃってね」

「優しいユウキくんにとてもよく似合ってると思いますよ」

「ありがとうルナちゃんっ。僕たちも行こっか」

「はいっ」


 ルナちゃんが微笑んだところで、僕たちもグリルマウンテンに向かって進み出す。


 頬をなでる乾いた風で広大な荒野に想いを馳せていると、ふとはなちゃんが鼻をあげて匂いを嗅ぎ始めた。


「どうしたのはなちゃん?」

「プオン」


 返事をしたはなちゃんは、歩くスピードを徐々に速めていく。


「もしかしたら温泉が近いのかもしれないですよ、ほら!」


 ルナちゃんの言うとおり、グリルマウンテンはすぐそこまで迫ってその雄大さをこれでもかと誇示していた。


「大きいね~」

「はい! はなちゃんでさえちっぽけに思えてしまいますね」

「ブロロロロ……」


 もしかしてはなちゃん、ちっぽけと言われて機嫌損ねちゃった?


 そんな彼女の背中をなでて、僕はフォローをいれてあげた。


「はなちゃん、お山にはそりゃあ大きさで勝てないよ。でも君には山にはないものをいくつも持ってるじゃない」

「……パオ」


 どうやら納得はしてくれたみたい。


「ユウキくんは本当にはなちゃん思いなんですね」

「僕にとっては一番古いお友達だからね。まあ昔はずっとぬいぐるみで、こっちが一方的に接することしかできなかったけどね」


 でも今は違う、僕がこうして言葉をかければ今のはなちゃんは返してくれる。


 そう思うと僕の胸がポカポカと温まるようだよ。


「もちろんルナちゃんも同じくらい大事な大事なお友達だよ」

「そうですね」


 僕の言葉にルナちゃんは笑みを浮かべながらも、ちょっとがっかりした感じの雰囲気を出してるように見える。


 時々変なんだよねルナちゃん、どうしたんだろう?


 さらにしばらくはなちゃんの背中に揺られていると、お昼になったところでようやく天然の温泉がいくつもあるっていう場所にたどり着いた。


「はわ~、温泉です~!」


 あちこちで湯気をもくもくと立てて湧き出る天然の温泉に、ルナちゃんはすみれ色の瞳をキラキラと輝かせる。


「これが天然の温泉か~! ……でももう先客が入ってるのばかりだね」


 ちょうどいい湯加減の温泉は大体冒険者か旅人たちが既に陣取っていて、僕たちの入る余地はない。


 かといって誰も入ってないような温泉はグツグツと泡を立てて熱すぎるものか、逆に泡一つ立たずに冷たそうなのしかない。


「僕たちもいいお湯のを探さないとね」

「はい。温泉楽しみですっ」


 入れそうな温泉を求めてグリルマウンテンのふもとをうろうろしていた時のことだった、一際湯気の濃い温泉で調子外れな歌声が聞こえてくる。


「は~、ビバビバノンノン、ビババンバン~」


「この声って……」

「間違いありません、フランさんの声ですね」


 気になって行ってみると、案の定濃い湯気の向こうでへりに細い腕をかけて気持ち良さそうなフランちゃんの姿があった。


「おお、誰かと思えばユウキではないか! 奥にいるのは確か……」

「ルナですっ」

「そうじゃそうじゃ、わらわの姿を見ただけでしょんべんちびったルナじゃな!」

「しょんべんちびった、は余計ですっ!!」


 フランちゃんの口から出たあんまりな言われに、ルナちゃんは膨れっ面。


「まあよい。よければお主らも一緒に入らぬか? 気持ちいいぞ」

「……冗談だよね?」


 だってフランちゃんが浸かってるお湯は大粒の泡がグツグツを通り越してボコボコとマグマみたいに沸き立っていて、どう見ても人が入るには熱すぎるんだもん。


「カッカッカッ! 人間はやはり柔じゃのう!」

「フランちゃんが丈夫すぎるんじゃ……」

「仕方あるまい、お主らにも浸かれる温泉を探すのを手伝おうかの。探しとるんじゃろ?」


 そう言うとフランちゃんはすくっと立ち上がって、一糸まとわぬ褐色の素肌をためらうことなく見せた。


「わわっ!?」

「見ちゃダメですっ!」


 背後からルナちゃんに目隠しされるけど、僕の脳裏にはフランちゃんの裸がしっかりと焼きついてしまっていて。


 華奢ながらも均整のとれたしなやかな身体つきと、健康そうな褐色の肌。

 胸にはぷっくりと膨らんだおっぱいがあって、その真ん中には薄いピンク色のちく……ゴニョゴニョが色づいている。


 あわわわ、僕初めて女の子の裸見ちゃったよ……!

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