17、生徒決戦

 バーニングエルの一撃で百以上の怨霊が消失する。


「さすがは天上十六系……」


「よし。あとはお前らに任せたぜぃ」


 なんだ。これなら全部バーニングエルに任せれば一瞬で終わるじゃんーー


「……え!?」


 今、何て言った?

 バーニングエルの一言が意外性に長けていたために、私は声を出して驚いていた。

 この驚きは例えるならば、余裕感を交えた安堵が一瞬で絶望に変わるような、そんな瞬間だ。


 天上十六系という遥か高みから、私達は地上へ落とされたのだ。


「バーニングエル、お前……仕事くらいちゃんとしろよ」


 メイサエル先生はバーニングエルに矛先を向けて怒鳴る。


「仕事はしたいが、生徒たちの強さを見たいんだぜぃ。お前が教えるに値するか確認したいんだぁぁぁああああ」


「お前、まだそんなこと言ってんのか」


「ああ。俺は言うぜぇぇええええええ」


 バーニングエルの厚かましい声に、いい加減私達は苛立っていた。

 そんな中、パンテラは剣を構え、叫ぶ。


「お前ら、残りの怨霊は百体以下。ならば私達で倒してやろうぜ。私達がいつかこの熱血野郎よりも上に行くんだから、この男の力なんか借りなくとも、一掃できるだろ」


 そう宣言したパンテラはかっこよかった。

 同じ女であるはずの私が惚れるほど、凛々しい姿だった。


「見せてやろうぜ。私達の力」


 パンテラは本当に上手い。

 やる気にさせるのが、そして指揮をとるのが。


「全員、迎撃準備。遠距離系の武器を持つ者は後方に、近距離は最前線、中距離は近距離を支えよ」


 パンテラは近距離用の剣。パンテラは最前線に立ち、向かってくる怨霊に武器を構えた。


 怨霊の見た目は多種多様。

 狼のような怨霊や、虎のような怨霊、鳥やなんとも言えない怨霊など、様々だ。


「数が少ない。これならいける」


 パンテラは強く剣を構え、それで怨霊を次々と伐採していく。

 狼の怨霊二体を斬るが、頭上から迫ってきている鳥の怨霊への対処に遅れた。


 その怨霊を弓を持つ遠距離の私が撃ち抜いた。


「リアライゼ、助かった」


「この調子で行こう」


「ああ」


 勢いづくパンテラの横で、チルドレンが二本の刃で無双する。

 右手には剣を構え、左手には槍を構える。白く輝く武器が怨霊を次々と薙ぎ払い、黒い翼で宙を器用に舞う姿は大天使顔負けの動き。


「さすがに弱い」


 たった一瞬で十体の怨霊を討伐した。

 他のクラスメートの活躍もあり、怨霊は残り一体まで減った。


「さて、残るは一体だけど……」


 皆が残る一体の怨霊に注目し、脅えていた。

 残りの一体の怨霊だけが、明らかに他の怨霊とは違う異彩な雰囲気を放っていた。どう考えても普通じゃなさそうな、そんな感じ。


 人の姿はしているが、明らかに人間とは思えない見た目だ。白と黒が交互に混ざり合ったような色合いをし、下半身には長い蛇が巻きついている。


「こいつ……」


「メイサエル、手を出さない方が良いぜぃ」


 先生を、バーニングエルが止めた。


「なぜだ」


「あの怨霊は確かに強いぜ。だがお前の生徒たちは確かに強いぜ。信じて待とうぜ」


「なるほど。なら、まあ待ってみるのもありか」


 バーニングエルと何を話したのかは分からないが、私達と怨霊との戦いに助太刀をする様子はないと分かった。

 つまりもう私達で決着をつけるしかない。


「遠距離、攻撃開始。近距離と中距離は攻撃に備え、迎撃準備」


 遠距離の生徒は三名、私とスコーピオンとエニー。

 矢を放って怨霊を狙い、矢を命中させるが、その攻撃はまるで効いていない。


 矢が体に当たっても、刺さることなく矢は折れて、地に落ちる。

 怨霊は矢を受けながらも平然と歩いてきている。それがまた強者の風格を醸し出し、まだ若い私達に恐怖を与える。


「来るぞ」


 パンテラは怨霊の攻撃に備え、迎撃の構えをする。

 突如怨霊は走り、パンテラの顔面に足を振り上げた。


「蹴り!?」


 拳で来ると思っていたパンテラは、蹴りでの攻撃に一瞬動作が鈍るが、すかさず剣で怨霊の攻撃を防いだ。

 その一撃は吹き飛ばされる程ではなく、パンテラは死ぬ気で食らいつき、耐えた。


「この程度か全員、今の内に攻撃を」


 近距離中距離合わせて十人の生徒の攻撃が怨霊に振り下ろされるーーが、怨霊はまるで無傷。


「嘘だろ。俺達の攻撃が効いてない?」


 レイグレンは驚き、絶句する。

 そんなレイグレンに怨霊は拳を振り下ろす。その一撃を紙一重でチルドレンが槍で受け流した。そこでできた隙を見計らい、チルドレンは右腕で構える剣で怨霊の腹部に激しい一撃を入れた。


 怨霊は声を漏らし、明らかに攻撃が効いたような素振りを見せる。


「今だ。もっと強い一撃を入れてやれ」


 全員で怨霊へ攻撃を浴びせる。

 何十回も攻撃を重ねれば、硬い怨霊の皮膚にも少しずつ攻撃が通るようになっていた。やがて一撃一撃が怨霊にとっては大打撃となり、とどめを刺すようにチルドレンとパンテラが剣を振り下ろした。


「討伐完了。これが私達の力だ」


 所々危ないところはあったものの、なんとか怨霊を倒すことに成功した。

 接戦の末の勝利がその手の掴まれた。


「お前の生徒、なかなかやるぜぃ」


「当たり前だろ。いずれお前ら天上十六系を越えていくんだから」


「へっ。面白いぜぃ。将来に期待ができるぜぃ」


 この日の訓練は終わった。




 今回の一件を、ある人物は密かにも確認していた。

 ーー死神


「生徒たちに封印殿の対処をさせたか。今期は生徒の教育に熱心だね」


 そう呟く死神のとなりで、白いワンピース姿の少女は言う。


「ねえねえ、天使見習いから倒した方が効率が良いんじゃないの?」


「確かにそうだね。でも今期の生徒の中には、厄介な生徒が混じっているんだよ。だからそう簡単に殺させてはくれないかな」


「意外とシラギって甘いよね」


「そうかな」


「殺そうと思えば、厄介な天使見習いだって殺せるだろ。でもシラギは殺さない」


「まあ、少し見ておきたいんだよ。もし周りにいる大先輩の天使たちが大勢死んだら、どんな顔をするのかが。楽しみなんだよ。それが楽しみで仕方がないんだ」


 死神は死神らしく微笑んだ。

 もうすぐ始まる怨霊事変に、始まりの鐘を鳴らすようにーー

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