16、バーニング!!
教室で、私達は遅刻しているメイサエル先生を待っていた。
退屈な時間を、私はチルドレンやパンテラ、テスと話して過ごしていた。
「ーーそうなんだよ。昨日の放課後、知らない人がいきなり先生に襲いかかってさ、さすがにびっくりしたよ」
「まじであれはビビったよな。それにそいつが天上十六系だったんだ」
「て、天上十六系って、あの天上十六系!?」
テスは驚き、身を震わしていた。
「ああ。そうだよ」
「そんな人がこの学校に来るなんて。リアライゼたちはその人に会ったんでしょ」
「羨ましそうに視線を向けられてもな……。会えば分かるけど、本当に熱血過ぎて先生も引いてたよ」
あの先生が引くというのはまあよくあることなのかもしれないが。
それでも私はこれだけは思っていた。
二度とあの人と会うのは嫌だと。だって面倒くさいから。
「えー、でも会いたいな」
「現実は違うぞ。カッコいいなって思って尾行していた男子が、気付いたらその男子も知らない女子を尾行し始めた感じだよ」
「いや……そんな状況に出くわさないし……」
私のイチオシのたとえが効力を発揮しなかったようだ。
萎れた草木のように枯れた私のたとえに、心の涙が降り注ぎ、じんわりと傷を和らげる。
他愛もない会話をしている中で、ようやく先生が教室に戻ってきた。
「先生が遅刻ですか」
一日目、二日目に遅刻した私のように遅刻した先生をいじる。
「リアライゼ、ひとまず席につけ。今日は色々と忙しくなるぞ」
「忙しく?」
何だろう、先生の顔が少し強張っている。
いつもは表情には出さないが明るいのに、今の先生は怪訝な様子だ。その原因がすぐに分かった。
「おい、早く入ってこい」
先生に呼ばれ、一人の男が入ってくる。
「何々?転校生かな」
その男の姿が見える前まで、私はそう思っていた。少なからず、そっちの方が断然良かっただろう。
その期待は容易く砕かれ、入ってきた男を見て私達は落胆する。
「どうもぉぉおお。天上十六系の熱血系担当のバーニングエルだぁぁぁあああああああ」
熱血で、うるさすぎる声が教室に響いた。
皆が耳を塞ぎ、先生までもが耳を塞ぎ、嫌々しさを満面に出していた。
ふとテスを見てみると、嬉しいでもがっかりでもない、何とも言えない表情をしていた。
その表情は明らかに、「思ってたんと違う」と言いたげな表情だ。
「はい。ということで、今日はこの男にサポートをしてもらいながら、怨霊が封印されている場所、通称『封印殿』の消失を行います」
「ふういんでん?」
授業でも習ったことのない言葉に、私達はポカーンとしていた。
しかし唯一チルドレンだけは理解しているのか、先生に物申す。
「先生、まだ二十数日で『封印殿』の消失は重労働過ぎじゃありませんか」
「ああ。だがお前らはこの程度の仕事を軽々とこなせるような一流の天使になるんだろ。だったらごちゃごちゃ言わず取りかかれ」
先生も今回の授業に納得はいっていない様子だった。
チルドレンの発言から今回の授業が相当なものだと分かったが、ふういんでんの意味が未だに分からない私にとっては正直よく分からん。
「文句はあるだろうが、行くぞ。消失させる『封印殿』は天偽国にある小さな場所だ。そこなら安全だから、私とこのうざうるさい男がいれば大丈夫だ」
「ああ。俺がいる限り、誰も死なせないぜぃ」
相変わらず熱血だ。
「それじゃあ武器の準備をしろ。早速『封印殿』の場所に向かう」
結局私達はその場所へ向かうことになった。
そこは天人マンションのすぐ側にある小規模の森。その森の中にひとつ、明らかに色が違い、異様な雰囲気を放っている木があった。
「ああ。これが封印殿ですか」
封印殿は怨霊が封印されている場所のことを指しているのだろう。
だがここを消失って、どうやるの?
「これは先に言っておくべきだから言っておくがーー」
何か重要そうなことを言いそうだ。
「ーー封印殿の消失は、言うなれば封印殿を破壊すること。もし封印殿を破壊すれば、封印殿に封印されていた怨霊は外に漏れ出る。つまり君たち全員戦うことになるよ」
「……え!?」
戦うことは覚悟していたが……え!?
「あとこの封印殿には二百体の怨霊が封印されている。皆、張り切っていこうか」
陽気な先生に対し、私達は不安ばかりだった。
どう考えても敵の数が二百なんて到底太刀打ちできない。弓を構える手が震える。
「大丈夫。俺が必ず護るから」
チルドレンは右手に槍を、左手に剣を構えている。
私やテス、パンテラは安堵する。
「バーニングエル、結界を」
「了解。怨霊を逃がさぬよう、周囲に結界を張ろうかあっぁああああ」
半径二十メートルの巨大な結界が張られた。その結界はこの小規模な森を囲み込む。
「それじゃあそろそろ封印殿を破壊するよ。その瞬間、大量の怨霊が襲いかかるから、皆、気を付けてね」
メイサエル先生は赤く染められた槍を構え、その槍の先端を木に当てた。その木にはぴりぴりと亀裂が走り、全身に亀裂が入ると、木は粉々に砕けた。
直後、大量の怨霊が木から放たれ、私達を襲う。
「二百体の怨霊が……」
その恐ろしさに、私達は手足がすくんで動かない。
「熱血バーニングぅぅううううう」
バーニングエルの拳が怨霊の群れに向けて振るわれた。その拳は火炎をともに連れてくる。
彼の振るった拳に火炎が纏われており、火炎が怨霊を飲み込み、怨霊を次々と消失させていった。
「つ、強い……」
「さあ、燃えてきたぜぇええええ」
たった一度の攻撃で、百以上の怨霊が消失した。
「ーーこれが……天上十六系」
ただの熱血野郎じゃない。
二百体という大量の怨霊を前にしても怯むこと無く、その上その怨霊をたった一撃で倒すこともできるその強さ。
天上十六系、熱血系のバーニングエル。彼の強さは本物だ。
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