ワイツ君の思うところ
はなちゃんの背中に乗った僕は、ワイツ君のお母さんが教えてくれた小山に向かった。
その背中に乗っていればデコボコで歩きづらい山道も歩かなくて済むし、邪魔な枝とかもはなちゃんが鼻でよけてくれる。
「はなちゃんは山道大丈夫?」
「パオ」
僕に目配せしながらうなづくはなちゃんは、山道も全然へっちゃらみたいだね。
この小山も木が生い茂っていて、空気が美味しいなあ。
小鳥たちのさえずる声にも心が清々しくなるよ。
やっぱり東京にはないこののどかさが気持ちいいよね。
そんなことを思っていたら、はなちゃんが長い鼻を掲げているのが目に写った。
「どうしたのはなちゃん?」
「プオ」
そうかと思えばはなちゃんが急に山道を外れて木々が生い茂る山林の中に分け入り始める。
変わらず邪魔な枝を食べてくれるから僕は平気だけど、はなちゃんは歩きづらくないのかな~?
だけどそんなことはなちゃんは相変わらず気にしてないみたいで、むしろ枝とか下草をもりもり食べて楽しそう。
「はなちゃんも本当に食いしん坊だよね~」
「パオン」
背中をパンパンと叩いてあげると、はなちゃんは気持ち良さそうに一声あげた。
それにしてもはなちゃんはどこに向かってるんだろう?
はなちゃんに揺られることしばらく、その答えはようやく分かった。
山林の中で見覚えのある男の子が、枝に吊るした木片に徒手空拳みたいに手足を振るっていたんだ。
あの猫耳と尻尾、ワイツ君で間違いない。
でも何やってるんだろう?
「てやっ、このっ!」
吊るした木片を軽快な身のこなしで攻撃するワイツ君は、集中してるのかこっちに全然気づかないみたい。
すると大きく振れた木片が、ワイツ君のおでこにカツン!とぶつかった。
「あたっ!? ――いってぇ~!」
「――あ」
おでこを押さえて痛がるワイツ君を見て小さく声が出たら、彼と目が合う。
「おまえか。何しに来たんだよ? オレを笑いに来たのか?」
うっとうしそうな感じの目でこっちを見るワイツ君の前で、僕ははなちゃんから降りた。
「違うよ。僕ワイツ君に話したいことがあるんだけど」
「話、って何だよ?」
訝しむワイツ君だけど、頭の猫耳がピクピクと動いているのがなんか可愛い。
「うーんとね、この前ドラゴンが来たときワイツ君があそこにいたのはなんでかな~って思っちゃって」
「……悪いかよ」
バツが悪そうにワイツ君に目をそらされて、僕も気まずくなってしまう。
なかなか難しいな……。
そんなことを感じてたら、ワイツ君が固く結んでいた口を開いた。
「――この前はごめん。ユーキ、おまえを邪険にしたこと謝るよ」
「え? 急にどうしたの?」
「あの時オレには何もできなかった、みんなが戦ってるところを見ていただけだ。でもユーキ、おまえは違う。あのはなちゃんとかいうデカいのと一緒にドラゴンの親玉をぶっとばしたんだ。そんな強いやつをいじめたりするなんて、オレにはできねーよ」
そう伝えるワイツ君はどこか悔しそうで。
「そんな、僕なんて全っ然強くないよ! 実際はなちゃんがいなかったらあんな感じに戦えなかったもん!」
「ユーキ、知ってるか? あーいう動物ってのは自分より強いやつにしか従わねえもんだ。あんな強えー動物を従わせているだけでおまえは充分強いんだよ」
「……それは違うよワイツ君」
「んな?」
きれいな青い瞳を丸くするワイツ君に、僕はしっかり伝えた。
「僕ははなちゃんと友達なんだ、力で従わせているわけじゃない。そこだけは勘違いしないでもらえるといいんだけど」
「そっか。けどそれもおまえの強さだとオレは思うぜ」
「そんなものなのかな……?」
僕が首をかしげると、ワイツ君が握りこぶしを僕の胸にポンと当てる。
「オレも負けねーからな!」
そう宣言したワイツ君の顔はとても清々しく見えて。
「なんかよく分からないけど、僕も頑張るよ!」
「ああ、約束だ!」
気がつくと僕はワイツ君の手を固く握っていた。
ルナちゃんの話で悪ガキみたいなイメージがあったワイツ君だけど、義理堅くて男らしいところがあるんだね。
「――それと、もうルナちゃんに意地悪しちゃダメだよ~!」
「急に何だよ!?」
目を丸くするワイツ君に、僕は言葉を続けた。
「せっかくこんな男らしいところあるのに、しょうもないことでルナちゃんと仲違いするなんてもったいないよ!」
「しょうもないことって……」
「とにかく、ルナちゃんと仲良くしたいなら嫌がることはしちゃダメ!」
僕の心からのお願いに、ワイツ君は頭をかきむしりながらも了承してくれた。
「――ああもうっ、そこまで言うなら分かったよ! それじゃあオレ走ってくるからな!」
「いってらっしゃ~い!」
そう残して山を走っていくワイツ君を、僕は手を振って見送った。
これで僕もワイツ君と友達になれたかな?
ワイツ君、ルナちゃんとも仲直りできるといいんだけど。
「――僕たちも帰ろっか」
「パオ」
はなちゃんと目配せした僕も、ルナちゃんのおうちに帰ることにする。
「――ええっ、あのワイツ君とお友達になったんですか~!?」
おうちに帰ってルナちゃんにさっきのことを話したら、目を見開いてすごくビックリしていた。
「うん。ワイツ君も悪い子じゃなさそうなんだ。結構男らしくてかっこよかったよ」
「それホントですか……?」
ルナちゃんの疑うような目に、僕はちょっとたじろいでしまう。
「だからさルナちゃんもワイツ君と仲直りしようよ。僕からも彼にもう嫌がらせはしないよう言っておいたからっ」
そう言った勢いで僕が手を取ると、ルナちゃんは戸惑いながらも応えてくれた。
「そこまで言うのなら……。分かりました。ルナも幼馴染みのワイツ君といつまでも仲違いするのも気分悪いですもんね」
「うん!」
「わわっ、ユウキく~ん!?」
嬉しさ余って僕はルナちゃんの手を握りながら腕を振る。
みんな仲良しが一番だよね!
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