街デビューしちゃった!
はなちゃんをゴシゴシ
「コッコケンターーーーー!!」
翌朝、僕はちょっと違和感のある鶏の雄叫びで目を覚ます。
「ん、んん……っ」
身体を起こすと、なんかこの家がゴリゴリいってるのが聞こえた。
それからすぐにルナちゃんの声も届く。
「あのーユウキくん、入ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
僕の返事で部屋に入ったルナちゃんがこんなことを。
「ユウキくん、外を見てください」
困ったような顔のルナちゃんに言われて僕が窓を覗くと、はなちゃんがレンガ造りの家の壁にゴリゴリと身体を擦り付けているのが見えた。
「あ、はなちゃんだ。でもなんかかゆそうにしてるね」
「そうなんですよ。だけどさすがにこれが続くのはちょっとまずいです……」
僕が顔を向けると、ルナちゃんもこくりとうなづいて心配ごとを漏らす。
はなちゃんの巨体で家をゴリゴリやられたら、みんなビックリしちゃうよね。
「そうだ。ねえルナちゃん、この辺りではなちゃんの身体をきれいにできそうなところはない?」
「えーとですねえ、井戸水を組み上げるのではあの大きな身体をきれいにするのも大変そうですし、それならちょうど村の近くに小川がありますよ」
「僕たちをそこに案内してよ」
「もちろんですっ」
「ありがとう、ルナちゃん」
ルナちゃんが小川に連れていってくれることになったところで、僕は早速外に出てはなちゃんに会いに行く。
「はなちゃん! おはよう!」
「おはようございます、はなちゃん」
「パオン!」
僕たちに気づいたはなちゃんが、身体を擦り付けるのをやめてこっちにのっしのっしと歩いてきた。
「身体がかゆいんだよね? ルナちゃんがいい場所を知ってるみたいだから、一緒に行こうよ」
「パオ」
了解したようにはなちゃんが鼻をあげたので、僕たちはルナちゃんの案内で村の近くにあるという小川に向かうことに。
「ねえルナちゃん、大きなブラシみたいなのってある?」
「あるはずですけど、どうしてですか?」
「はなちゃんの皮膚って分厚いから、きれいにしようと思ったらブラシも大きくて頑丈なものじゃないと」
「そういうことなら分かりました。ちょっと持ってきますねっ」
ルナちゃんがデッキブラシを用意してくれたところで村の中を歩いていると、朝もまだ早いのに村人たちがせっせと畑仕事とか羊の世話をしているのが目に映った。
みんながみんな大きなはなちゃんの姿にビックリ仰天してたけど。
その都度はなちゃんが危なくないことを伝えなきゃだったから、ちょっと大変だった。
村を囲う木の柵を抜けたところでしばらく歩くと、すぐにチョロチョロと流れる小川に着く。
「パオーン!」
小川を見るなりはなちゃんが小川に駆け込み、まずは長い鼻を水に浸けて飲み始めた。
「豪快にお水を飲むんですね」
はなちゃんが水を飲む様子を、初めて見たルナちゃんは食い入るように見つめる。
よく見ると鼻でストローみたいにそのまま水を吸い上げるんじゃなくて、一度鼻に含んだ水を口に注いでる感じだった。
鼻で水を吸い上げなんかしたら、頭がツーンとしちゃうもんね。
喉が潤ったのか、続いてはなちゃんが小川の穏やかな流れに足を突っ込んだ。
その瞬間盛大に飛び散る水しぶき!
「わあっ!」
「きゃあ!」
突然のしぶきにビックリしつつも、僕はルナちゃんと顔を見合わせてお互い笑いあった。
「あはは、冷たいね!」
「はい、はなちゃんすっごいです!」
そんな僕たち二人を、はなちゃんは鼻で手招きするような仕草をする。
「そうだ、はなちゃんの身体をきれいにしてあげるんだったね」
デッキブラシを手に取った僕は、靴と靴下を脱いでズボンの裾を捲ってから小川に足を踏み入れた。
「うひゃっ、冷たい!」
川の水はまだ冷たいけど、我慢我慢っ。
僕が小川に入ったのを見届けたはなちゃんが、ゴロンと巨体を横にする。
「それじゃあいくよ」
続いて僕がその大きな背中をデッキブラシでかいてあげると、はなちゃんは気持ち良さそうな顔を見せた。
「ピュルルル~ン」
「気持ちいいんだねっ」
はなちゃんの背中をかいてみると、なんか垢みたいなのがボロボロと流水に流れていく。
これはかゆかったよね……。
「よーっし! はなちゃんの全身をピッカピカにしよう!」
「プオンっ」
気合いをいれてデッキブラシを握ると、はなちゃんはもっともっとといった感じで鼻を振ってみせた。
「ルナもお手伝いしますっ」
するとそこへベージュのブーツと白いタイツを脱いだルナちゃんも、小川に入ってこっちにやってくる。
「ルナちゃん! でもデッキブラシは一つしかないよ?」
「それじゃあこうしましょ」
ルナちゃんはニコニコしながら僕の手を取って、一緒にデッキブラシを握った。
前もそうだったけど、女の子に手を握られるなんて緊張するよ~!
「一緒にはなちゃんのお身体をきれいにしましょう!」
「う、うん!」
ちょっぴり戸惑いながら僕はルナちゃんと一緒に、はなちゃんの全身をデッキブラシでゴシゴシしてあげる。
「きれいにな~れ、きれいにな~れっ」
笑顔なルナちゃんに寄り添うように、僕もデッキブラシでゴシゴシ。
あれ、なんか楽しいな~?
時々はなちゃんの身体に上がってその全身をくまなく磨いていた、その時だった。
「あーもう我慢できねえ!!」
川の近くにあった小さな茂みから飛び出してきたのは、なんと猫のような耳と白黒縞模様の尻尾がついた男の子だったんだ。
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