猫耳のワイツ君
「なんだよおまえ! ルナとベタベタしやがって!!」
はなちゃんから降りて小川から出た僕たちに、猫耳の男の子は縞模様の尻尾をブンブン振ってすごい剣幕。
そういえば猫が尻尾を大きく振るのって、犬とは逆で怒ってるときなんだっけ。
でもあの尻尾、動くってことは飾りじゃなくて本物ってことだよね。この世界には猫耳の人もいるんだ!
おっと、こんなことでワクワクしてる場合じゃない。
「ねえねえルナちゃん、あの猫耳の子って知り合い?」
「はい。ワイツくんっていって、ルナの腐れ縁なんです」
「そこは幼馴染みって言ってくれよ!」
ルナちゃんの説明に、ワイツ君は八重歯を剥いて怒る。
「とにかくっ、今回はルナたちに何の用ですか? また嫌がらせをしに来たんですかっ?」
「そんなんじゃねえよ! たまたまルナが見ない顔のそいつと一緒にいるのを見たから着いてきたんだよ。そしたらおまえ、そいつとイチャイチャくっつきやがって! ふざけんな!」
どうやらワイツ君はルナちゃんと僕が一緒にいるのが気にくわないみたい。
「で、そいつは誰なんだよ?」
「この人はユウキくん。ワイツくんなんかよりもよっぽど優しくていい子なんです~っ」
そう紹介しながらルナちゃんが僕の腕に絡みながら、あっかんべーみたいな感じで舌を出す。
って、これじゃあ僕とルナちゃんが恋人同士みたいじゃん!
もちろんこれを見たワイツ君は顔を真っ赤にしてカンカンになっていた。
「なんだとお!? どこの誰だか知らねーけどムカつくぜ! おいルナ、そいつにくっついてんじゃねーよ!!」
するとワイツ君は掴んだんだ、ルナちゃんの二つに結んだ髪を。
「痛いっ! 何するんですかあ!!」
「いいからそいつから離れろよ!」
「いやっ、やめてぇ!!」
乱暴に髪を引っ張られて悲鳴を上げるルナちゃんを見て、僕もさすがに黙っていられなかった。
「ちょっと! やめなよ、ルナちゃんが嫌がってるでしょ!!」
「おまえは引っ込んでろ、てゆーかこっから消えやがれ!!」
「ううっ」
ワイツ君のすごい剣幕に、僕は思わずたじろいで引き下がってしまう。
すると次の瞬間、背後からはなちゃんが大きな耳を広げて小川から駆け上がってきた。
「パァン!!」
「うわあっ!?」
はなちゃんの剣幕に、ワイツ君はルナちゃんの髪を離して腰を抜かしてしまう。
「ビックリしたあ! なんだよそのデカいやつはあ!?」
「ゾウのはなちゃん、僕の友達だよ」
「なんだよ、やんのかぁ!?」
起き上がるなりワイツ君は拳を構えて喧嘩上等って感じ。
「ズオオオン!」
そんなワイツ君にはなちゃんはこけおどしとして少し突進する。
「うわあ!?」
直前で足を止めたはなちゃんに、ワイツ君はまたビビって後ずさり。
「調子に乗りやがって! こうなったらオレの本気を見せてやる!!」
そうかと思えばワイツ君がなにかぶつぶつ唱え始めた。
「エンチャント・フォース!」
するとワイツ君の身体に白いもやみたいなのがまとわれて、彼は得意気な顔に。
「へへっ、魔法があればそのゾウとかいうやつにも負けねーぜ!」
「――今魔法って言いました!?」
僕は思わずワイツ君に詰め寄った。
「な、何だよ。魔法も知らねーのか?」
「やっぱり魔法なんだ! ねえねえ、僕にも教えてよ!」
「やだねっ。誰がおまえなんかに教えるかよ――」
「ブオン!」
意地悪をするワイツ君に、はなちゃんが大きな耳を広げて長い鼻で攻撃する。
「うわあ!? ――ひいっ」
「ブロロロロ……!」
思い切り突き飛ばされたワイツ君を、はなちゃんは鬼の形相でにらむ。
「お、覚えてろよ~!!」
恐れをなしたのかワイツ君は文字通り尻尾を巻いて走り去ってしまった。
「何だったんだろう……? そうだ、ルナちゃん大丈夫?」
「はい、ルナは平気です」
心配した僕にルナちゃんは乱れた髪を直しながら応える。
「それにしてもひどいことするよね、あのワイツ君って子」
「ホントですよ! 昔っからルナにばっかり嫌がらせをするんです、髪を引っ張ったりルナのスカートをめくったり……、とにかくひどいんです!」
「あっ……」
プンスコと頬を膨らませるルナちゃんの言葉に、僕は似たようなことを思い出した。
そういえば学校でも好きな女の子にばかり嫌がらせをする男子がいたっけ。
その子に構ってほしいんだろうけど、そんなことしてもむしろ嫌われるだけだよね~。
「それに比べてユウキくんは本当に優しいです、さっきもルナのこと助けようとしてくれたんですよねっ」
「う、うん。途中でびびっちゃったけどね……」
はなちゃんが間に入ってくれたから良かったけど、そうじゃなかったらワイツ君を止められなかったかもしれない。
そう考えると僕もまだ弱いのかもな……。
そんなことを思っていたら、ルナちゃんがピトッと肩をくっつけてこんなことを。
「気にすることないですよ。ユウキくんが助けに入ってくれて、ルナは嬉しかったです」
そう言うルナちゃんの顔は、心なしかほんのり赤く染まっていた。
「そうだ、ワイツ君なんだけどさっき魔法って言ってたよね?」
「もしかしてユウキくん、魔法も知らないんですか?」
「うん」
うなづいた僕にルナちゃんは信じられないといった感じで目を丸くする。
そうかと思えばルナちゃんがはっと何かを思い出したように言い出した。
「いけないっ、そろそろ朝ごはんです! 魔法のことは後っ、こうしちゃいられません!」
「それは大変だ! 早く戻らないと!」
僕たちは急いで家に戻ることにした。
家に戻ると、昨日は寝込んでいたユノさんが出迎えてくれる。
「お帰りルナ。朝早くにどこ行ってたのかしら?」
「ただいまお母さんっ。あのね、ユウキくんと一緒にはなちゃんの身体をきれいにしてたんです。……それよりももう大丈夫なんですか?」
「ええ、お母さんならもう大丈夫よ。そのユウキ君がフカミ草を持ってきてくれたんでしょ、お父さんから聞いたわ。おかげでもう元気よ、ありがとねユウキ君」
元気そうにウインクするユノさん。
こうして見ると結い上げられた金髪がきれいだなー、ルナちゃんにそっくりだよ。
「いえいえ、感謝なら後ろのはなちゃんに言ってください」
「そうね。はなちゃんのこともお父さんから聞いてたわ、本当に大きいのね」
「パオ」
好意的な目を向けるお母さんに、はなちゃんも小さく鼻をあげた。
「それじゃあ上がって。朝ご飯もうできてるわよ。ユウキ君も食べるわよね?」
「あ、はいっ。ごちそうになります」
お腹が空いたこともあって僕は遠慮することなく朝ご飯をごちそうになる。
家族みんなで食卓を囲む今回はロールパンとスクランブルエッグみたいな卵料理、それから野菜のスープだった。
早速スクランブルエッグを口に運ぶと、ふんわりとした卵の食感とほのかな甘味が口一杯に広がる。
野菜のスープも風味が豊かで、小川でちょっと冷えた身体が温まるよ。
「美味しい!」
「それは良かったわ~。可愛いお客さんが来てるって聞いたから、腕によりをかけたの!」
「んも~、お母さんはまだ休んでてもいいのに~!」
「そう言わないのセレナっ。お母さんだって寝てばかりだと退屈なのよ」
笑いあいながらおしゃべりをするレイス一家の食卓に、僕もなんだかほんわかとした気持ちになった。
みんなが食べ終わる頃に、ルナちゃんがこんなことを言い出す。
「そうだ、ユウキくんのお洋服を用意してあげないとじゃないですか?」
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