はなちゃんの秘密?
はなちゃんの落とし物
*
翌朝目を覚ますと、外からゲイツさんのすっとんきょうな声が聞こえてきた。
あの方向は羊たちがいる囲いだ、どうしたんだろう?
昨日買ってもらった新しい服に着替えて外に出ると、困ったような顔したはなちゃんが出迎えてくれた。
「おはようはなちゃん」
「ブロロロロ……」
その長い鼻に抱きついてみたけど、はなちゃんは落ち着かない様子で。
「とりあえず行ってみよっか」
「パオ」
はなちゃんも連れて羊たちのもとに向かうと、囲いの中で一ヶ所だけ僕たちの背丈を超えるほど長く伸びた草が目に飛び込んだ。
「あれは!?」
「おおユウキ君、来てくれたか」
「大変ですユウキくん! あの辺りだけ草がものすごく伸びてます!!」
現場に立ち会わせていたゲイツさんとルナちゃんは、目を白黒させて驚愕を隠せない様子。
「どうしたんだろう? ……ん、はなちゃん?」
「ブロロロロ……」
なぜか目をそらすはなちゃん。
もしかしてはなちゃんと何か関係があるのかも?
「とりあえず調べてみようよ」
「そうですね。こんなこと初めてですからっ」
「何かの前触れでなければよいのだが……」
ルナちゃんたちも一緒に僕は草が異常に伸びている場所に行ってみる。
それから少し草をかき分けてみると、根本に何か青臭い塊があるのを見つけた。
「これは……うんこ、ですね」
「「うんこ!?」」
僕の答えをゲイツさんたちが復唱する。
ルナちゃんはそれを言った直後恥ずかしそうに口をつぐんでいたけれど。
「はい。この大きさ、多分はなちゃんのうんこです。――おっと?」
すると僕の身体がはなちゃんに引き寄せられた。
「ブロロロロ……」
「え、何? どうしたのはなちゃん?」
じーっと見つめるはなちゃんに、僕は困惑してしまう。
そこへ口を開いたのはルナちゃんだった。
「はなちゃんって女の子なんですよね?」
「うん、多分ね」
「もしかして自分のうん……ごにょごにょ……をマジマジと見られるのが恥ずかしいんじゃないでしょうか?」
うんこと言うのをためらいながらのルナちゃんの推測に、僕はなるほどと思う。
「そうなんだ。ごめんねはなちゃん、僕にデリカシーがなかったね」
「……パオ」
はなちゃんも女の子だもんね。
「しかしどうしてこうなったものか……」
あごをなでるゲイツさんだけど、僕には一つ思い当たることが。
「もしかしてはなちゃんのうんこで草が急成長したんじゃないですかね?」
そういえばゾウのうんこって半分くらい消化されてないから、中に入っていた種がそのままそこで芽吹くこともあるんだっけ。
そうでなくってもゾウのうんこはいい肥料になるだろうから、もしかしたらもしかするかも。
それを説明したら、二人も納得してくれたみたいで。
「なるほど、はなちゃん殿のうんこが肥料になったのであれば、あながち的外れではなさそうだな。しかしそのようなことがありえるのか……?」
「ユウキくんと一緒に魔法でドラゴンをやっつけちゃうはなちゃんですよ、不思議な力の一つ二つあっても不思議ではありません」
はなちゃんに対するルナちゃんの信頼も相変わらず厚い様子。
「だけどはなちゃんがうんこするだけでこんなに草が伸びちゃったら大変じゃないですか……?」
これが数日も続いたらこの辺りが草のジャングルになっちゃうよ。
だけどゲイツさんは何か閃いたみたいだった。
「――待てよ、これを農協ギルドに持ち込めば画期的な肥料として売りに出せるのでは?」
「農協ギルド?」
初めて聞く単語に頭をかしげる僕に、ゲイツさんが説明してくれる。
「農業を主に取り仕切るギルドだ。例えばこの村にいる羊たちも農協ギルドで買ったものでな、他にも農業に必要なものを借りたりもしてる」
「そんな機関があるんですね」
「ああ。それはそうとはなちゃん殿のうんこが新たな肥料になるとしたら、これは馬鹿にできない収入になるぞ!」
「ホントですか!」
まさかはなちゃんのうんこが収入元になるなんて。
僕は驚きで開いた口が塞がらない。
「ああ、本当だ! 私がこの村にある農協ギルドの支部にこのうんこを持ち込めるよう紹介状を書こう!」
「はい! よろしくお願いします!」
「……すごいですね」
男二人で熱くなる僕たちを、ルナちゃんはポカーンとした感じで見ていた。
それから昨日と同じように小川ではなちゃんを洗い終えたところで、僕はルナちゃんに質問する。
「ねえルナちゃん、ワイツ君のおうちってどこにあるか知ってる?」
「ワイツくんのおうちですか……? どうしてそんなことを?」
ワイツ君と聞いて嫌そうな顔をするルナちゃん。
「あのね、昨日グラタンっていうドラゴンをやっつけたでしょ。実はその時ワイツ君も見かけたんだ」
「ワイツ君を、ですか?」
「うん。なんか悔しそうにしてたのがちょっと気になっちゃって。だから僕、ワイツ君にちょっとお話を聞きたいんだ」
僕の思いにルナちゃんは快く了承してくれた。
「分かりました。そういうことならこれから案内します」
「ありがとうルナちゃん!」
こうして僕は家に帰る前に、ワイツ君と会うことにした。
「ここがワイツ君のおうちです」
ルナちゃんが案内してくれたのは、村の奥にある茅葺き屋根の小さな家。
「ワイツくーん、いる?」
僕が扉をノックすると、そこから顔を見せたのはきれいな猫耳の女の人だった。
「あら、ワイツにお客さんかい?」
「あ、初めまして。ワイツ君のお母さんでしょうか?」
「そうだけど、見ない顔だね~」
やっぱりワイツ君のお母さんだった。
「僕は悠希です、よろしくお願いします。あの~、ワイツ君とお話ししたいんですけど、いますか?」
「ワイツなら今は向こうの小山に行ってるはずだよ」
「ありがとうございます!」
ワイツ君のお母さんが彼の居場所を教えてくれたところで、僕はワイツ君がいるという小山に行ってみることにした。
「――それじゃあルナは先に帰ってますね」
「え、ルナちゃんは一緒に来ないの?」
「イヤですよ、わざわざあんなやつに会いに行くなんてっ」
「そんなにイヤなんだ……」
むすっとするルナちゃんに、僕は苦笑い。
「それじゃあ僕だけで行くよ。――はなちゃんはどうする?」
「パオ」
はなちゃんは一声あげると、僕にすり寄った。
「一緒に来てくれるんだね。それじゃあ行こっか」
「パオン!」
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