この世界の魔法

 突然のルナちゃんの発言で、レイス一家はうんうんとうなづく。


「確かにいつまでもその格好じゃ、この村で浮いちゃうもんね~」

「でも困ったわ、うちには男の子の服なんてないわよ?」


 確かにレイス一家にいるのはセレナさんとルナちゃんの姉妹二人で男の子がいないから、男ものの服がないのも無理ないよね。


 そんなことを思ってきたら、大黒柱のゲイツさんがこう言った。


「よし、これから町に行ってユウキ君の服を買おう」

「え、いいんですか!? なんか悪いですよ……」

「気にすることなどない、なにせ君はルナとユノの恩人だからなっ」


 ガハハと豪快に笑ってのけるゲイツさんに、セレナさんとルナちゃんも同調する。


「いいね! 私も着いていこっかな~」

「ルナも行きます! ルナもユウキくんと一緒にお買い物したいです!」

「君も娘二人に好かれたもんだな~!」


 ゲイツさんに肩をバシバシ叩かれて、僕は嬉しいのやら痛いのやら。


「それじゃあお言葉に甘えて。ありがとうございま

す」

「ユウキ君って本当に礼儀正しい子ね。セレナも見習ってほしいくらいだわ」

「お母さん、それどういう意味~?」


 セレナさんがぷくーっと頬を膨らませると、みんながドッと笑い出す。


 僕もこの家族に歓迎されてるみたい、いつかこの恩は返さなくっちゃ。


 そう心に決めたところで、僕はゲイツさんとセレナさんそれからルナちゃんの三人と一緒に町へ行くことに。


「行ってらっしゃい、無事に帰ってくるのよ」

「ああ、行ってくるよ」


 見送るユノさんに、馬にまたがったゲイツさんが手を振る。


「それにしてもはなちゃん殿はやはり大きいな。町に連れていって本当に大丈夫なのか?」

「はなちゃんなら大丈夫ですよきっと。だってこの子、とってもかしこいんですから」


 はなちゃんの背中で得意気に胸を張るルナちゃん。


 最初ははなちゃんにもお留守番してもらうつもりだったんだけど、出発しようとしたらついていきたいと言った感じでごねて大変だったんだ。


 結局僕とルナちゃんとセレナさんの三人が乗る形で、はなちゃんも連れていくことにしたってわけ。


 舗装された街道をのっしのっしと歩くはなちゃんはとっても目立つのか、行き交う人たちみんなが驚いていた。


「そういえばさっきワイツ君が魔法をつかってましたけど、この辺りでは子供でも使えるありふれたものなんですか?」


 僕の質問に、ゲイツさんたちは目を点にする。


「この年で魔法を知らないとは……」

「お父さん、そんなこと言わないのっ。――魔法はね、自然の力を借りて火を起こしたり水を出したりするようなのをいうんだよ。火から水、土から風までいろんな自然の力があるわけなんだけど、それを借りるために必要なのが、合い言葉になる呪文と自身の適正ってわけ」

「呪文は分かるけど、適正って?」


 僕の質問にもセレナさんは答えてくれた。


「人によって使える魔法の種類が決まっていて、それを適正っていうんだよ。たとえば私は火と風の魔法に適正があるんだけど、それ以外の魔法は使えないってわけ。ちょっと使ってみよっか?」

「お願いします!」

「それじゃあいくよ~。メイクファイア」


 セレナさんが唱えると、その指先にポッと小さな火が灯る。


「すごーい! これが魔法か~、セレナさんの説明すごく分かりやすいですっ」

「いや~照れるよゆー君~。嬉しいこと言ってくれるね~!」


 感想を告げたらセレナさんが火を消して僕に抱きついてきた。


 わわっ、またセレナさんのおっきなおっぱいがむにゅっと……。

 今回は胸当てをしてないから、その柔らかさがダイレクトに伝わってくる!


「ブロロロロ……」


「え、どうしたのはなちゃん? その目怖いよ」


 街路樹の木の葉を枝ごともいでつまみ食いするはなちゃんの冷ややかなジト目に背筋を冷やしてると、今度はルナちゃんが口を開く。


「ずっと気になっていたのですが、逆にユウキくんはどこから来たんですか? 魔法も知らないとなるとさらに分からなくなってしまいます」

「あ……」


 どうしよう、ルナちゃんたちにはどう説明したらいいんだろう……?


 こことは違う世界から来た、なんて言っても信じてくれるかな……?


 頭を悩ませていたら、はなちゃんが僕に鼻を伸ばしてポンポンと叩く。


「どうしたのはなちゃん?」

「プオオオ……」


 気にしなくても大丈夫、その優しい目はまるでそう伝えようとしているように僕は思えた。


「ありがとう、はなちゃん」

「パオ」


 はなちゃんに背中を押された僕は、ルナちゃんたちに僕の把握している限りを伝えることにする。


「ルナちゃんにセレナさん、それからゲイツさん。自分でも確証はないですけど、実は僕こことは違う世界から迷い込んでしまったみたいなんです」


「「「違う世界……?」」」


「はい。いろいろと事情があるんですけど――」


 それから僕はこの世界に来るまでの経緯を自分なりに伝えた。



「はなちゃんが元はぬいぐるみだったことも驚きですけど、ユウキくんが一度死んでしまっていたなんて信じられないです……」

「正直僕もまだ信じられないんだけど、僕の知る世界では空はこんなじゃなくてもっと青いし、月だって一つしかないんだ。それにね、魔法だって僕の世界だとゲーム……おとぎ話にしかない架空のものなんだよ」


 僕の説明に、ルナちゃんたちは重々しく顔を下げてしまう。


「しかし魔法がないと生活は不便ではないか? たとえば火を起こすのにも魔法なしでやると時間がかかると思うのだが」

「それは問題ありませんゲイツさん。僕の世界では魔法の代わりに科学技術が発達していて、火なんて使わなくてもものを温められますし、夜でも月明かりの何十倍も外を明るくできるんです。むしろある意味ではこの世界よりも便利な世の中だったのかもしれません」

「そう聞くとルナもユウキくんのいた世界を見てみたくなります!」


 興味津々に目を輝かせるルナちゃん。


「あはは、この世界とは違う僕のいた世界にはどうやったら行けるんだろうね。正直僕も帰りかたが分かんないよ」

「あ……っ、すみません。ルナ、うっかりユウキくんを傷つけてしまいました……」

「気にしないでよルナちゃん。僕もこの世界に来たことを受け入れようと思ってるから。それに僕、ルナちゃんのいるここなら案外すぐに馴染めると思うんだ」

「それは嬉しいです」


 ルナちゃんの朗らかな笑顔に、僕の心もポカポカと温まるようだった。


「そろそろ街に着くぞ」


 話していたらいつの間にか街まですぐそこになっていた。

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